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みなさんが授業を受けている際に、「この内容が生活に活用できるの?」といった疑問を持ったことはありますか?学校に通った人の誰しもが一度はこんな疑問を持ったことがあるのではないでしょうか。そんな疑問を持ち続け、自ら授業を研究し実践している先生がいます。今回インタビューした中込泰規先生は附属竹早中学校の理科教諭として、生徒の人生に役立つ授業を追求していました。
中込 泰規 先生
東京学芸大学附属竹早中学校 理科教諭
2007年に神奈川県の公立中学校に赴任。その後、2021年から東京学芸大学附属竹早中学校に着任し、現在に至る。
獲得した知識を生徒自身が関連付けて、抽象的な知識を創発していくための効果的な手立ての検討や、「科学とは何か」や「科学的営為」に注目した科学の認識論的な知識の理解を促す授業実践について研究を進めている。今年度の附属竹早地区の公開研究会では、渡辺理文准教授と共同で研究を行い、「理科を学ぶ意義」を認識することを目指す授業実践について提案した。
これらの研究成果が認められ、日本理科教育学会優秀実践賞や第12回日産財団理科教育賞を受賞。
小見出しにも記した疑問に対し中込先生は、日本の授業が教科の内容に関する知識の習得に重点が置かれすぎているから、と考えています。知識をつけることはとても大事ですが、それを活用できなければ自分にとって意味をなしません。教科書の内容を理解することに加えて、生徒独自の観点から思考することで、「こういうふうに考えれば良いんだ!」といった感情が生まれます。つまり、内容の知識を媒介として、科学的に思考することを通して、知識(授業の内容)の必要性に気付くことをねらいとしています。
探究的に知識を活用するために、中込先生は「科学者の目線で」科学的な過程をたどる授業展開を実践しています。実践例である電池を開発する実験では、長期間通して科学者が行った実験をたどることで、創造的な思考のヒントを探ります。その上で生徒たちに独自の電池を開発してもらうのです。
シナリオが決まった実験手順をたどらせるのではなく、成功するか分からない実験を授業のなかで実践します。生徒が考えた実験を何種類も進めるのは大変で、並々ならぬ根気が必要です。それでも中込先生はあえてそれに挑戦しています。教科書の知識を生かし、かつ探究的な授業を実践することで疑問は抑えられる、と中込先生はとらえています。
科学者の目線で斬新なアイディアを考え出すことを重要視している中込先生。授業を実践する上で2つの観点を大切にしています。1つ目は再現できるかという点です。科学者は実験の計画を立てる際に、その構想を実現できるか検討します。中込先生は生徒から出た意見は否定しないものの、「宇宙に行き実践する」といった授業で実践できない案も出てきますので、再現性のあるものを採用します。
2つ目は生徒独自の思考する観点を明確にし、その観点から創られた考えを尊重すること。話し合いをすることはよいものの、論点が分からないと話し合いは進みません。生徒が考える観点を見える化し、一人ひとりの意見を根拠から拾ってあげることで生徒が積極的に授業に参加できる、と先生は考えています。
探究的な授業を実践する中込先生は授業を通してどのような生徒を育てていきたいのでしょうか。それは自分の観点をもって科学的に考えを作り出し、それを発信できる人。先行きが不透明な現代は、自分自身で吟味・判断していくことが必要です。新型コロナウイルスのワクチンのように科学者やメディアにもさまざまな意見がある場合、自分の観点から主体的に判断することが求められます。
こんな現代だからこそ教科書の内容の理解に加えて、自分の意思決定の仕方や物事を批判的に考えることを重視しているのです。中込先生の目標は、理科の授業を通して、自分の考えを持ち、科学的に考えられる生徒を育てていくことです。そして科学的な思考力は理科に限らず、さまざまな場面や学問で役に立つことも忘れてはなりません。
筆者も中学生の頃、「授業の内容は生活に活用できるの?」という疑問を持ちました。今回中込先生にインタビューしたことで、教科書の内容を教えることだけでなく、考える方法を指導することが大事であることに気付きました。科学的な考え方は先行きの不透明な現代には必須の能力です。教員になった際には、なぜその答えに行きついたのか、という思考のプロセスを重視すべきことに気づく契機になりました。(久慈浩聖)
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取材・編集/久慈浩聖 居倉優菜 澁澤唯奈
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