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みちしるべ

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浪花優子さん 【第7回みちしるべ】

東京学芸大学に通う学生がインタビュアとなって、さまざまな分野で活躍する卒業生が歩んできた道のりや将来の展望にせまるコーナー「みちしるべ」。第7回のゲストは、株式会社Channel Corporationに勤務する浪花優子さんです。転職経験のある浪花さんが行動を起こしたきっかけや、就活を進めるうえでのヒントについて伺いました。

インタビュア:大友涼乃(A類音楽選修3年)徳田美妃(B類音楽専攻3年)

浪花優子 さん

2011年度に東京学芸大学教育学部G類芸術スポーツ文化課程音楽専攻を卒業。株式会社マイナビ、株式会社オープンエイトを経て、2020年7月より株式会社Channel Corporationに勤務。在学時代は、ラクロス部とフォークソング愛好会に所属。

やりたいことを第一に!有意義な大学生活を目指して

大友:学芸大学を志望した理由を教えてください。

浪花さん(以下敬称略):中央大学附属高校に通っていたため中央大学に入学する道もありましたが、せっかくだから自分の興味のあることを学びたいと思いました。小さいころからピアノを続けていたので、興味のあるピアノや音楽をより学べたら楽しそうだなと。
いわゆる音楽大学も考えたのですが、中学・高校と運動部に所属していたこともあり、いろいろな分野の人がいるなかで学びたい。そう思い、教育大学として音楽科を有している学芸大学を志望しました。

大友:私は学校の教員になりたかったので学芸大学を志望したのですが、浪花さんは将来音楽に関連した職業に就きたいと思っていましたか?

浪花:職業のことよりは、「4年間をいかに充実した大学生活にできるか」を考えていました。
将来的に「音楽関係の仕事に就けたらいいな」とは思ってはいたものの、狭き門だということは分かっていましたし、A類・B類の人たちのように教職に就くことを第一志望として入学したわけでもありませんでした。もう少し将来を見据えたほうがよかったのかもしれませんが、大学生活を楽しめなかったらその先、何がやりたいのかも分からないと思います。当時は職業のこともあまり分かっていなかったので、とにかく「自分が好きなこと・楽しめることを学びたい!」という気持ちでした。

ゲスト:浪花優子さん

徳田:部活とサークルに所属していたなかで、思い出に残っていることはありますか?

浪花:ラクロスは大学から始める子がほとんどなので、みんなスタートラインが一緒でした。部活ということもあり、切磋琢磨できる出会いには恵まれましたね。あと、ラクロスという競技は他の大学とのつながりを大事にしていて、夏には他大学の1年生が集まる合宿にも参加しました。そこで出会った子とはSNSでつながっていて、いまでも交流があります。サークルでも、社会人になっても付き合える友達に出会えたところは大きいです。アコースティックギターを弾けるようになったことや人前で歌えるようになったことも、サークルに入っていたからこそできた経験だと思います。何かに所属している分、つながりやコミュニティが生まれるので楽しかったです。

転職? 家庭? 優先順位とタイミングの悩み

徳田:新卒で入社した会社でもやりがいをもって働いていたと思いますが、転職の鍵となったものはなんですか?

浪花:同年代の子が転職したこともあり、ひとつの会社でずっと働くのは当たり前ではないと感じていました。入社した当初、転職は「いずれタイミングがきたら…」というイメージだったのですが、計6〜7年働いていると結構 “やり切った感” があって。自分のなかでその会社での仕事はひと通りできるようになり、いろいろな経験も積ませてもらったので、新たな環境で挑戦したいと思い転職を決めました。

大友:女性のキャリアとして、転職する際に苦労した点はありましたか?

浪花:結婚・出産と転職のタイミングをどうするかは、悩む方も多いと思います。長く勤めていたほうが結婚休暇や育児休暇がとりやすそうな雰囲気もありますよね。いまは「男性も育休を取りましょう」という流れになっていますが、どうしても出産をするのは女性で、産前・産後には休みを挟まなければなりません。私自身は、30代前後という時期を逃すと、このままずるずると転職できなくなると思い決断しました。

大友:私が教員を目指すのには “安定” の意味合いも大きいですね。母親が専業主婦でしたので、会社などで女性がバリバリ働くイメージをもちにくいです。

浪花:私の母親も専業主婦で、家に帰ったら基本的には母親がいました。結婚して仕事を辞めるイメージはなかったですが、「自分も子どもが生まれたら専業主婦になりたくなるのかな」とは思っていましたね。
ただ、マイナビで働いていたとき、女性活躍を推進したいと考える企業が増えてきていて、その方々にインタビューする機会がありました。当時は、結婚や出産をしたら退職することがまだまだ多かったんですね。
妊娠中のお腹が大きい状態でインタビューを受けてくださる方や、お子さんを連れてきて「働いている、格好いいママの姿を見てほしい」とおっしゃっている方のお話を聞いて、素敵だなと思いました。「家庭に入ることがすべてではない」と自分の価値観が変わるきっかけにもなりました。

株式会社マイナビ勤務時代の浪花さん(写真提供:浪花さん)

学んできたからこそ気がついた、身近にある“音楽”的要素

大友:学芸大学での学びや、音楽に関する学びは、企業に就職するうえでどのような強みになりましたか?

浪花:部活動やサークル、クラスの卒業演奏会などの場面で、いろいろな人と目標に向かって取り組む経験をしましたが、企業もチームとして一緒に働くものですよね。その部分での立ち居振る舞いやコミュニケーション、お互い気持ちよく物事を進めるといったことは生かせているかと思います。

音楽を学ぶということは、一音一音に向き合って、言葉ではない表現を研ぎ澄ませていくという特殊な経験だと思います。私は最近コーチング(※)を学んでいるのですが、そのとき「相手が本音で話してくれているかどうかは音で感じられる」と自覚できました。これには、いろいろな人の演奏をたくさん聴いてきたなかで培った聴覚も生かされています。言葉は嘘をつけますよね。楽しそうな顔をしていなくても「楽しいです」と言えてしまいます。だけど音は嘘をつけないんだなと。

仕事柄、お客さんにインタビューをすることも多いのですが、お客さんとの会話のキャッチボールも音楽的だなと思います。たとえばいまの状況に当てはめると、私が主旋律で話して、大友さんがベース音を弾いているような…。会話を弾ませるためにどんな相槌(音)を打つかなども、音楽を学んで無意識に身についたことが生かされている気がします。
あと、人と一緒に演奏するときには、“阿吽の呼吸”があって、みんなで目線を合わせることもありますよね。仕事に限らず、日常生活でも生かせる要素だと思います。

※コーチング…対話を通じて内面を引き出し、目標達成や自己実現をうながす手法。

インタビュア:大友涼乃

自己分析の第一歩は、自分の「好き」を知ることから

徳田:就職活動をしている学生に向けて、アドバイスをお願いします。

浪花:自己分析は一生ものだと思っています。社会情勢や環境によって自分の価値観も変わりますし、いまでも大事にしています。たとえば、自分を表すキーワードのなかに「楽しい」や「好き」があったとき、そのように思えた理由について“なぜ”を10回くらい繰り返して深掘りすると、それぞれのことから事象が見えてきて、自分の核となるものが分かってきます。

インタビュア:徳田美妃

逆に、嫌いなものや苦手なものについて考えることもあります。このような感情は、自分にとって侵されたくないものや守りたいものがあるからこそ芽生えるのだと思うので、大切にしたいことや働きたい環境をイメージしやすいかもしれません。

最近あった好きなことや自分の得意なことを友達同士で話し合う他己分析もおすすめです。自分にとっての当たり前が相手には意外なこともありますし、お互いが思う「好き」の違いにも気がつきます。また、「教育」の言葉ひとつをとっても、その対象や分野、理想の教員像など、さまざまな視点がありますよね。やりたいことを達成するためには、教員になるか就職をするかということも含めて、いろいろな選択肢も考えられます。自分の素直な感情を”他者”というフィルターに通すことで、みえてくるものもあるのではないでしょうか。

取材/大友涼乃・徳田美妃
編集/入戸野舞耶