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町役場の人に聞いた!地域と学校がつながる探究学習

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みなさんは学校現場で「探究学習」が発展しつつあるのをご存じでしょうか?
今回は「学校と地域が探究学習を通じてつながる」、愛媛県久万高原町(くまこうげんちょう)にある上浮穴(かみうけな)高校の事例を紹介します。この高校は町役場や地域密着型の一般社団法人「ゆりラボ」とともに、机の上を飛び出した探究学習を実施しており、私たちは学習を支える地域側に注目して取材を行いました。

久万高原ってどんな場所?

愛媛県上浮穴郡久万高原町(かみうけなぐん くまこうげんちょう)。県の中央部に位置し、四国山地に囲まれたこの町は「四国の軽井沢」と呼ばれる、自然豊かなリゾート地としても知られている。この自然資源を活用して、町内にはふるさと旅行村のような、農業、文化、観光に関わる施設が多く存在している。産業においては、スギ・ヒノキや冷涼な気候を利用した高原野菜の生産が町の産業を支えている。
町の概要ー久万高原町ウェブサイトより引用)

上浮穴高校(普通科/森林環境科)はこの町で唯一の県立高校。「久万高原町」という身近な題材から総合的な探究学習「くまたん」を実施している。くまたんには地域の企業・教育機関、観光協会なども協力しており、生徒たちは実体験を通した活動が可能になっている。

筆者自身、探究学習は高校時代に経験しているが、くまたんのように地域の特色をいかし、地域の産官学が連携するものではなかった。くまたんは、どういった経緯で誕生したのだろうか。役場のまちづくり営業課の伊藤さんにお話をうかがった。

くまたん誕生までの道のり

くまたん誕生は今から5~6年前。当時の先生が役場に相談に訪れたことがきっかけだ。
「普通科も探究授業を取り入れて、普通科のアピールポイントを増やしたい。生徒の学習のために、地域の人を高校に紹介してほしい」
この言葉をきっかけに、高校内でくまたんの構想及び予算が組まれ、くまたんが誕生した。その後、町の官民連携プラットフォームとして潤沢な人脈を持っている「ゆりラボ」も高校に関わるようになり、生徒の活動の幅が大きく広がった。

「地域と連携して探究授業をはじめたい!」という先生の思いから、役場を起点とした地域から学校へのアプローチが始まったのだ。

地域に広がる探究学習

くまたんでは、地域の課題を解決するためのアイデアが次々と生まれた。しかし、授業の中だけでそのアイデアを実現したり継続したりすることは難しい。そこで、2023年10月、ゆりラボが主導となり、有志の生徒と地域の大人たちが協働して活動できる拠点「放課後ラボ」をスタートさせた。地元企業のスパイス職人と開発した、地域の特産品のきのこを使ったオリジナルスパイスの商品化が実現したり、「全国有数のスギ生産地」である点に着目し、木工が得意な臨時講師とスギで椅子を作ったりするなど、地域の魅力PR に貢献している。

実現まで届かず、燻っていたアイデアの火種に火が点き始めている。

探究学習の様子

くまたんや、くまたんから発展し、有志生徒が参加している放課後ラボによって、久万高原町にはどんな影響があったのだろうか。

「高校生と地域の交流が目に見えて増えました。様々な大人との交流で生徒の表情もいきいきしていますね。最初は関わる大人が先行して意見を出していたのが、次第に生徒側からアクションが増えてきて」
くまたんや放課後ラボでの交流の輪をきっかけに、高校生が地域の行事に参加することも増え、地域の活性化につながり始めたという。

生徒だけでなく関わる大人にも変化があった。
「生徒の力になりたいという気持ちが自然と芽生えていった」
「子どもたちのために、もっと自分にできることはないかなと考えるようになった」
という声があがった。地域の大人が生徒と本気に向き合ってくれる基盤があるからこそ、上記のようなアイデアが実現したのだろう。

生徒、地域の人という垣根を越えて、町に向き合い、考え、実践し、また考える「プレイヤー」として活動できる拠点があること。くまたんや放課後ラボは、生徒のための探究学習であるだけでなく、「町のための」探究学習の拠点になっている。

町のファンになってもらう、クラウド「ファン」ディング

「放課後ラボ」充実化のために、まちづくり営業課は2024年3月末までのクラウドファンディング(CF)を開始した。探求学習のために地域がCFをするとは驚きだ。さらに、このCFは(支援者がそのリターンを受け取ることで終了してしまいやすい)通常の形式ではなく、税額控除があり「地域応援」の意味合いが強い「ふるさと納税」の形式を導入している。町の取り組みに賛同してくれる人を増やし、継続的な探究学習を可能にすることが目標なのだ。

「久万高原町在住でない方にも私達の町のことを知ってもらうことで、久万高原のファンになってもらいたい。将来的には放課後ラボに卒業生を呼んで、生徒たちの縦のつながりを形成したいですね」

伊藤さんの思い 子どもたちに成功体験を

久万高原町には大学がなく、就職先もあまり多くないことから、生徒たちは卒業後、ほとんどがこのふるさとを離れてしまうのだという。伊藤さんは、彼らが巣立っていく前に「自分がやってみたいことが実現できた、地域の人を笑顔にできた」という経験を積ませてあげたいのだと意気込んでいた。地域の学校、そこに通う生徒たちと共に地域を盛んにしたいという伊藤さんの思いの強さが感じられた。
「旅立っても、久万高原に愛着を持ってほしい、心を少しでもふるさとに置いていってほしい。そこで、この探究学習を継続し、支えていくために『ふるさと納税』という方法で町出身者もそうでない人にも、関心を持ち、支援する機会を提供しています」

 

編集後記

上浮穴高校の事例から「学校と地域がつながる」学びのカタチをうかがい知ることができました。町の外にいる私達にも、アイデアを実現しようと尽力している生徒たちの力になれることがある。新しい視点を得ることにつながりました。

くまたんについてもっと知りたい方はこちらから!
普通科『くまたん』 | 愛媛県立上浮穴高等学校 (esnet.ed.jp)

放課後ラボのクラウドファンディングはこちら!
「未来のじぶん」を見つける場所づくり! (furusato-forg ood.jp)

 
 

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取材/編集 居倉優菜 赤尾美優 石川智治
写真提供:久万高原町