教育の未来
「edumottoメンバーと語ろう」TES2024ワークショップ
2024.11.01
教育の未来
2022.03.30
「教育のこれから」の第2号では、東京学芸大学附属竹早中学校保健体育科教員の齋藤貴博先生にインタビュー。いち早く「主権者教育」を体育に取り入れたり、「Education2030」という国際的なプロジェクトにも参加されたり、体育という教科のあり方を探究されています。そんな齋藤先生にスポーツの楽しみ方や体育の意義、これからの体育についてお話を伺いました。
保健体育科の中学校、高校の先生方はもちろんのこと、授業に対する考え方は小学校で体育を教える先生方や他教科を教える先生方も参考になる部分が多くあるインタビューとなっています。ぜひ、ご一読ください!前後編に分けてお伝えします。
インタビュア:松田千皓(C類 言語障害教育専攻2年)松永裕香(A類 国語選修3年)
松田:まず、先生が取り組まれている「主権者教育プロジェクト」の概要を教えてください。
齋藤先生(以下、敬称略。齋藤):大学の先生、現場の先生、さらに中・高生と共に、学校の今とこれからの課題を話し合い、「こんな授業ができたら面白いんじゃないか」とアイデアを出し合うプロジェクトです。
私は「実社会との接点を」をテーマに他教科のつながりや小学校と高校との接点を見出そうと取り組んでいます。この取組では、「Education2030」という、OECD(経済協力開発機構)が2015年に立ち上げたプロジェクトに参加している生徒、学生メンバーとも一緒に、主体的な学びや社会との接点について考えています。
松田:先生だけでなく生徒・学生たちも関わっているのですね。
齋藤:そうです。日本全国の学生や先生方が集まるので、とても面白いです。時には中高生から「正直、体育嫌なんだよね」と、赤裸々な意見をもらうこともあり、それを参考にしたアイディアも生まれます。2週間に1度のペースでオンラインで行っています。
松田:「主権者教育」というと選挙をはじめとする社会科のイメージが強いのですが…。
齋藤:私も当初は体育の授業で主権者教育?という感覚でした。そもそも「主権」と聞くと、「選挙」や「権利義務」などが浮かぶ方が多いと思いますが、意外にも体育の授業に関連付けられるので、社会科以外の教科にも関連することは見出せるなと。
松田:今、目の前にある課題を解決することから始めよう、といったことでしょうか。
齋藤:そうですね。主権者という言葉自体、硬い印象がありますよね。他人事のような感じといいますか。
そうではなくて、今、このクラスの空間や他者とともに取り組む空間における「主権」とは一体どういうことなのかを体育の中で見出そうとしています。さらに、社会科や数学での学びとつながることでさらに深まっていく。こうした相関関係が実現できればと思い、取り組んでいます。とても難しいですけどね。
松田:体育と主権者教育って、期待が膨らみますね。
齋藤:そうですね。教科としては体育、社会、数学の横のつながりを意識しつつ、小中高の縦のつながり、さらに斜めのつながりを見出すということで、「小学校の社会と中学校の体育をつなげる」ことも可能になります。このカリキュラム・マネジメントの視点で今後の学びの深め方や内容、方法など、議論を進めています。
松田:齋藤先生が体育の先生になったきっかけは何でしょうか?
齋藤:実は、もともとは社会科の教員でした。関西の大学で社会学を学んでいて、社会で起きている事象や問題について関心を抱く学生でした。一方で、ずっとスポーツをやっていたこともあり、体育教師への憧れもありましたし、体育には座学から解放される瞬間が唯一あると感じていました。子どもたちと一緒に遊びたいという気持ちも大きかったです。
ですので、大学では社会系の勉強をしつつ、その傍らで保健体育の教員免許をとるための勉強をしていました。しかし、体育を学ぶ時間が足りなかったと思い、大学院では体育と社会の両方を学べる研究室を探していました。すると現在、学芸大学の理事・副学長である松田恵示先生と出会い、そこで社会学にはまってしまいました(笑)。結果、教員一年目は社会科で採用していただき、今に至ります。
松田:ちなみに、何のスポーツをされていらっしゃったのですか?
齋藤:サッカーです!
松田:子どものころから体育の授業はお好きでしたか?
齋藤:好きでしたね。ただ、自分の得意・不得意によって成績が大きく変わることに違和感を感じていました。ですから、単に面白いというだけではなかったですね。
松田:実技と成績の関係に違和感を感じていたのですね。現在の「遊び重視の体育」にしたいと思われたのはいつごろからですか?
齋藤:子どものころから「遊びが大事」という感覚はありましたが、そう思い始めたのは大学院で研究をしてからです。自分が小中高大と体育の授業を受けてきて、監視的に見られたり、テストの結果で「できる・できない」を評価されたり、「それは本質なのか?」と。
松田:子どものころからの思いが大学院で形に?
齋藤:そうかもしれません。社会学では、体育という空間での事柄が、「どういう意味を持つのか」という視点を得ることができました。自分のものの見方は、社会学が物差しになっています。
松田:遊び重視の体育にして、子どもたちにどのような変化が見られましたか。
齋藤:子どもたちの体育への向き合い方が変わり、議論が活発になりました。「話し合ってルールを決めよう」というときに、できなくても意見を言ったり、実際にやってみてから考えたり、参加スタイルが広がりました。主権者教育PJの一環でしたが、主体的に体育に関わろうとする姿がとても印象的でした。
松田:「できなくても意見を言っていいんだ」と思えるのが良いですね。
齋藤:心と体はリンクしているので、やりたいと思わなかったら体は動かない。そこで「スポーツを遊びとして扱おう」と思いました。ちなみに、もともとスポーツの語源(※1)は遊びなんですよ!
(※1)スポーツはdeporatare(ラテン語)、desporter(フランス語)、disport(英語)の語源的変遷が示すように、レクリエーション、娯楽の意に用いられた。(日本大百科全書より引用)
松田:そうだったんですね!
齋藤:面白い文化を継承するために学校でスポーツを扱っているはずなのに、実際は技術の高さが求められています。そこで、私は子どもたちにドキドキ・ワクワクする瞬間を味わってほしいと思い、授業を作っています。そうすることで、必然的に楽しむための話し合いや知識、技能が必要になり、子どもたちも自然と上達していくのです。ただ、中学校や高校では、遊びから離れていってしまうのです…。
松田:中高生にはどのように遊びを提供するとよいでしょうか。
齋藤:教師が遊んでよい空間を作り、そこに進んで入り、子どもを誘い入れることでしょう。子どもが遊びを追求したいと思える空間づくりが大切です。「体育って遊んでいるだけじゃん」って思う人もいるかもしれませんが、私はそれでよいと思います。体育が教育課程にある以上、体育、スポーツの活動を通して、ドキドキ・ワクワクしながら、知識や技能を身に付けてほしいです。
松田:遊びは主体的な授業そのものですね!
齋藤:そうですね!子どもたちが主体的に動いているかは、見ているポイントです。もちろん中にはドキドキ・ワクワクの空間に入れずぼーっとしている子もいます。そういう子ほどサッカーの面白さの本質に気付いて、入り込んだ瞬間は一生懸命動くのです。だから私は、ボールを蹴る技術の有無でなく、「空間の中にどう入ろうとしたか」に注目します。仲間の得点に「ワーッ!」と盛り上がる姿も、しっかり見ていますよ。
松田:評価はどのようになされたのでしょうか。
齋藤:新学習指導要領になって3観点になったのですが(※2)、知識・技能、思考・判断・表現、主体的に取り組む態度はそれぞれ以下の表の通りに評価しました。
議論では、オフサイド、ファール、タックルといったルールが、遊びにどのような意味をもたらすのかを重視させました。その際、「専門用語を理解できているか」や「ルールを分かっているか」を知識・技能の指標に、「何を考えて授業に臨もうとしているか」「問題を発見し、どのように解決しようとしているか」を思考・判断・表現の指標に、「議論にどのように参加しているか」を主体的に学習に取り組む態度の指標にしました。
ノートでは、「何を考えて次の授業に臨もうとしているか」を思考・判断・表現の指標に、「一生懸命に書いているか」「調べ学習や新たな問いなどを見出して書いているか」を主体的に学習に取り組む態度の指標にしました。
授業観察では、サッカーという遊びの構造を視点に「生徒がどのように試合で動こうとしているか」や「試合の中での生徒の変化」を知識・技能の指標に、「アドバイス・分析など、生徒がどのように試合や授業に関わっているのか」を主体的に学習に取り組む態度の指標にしました。正直、評価は難しかったです。
ペーパーテスト | 議 論 | ノート | 授業観察 | |
知識・技能 | 〇 | 〇 | 〇 | |
思考・判断・表現 | 〇 | 〇 | ||
主体的に学習に取り組む態度 | 〇 | 〇 | 〇 |
(※2)新学習指導要領では、従来の「関心・意欲・態度」、「思考・判断・表現」、「技能」、「知識・理解」の4観点から、「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に整理された。
松田:そうなんですね、ちなみになぜ今回はサッカーを選択されたのですか。
齋藤:もともとカリキュラムでやることが決まっていたゴール型のスポーツの中から、「経験者と未経験者の技術の差が大きく開くスポーツで面白い空間を作りたい」と考えサッカーに決めました。「キックをできなくても試合はできる」という学習の深まりや可能性を見出したいという課題意識も影響しました。
松田:技術差が開きやすいサッカーの新たな一歩ですね!
(後半に続く)
取材・文/大島菜々子、徳田美妃、松田千皓、松永裕香
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