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みちしるべ

民間企業の立ち位置から「教員」のあり方を考える

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北岡 樹さん 【第6回みちしるべ】

東京学芸大学に通う学生がインタビュアーとなって、さまざまな分野で活躍する卒業生のこれまでの道のりや将来の展望にせまるコーナー「みちしるべ」。第6回のゲストは、株式会社LITALICOに勤務する北岡樹さんです。学芸大を卒業して民間企業に就職した経緯や、今後のキャリアについてのお話をたっぷりと伺いました。

インタビュアー:A類学校教育選修4年学生、徳田美妃(B類音楽専攻3年)

北岡 樹 さん

2018年度に東京学芸大学教育学部A類社会選修を卒業。新卒で株式会社LITALICOに入社し、発達障害をもつ未就学児の教育に携わる。

在学中の教育実習が転機となり、民間企業の道へ

学生:入学当時は教員を目指していたとのことですが、民間企業への就職を考えるようになったきっかけは?

北岡さん(以下敬称略):小学生のころから「教育分野を学びたい」「小学校の教員になりたい」という思いがあって、その気持ちはいまも変わっていません。しかし、大学3年生のときに経験した基礎実習が大きな転機となりました。

附属小学校での実習だったのですが、当時の担当の先生の授業やカリキュラム作りを見て「こういう先生、いいな」と肌で感じていたんです。あとからその先生が民間企業出身だと知ったことがきっかけのひとつですね。

その後、認定NPO法人Teach for JapanというNPOでインターンをしていくなかで、まったく教育畑ではないところから教員になる人たちを多く見てきたのですが、その人たちの生き様や教育観に共感するところや憧れるところがあって。その出会いを通して、「僕も教員になる前に民間企業で働いてみたい!」と思い始めました。

学生:そのなかでも、LITALICOへの入社を選んだ理由を教えてください。

北岡:一番大きいのは、魅力的な人が多かったことです。学生時代、みなさんのように社会人の方と出会って話を聞く場があったのですが、”仕事は仕事、プライベートはプライベート”とキッパリ分けず、自分のやりたいことや目指すビジョンに対してオンオフを問わず邁進している人に憧れました。LITALICOは、そのような人たちが多くいる企業だと思いました。

また、保育所と訪問支援という福祉の事業を通して、学校教員を側から支えるところに興味があったことや、学校教育に関するマネジメントに携われること、インクルーシブ教育(※)におけるスキルや経験を特別支援教育の観点から得られると考え、選びました。

※インクルーシブ教育…障がいのある子どもとない子どもとがともに学ぶこと。多様性の尊重の強化、障がいのある子どもの精神的・身体的な能力の発達をうながす目的がある。

ゲスト:北岡樹さん

教員は社会とかけ離れている?という批判について

徳田:北岡さんが思う「民間企業でないとできないこと」、「教員でないとできないこと」はありますか?

北岡:民間企業でないとできないとされることでも、教員にできることはあると思うので、それを前提としてお話ししますが、ビジネス的な観点においては間違いなく民間企業でないと経験できないことだと思います。企業がもつ「こういう世界観を作りたい」といったビジョンを達成するためには、経営的に継続させていくことや、利益をあげて広いところに届けられるような余剰分を作っていくことなどの戦略が必要だと思います。その部分で、質と量のバランス感覚や、それに関する意識をもてることが魅力なのかな、と。

一方で、学校教育や公教育にはセーフティネットのような役割もあると思います。不登校などの問題もありますが、基本的にはどんな環境の子どもも通うことが保証されていますよね。ですから、教員でないとできないことは、全員に届けられる社会基盤があるなかで教育活動ができることだと思います。

また、当たり前のことですが、「学校で働く」ということも教員でないとできないですよね。でも、約30人を相手に、裁量をもって自由に授業をすることができるというのは、塾も同じかもしれません。学校教育というシステムのなかで授業をする以外で何が挙げられるかというと…。結構、考えさせられますね。

学生:「教員は社会を知らなすぎる」といった批判を耳にすることもあります。教員が学校以外の世界を知っていることの意義はどのような点にあると思いますか?

北岡:僕は教員を経験していないので正直分かりませんが、おもしろい授業やカリキュラムを作るところに関係しているのではないかと思います。とはいえ、新卒から先生をやっている魅力的な先生もたくさんいるので、それだけではないと思いますが…。

「教員は社会を知らなすぎる」ということには同意する部分もある一方で、「仕方がない」というスタンスです。選んだ仕事以外の社会を知らないということは、教員に限らず相対的に起こり得ることだと思います。ただ、教員が扱っている教育の内容は多岐にわたりますし、その対象にはすべての人が当てはまりますよね。だからこそ社会から求められている守備範囲が広く、理想と現実のギャップがあると思います。

教員個人の責任というよりは、学校教育や学校教員の制度全体に課題があると感じます。働き方とかマネジメント関連といった環境は、社会と少しかけ離れている印象をもっているので。

インタビュアー:A類学校教育選修4年学生

「教員」をもっとおもしろくすると、子どもたちに還元される?!

徳田:現在働いているなかで、将来実現させたいことはありますか?

北岡:一貫して興味があるのは、「学校の教員をもっとおもしろくしたい!」ということ。教員は非常に良い仕事だと思っています。近ごろは多忙化といわれたり、社会的な眼差しが厳しい部分もありますが 、もっと自由に、教員一人ひとりの創造性や熱意で教育が良くなっていく、そういう世界観をつくっていけたらなと。それがひいては学校の可能性を広げることにつながり、子どもにも還元されていくものだと思うので、教員から教育を変えていくようなことをやっていきたいです。
それを実現するためには、大学院で学校経営、教育経営学を学んだり、教師教育、教員養成の知見を深めたりすることも考えられますし、行政の立場となって携わること、もちろん教員として働くことも挙げられます。どの順番で何を選ぶかは決めていませんが、学校教員の周辺でできることを考えています。あと、本当に個人的な興味ですが、海外の日本人学校でも働いてみたいですね。

インタビュアー:徳田美妃

他学科の授業や図書館など、使えるリソースは活用しよう

徳田:現役の学芸大生へメッセージをお願いします。

北岡:とある先輩から「自分の過去を否定することは自分に失礼だ」ということをいわれたことがあります。学芸大学が第一志望ではなかった人や、学芸大学をそこまで好きになれない人も一定数いると思うんですね。僕自身、ほかに行きたい大学があったので、学芸大学に入学した当初は納得しきれないところがありました。しかし、それは先輩のいうように自分に失礼なことだし、考えるだけ無駄な時間なのかなと。僕はそれに気がつくのに2年くらい費やしてしまいましたが…。その分、学芸大学のよいところや活用方法を見出すことを考えるほうがずっと健全だし、自分のためになると思います。

また、履修登録の際はカリキュラムをちゃんと見ることをおすすめします。いま思うのは、自分の専攻ではない、いろいろなよい授業がたくさんあったということ。他学科の授業を聴講すると周りの目が気になるかもしれませんが、使えるリソースは活用しきることが大事だと思います。附属図書館には本や雑誌もたくさんあるので、読めるものはどんどん読んで、卒業してから「ああ、もったいなかった」と後悔しないようにしてほしいです。

あと、学芸大生であることにかかわらず、学生時代にやっておきたいと思うことはやりきった方がよいです。しこたまに飲んで潰れるとか、とりあえず世界一周するとか、北海道を原チャリで全部周るとか…。コロナ禍でできないこともあるかもしれませんが、その精神がゆくゆくは何かにつながることもあるのかなと思います。

 

この対談の全容はYouTubeで公開しています。

第6回みちしるべ前編
第6回みちしるべ後編

構成:入戸野舞耶