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edumotto版「せんせいのーと」、記念すべき第一弾はE類生涯学習コースの倉持伸江先生です。知らないようで、実は身近な社会教育の魅力について、楽しくわかりやすくお話してくださいました。この記事を読めば、あなたも社会教育の魅力に迫れるかも…!?
先生のご専門について教えてください。
倉持先生:生涯学習という領域の、社会教育学や成人教育学という分野を専門にしています。生涯学習というのは文字通り「生涯を通じた学習」のことで、life long learningという言葉から来ています。社会教育というのはもともと日本にあった考え方で、日本の教育の三つの柱である学校教育・家庭教育・社会教育のうちの一つになっています。
教育社会学とは違うんですか?
倉持先生:教育社会学は教育を実証的に明らかにしようと社会学の目線からアプローチしていく学問です。社会教育学は社会と教育の文字がひっくり返っただけのように見えますが、内容は違います。学校教育以外の社会や地域で行われる教育活動のことです。身近な例を挙げるなら、図書館や公民館・博物館・体育館などの場、子ども会や放課後活動、市民大学(コミュニティカレッジ)、仲間同士のサークル活動やボランティア活動など、子どもからおとなまで、さまざまな人・場所・内容・方法で行われているのが社会教育です。
先生が社会教育に興味を持ったきっかけは何ですか?
倉持先生:学生時代に「おとなが学ぶ」ということにはまってしまって…。授業の一環で、おとなが学ぶ社会教育の場に参加する機会があって、私が初めて参加したのが「男の料理教室」という講座だったんです。おじさんたちがレシピを持ち寄って、買い物から料理をまでを自分たちでやるという活動なんですけれど、料理初心者なのに持ってくるレシピはやたら凝ったものばかりなんですよ(笑)。乱切りはこうだああだと言い合いながら料理を作るわけですね。誰かが順序だてて教えてくれるわけではないので、効率が悪いように思ったのですが、参加者たち全員がいきいきとしていて、料理後の話し合いもとても熱心で。試行錯誤したり経験を通して交流しながら学んだり、終わった後に振り返りをしてまた学んでいく様子を見て、おとなも学ぶんだ、学びって先生から教わることだけじゃないんだ、と衝撃を受け、面白いなって思いました。
おじさんの料理教室からはじまったというのが、おもしろいですね!
倉持先生:おとなならではの学びの特性やそれをふまえた支援という考え方があって、主体性を尊重すること、学び合いを促すことが重要視されています。学ぶことで、自分の人生を豊かにしたり、他の人とつながったり、学びを活かして地域や社会に参加したりできるんです。子どもの学びも大切ですが、人口で一番多いのはおとなじゃないですか。環境、人権、災害、まちづくり、社会にはさまざまな問題がありますが、おとなも子どももお互い学んで意識や行動を変えていくことができれば、すごく良い世の中になるかもしれないと思うんですね。そう考えると、社会を変えるのは学びだと思っています。学ぶことによって一人ひとりが自分らしく生きることができるでしょうし、周りの社会もよくなると信じています。
社会教育の見方がとても変わりました。
倉持先生:ありがとうございます。でもまだまだマイナーなんですよね(汗)。「社会教育主事」という地域や社会における学びを支援する資格があるんですけれど、今の私の目標のひとつに、これを学芸大の中で広めることがあります。今までこの資格は、取っても教育委員会など限定的にしか使えなかったんですね。でも法改正があって、2020年度から大学で必要な科目を取ればだれでも「社会教育士」と名乗ることができるようになりました。学びを通した人づくり、つながりづくり、地域づくりなどにおいて、資格取得を通じて学んだことが生かせるということで、いろいろな立場の人がこの資格を活用できるようにリニューアルされました。学校の先生も「社会に開かれた教育課程」を目指す中で、この資格が必ず役に立つのではないかと思っています。学芸大生は誰でも取れますから、たくさんの人にとって生かしてほしいなと思います。教員や公務員を目指す人はもちろん、民間企業やNPOでも生かせますから、ぜひ取ってほしいですね。
学芸大生なら誰でも取れるというのはすごいですね。
倉持先生:毎年春に資格オリエンテーションで詳しい紹介をしているのですが、「社会教育?なにそれ?」といった感じなので、PRに悩んでいます(汗)。25単位で取れるんですよ。実践的でいろんな学生と交流できる科目がいっぱいあります。今は教員も、保護者や地域住民を巻き込んだ授業や、地域ぐるみで一緒に子どもを育てることが求められているので、そんな時に役立つと思います。
社会教育のイメージがすごく変わったので、取ってみたいなって思いました!
倉持先生:それはぜひお待ちしています!
学ぶ人が主役で、学びを引き出していく環境づくりをしたり、人と人をつなげたり、人と情報や地域とつなげたり、どちらかというと、何かを教える人ではない裏方的な支援だから、先生とはちょっと違う専門性としておもしろいかなって思います。自発的な学びを側面からサポートする場面で生かせると思いますよ。
先生のおすすめの本を教えてください。
倉持先生:『コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践』(翔泳社)という本です。サークルとか自主的なグループ内で、私ばっかり仕事をやっているとか、だんだんと役割が固定化されているとか、メンバー内で温度差があるとか、そういったことを経験している人も多いんじゃないかと思います。コミュニティも人間と同じで成長し、停滞し、死んでいく。コミュニティを学び合う場にしていくにはどうすればいいかという内容です。ビジネス書ですが大学生が読んでも面白いと思います。
生涯学習の本としては『生涯学習支援のデザイン』(玉川大学出版部)を紹介します。授業でも使っている本ですが、今日話したような生涯学習するさまざまな人の特徴やその支援に必要な知識や技能などについて書かれています。子ども、若者、子育て中の親、高齢者、障がい者などの学びの支援事例も多く掲載されていて、具体的イメージをつかむのにぴったりです。
先生の学生時代について教えてください。
倉持先生:演劇をやっていました。演劇は演者以外にも音響や照明などの様々な専門や役割を持つ人が一緒に活動しています。まさに学び合うコミュニティですね。学内すべての劇団から組織される連合組織のリーダーもやっていて、劇場の使用について劇団間や大学側と交渉・調整して、お互いがwin-winとなり連携・協働しあえるにはどうすればいいかを考えていました。今考えると、促したり引きだしたりつなげたり、社会教育におけるファシリテーターやコーディネーターみたいな役割をやっていましたね。
だから、今につながっているところは多いと思います。講義の時に通る声が出せるようにもなりましたしね(笑)。
社会教育の授業は実践が重要ですよね。今はコロナ禍で思うようにやれなかったりすると思うのですが、どう工夫されていたんですか?
倉持先生:去年1年は大変でしたね。公民館など地域の学習施設は一時期を除き開館していたので、感染対策をちゃんとして、全員実習を行うことができました。大学で対面の活動がない中で学生にとってはすごく貴重な体験になったようです。実習以外の授業でも、イベントを屋外でのまち歩きにしたり、オンラインを活用してみたり、そういう形で活動しています。今年度は、公民館祭りの実行委員会に学生のチームが授業として参加していて、新しい祭りの形を市民や職員と一緒に検討しています。学生にとっても、市民にとっても、公民館にとっても、新しいチャレンジとなっていますが、お互いの強みを活かして課題を解決しようと連携して挑戦するのは、たいへんだけどワクワクしますよね。結果はわからないけど、それも含めて今ある状況の中で「やってみよう」ていうスタンスでやっています。
連携プレーってすてきですね。
倉持先生:全然ちがう立場や年齢の人との交流は、視野が広がって新しい観点に気づけるし、自分のオリジナリティも見えてくるんです。連携、協働するっていうことは、プロセスは大変だけれど、その経験を通して学んでいって、学びをコーディネイトする力、ファシリテートする力に繋がっていくんじゃないかなって思いますね。
先生のこれからの目標は?
倉持先生:大学における学生たちの学び(養成)と、現職の支援者たちの学び(研修)をつなげたり、両方盛り立てていくことで、いつでもどこでもだれでも学べる環境を、支援者たちも学び続けながら創ってくれると思うのです。そういう社会になったら、地域の人々が日常的な生活と学び合いの中で課題を見つけて共有して、時に行政や企業の人たちと手を取り合って解決していけるような世の中ができちゃうんじゃないかなって、壮大な野望がありますね!最終的には。社会教育主事養成校が日本に108校あるのですが、お互いにネットワークをくんで、この世界をもりあげていくことからまずはできたらいいなって思っています。
人が学ぶことによって、ひとりひとりが生きやすく、能力を発揮できて、社会をよりよくすることにもつながっていく。学びの力はそこにあるかなって。簡単なことではないのですけれどもね、ちょっと大きくでちゃったな(笑)。
若い人たち、特に中高生に向けて、伝えたいことってありますか?
倉持先生:地域を元気にしたい、子どもたちの居場所を作りたい、ほかの世代との交流を増やしたい、社会をよくする人を育てたい。そういうことに関心を持っている若い人たちはいると思います。ですから生涯学習の種はたくさんあると思うんですよね。社会教育って意外と身近なんですよ。生涯学習って、場所も対象も絞らないんですね。範囲が広いので、教育に関心があるけれど、何をやりたいか決まっていないという人たちにも一度覗いてみてほしいです。学校の学びも大事だけど、地域の学びの場に接点がふえるといいなって思うし、子どもたちがおとなと一緒に学ぶことって面白いんじゃないかなって思っています。
倉持伸江
総合教育科学系教育学講座 生涯教育学分野 准教授
東京都練馬区で生まれ育つ。2006年に東京学芸大学に着任。教育支援課程E類生涯学習コース担当。教育学講座生涯教育分野准教授。専門は社会教育学、成人教育学、生涯学習論。社会教育・生涯学習関係職員やボランティア・サポーターなど、地域での学びあいを支援する人々の実践的な力量形成とコミュニティづくりについて、研究と実践に取り組んでいる。全国社会教育職員養成研究連絡協議会(社養協)事務局長。一般社団法人東京学芸大Explayground推進機構運営委員会委員。
取材・編集/田村怜士、森本綺莉