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生徒の「想い」を「カタチ」にする 〜東京学芸大学附属竹早中学校「Dプロジェクト」に密着〜【後編】

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前編では、Dプロに参加している生徒の声をお届けしました
後編では、Dプロを推進する小岩先生と荻野先生にインタビューを行いました。Dプロを始めた経緯から先生たちの“想いや願い”までをたっぷりとお聞きしています。前編と後編を合わせて、生徒視点と先生視点のどちらも楽しんでいただけると思うので、ぜひ最後までご覧ください!

「生徒の想い」を出発点に。

附属竹早中学校(以下「竹中」)は、以前から「多様性」をテーマに研究を行っており、2022年にはそのまとめとして書籍を出版しています。(『「竹早」×「多様性」でえがく未来〜多様性を理解する、活かす教育実践東洋館出版社)。

までの研究では、多様な他者と、互いに認め生かし合い、共生することができる子ども授業の中でどのように育てるのかに焦点を当てていました。しかし、授業という前提を外して、“生徒の想い”を出発点にしたDプロを始めた背景には、コロナ禍の厳しい制限下で生徒たちから上がった「課外活動がやりたい!」という声でした。

「この状況を何とかしなかったら、生徒たちから見た竹中の魅力がなくなってしまうからね」と笑顔で語る小岩先生の言葉にこそ“竹中の魅力”が詰まっているような気がします。

それぞれの「やりたいこと」がみんなの「学び」へ

中学生と言えば思春期真っ只中。やりたいことや夢なんてないと考える生徒も少なくないでしょう。しかし、Dプロメンバーはパワフルで好奇心旺盛。仲間の“やりたいこと”に共感し、「楽しそう」「面白そう」とメンバーが集まってきます。

もしかしたら竹中の教育には、「Dream(-夢やワクワクを感じる-)」を育むための秘密があるのかもしれないということでその秘訣をおたずねしました。

取り組みの1つは、文化研究発表会(通称文研)における「自由研究」(生徒が自分で決めたテーマを調査・研究)の発表。この文研は、お互いを育てる・発揮する場となっているのだそう。

2つ目は、附属竹早小学校(以下「竹小」)との連携教育。竹小では、夢を育む教育の一環として2週間に1回、100分間で自分のやりたいことに打ち込む「たけのこタイム」を実施しています。竹小出身の生徒の存在が、他の生徒にも良い影響を与えているというのは附属校ならではの強みだと感じました。

荻野先生は、「やりたいことをどんどん出して、それがみんなの学びにつながるということを当たり前の文化として持ってほしい」と語ります。

それぞれのやりたいことを声に出せる、あるいはそれを受け入れる空間づくりはとても大切だと思いました。ガラス張りのオープンな空間で行われているDプロの活動は、きっとDプロに参加していない生徒たちにも刺激を与えていることでしょう。

荻野先生

荻野先生のおっしゃるやりたいことを受け入れる文化は、既にDプロ内で生まれていました。

それは、「学校内でのDプロの知名度を上げたい!」と考えた生徒が立ち上げた広報部の存在です。今回の取材でも、積極的に写真や動画を撮ってくれました。

自分たちで企画・制作したという月刊誌『フロクレン』を渡してくれた彼女たちの笑顔は、生き生きと輝いています。この春2年目に突入するDプロですが、継続していく上でも彼女たちの存在は心強いですね!

『フロクレン』を持つ広報部の二人

前、後ろ、上、下でもなく「横」から。

このDプロは、生徒主体とはいっても時には停滞してしまうことがあると思います。そんな時に、先生方はどのように生徒と接しているのでしょうか。

荻野先生は、「世界を広げる、生徒たちの視野に入っていないものを与えることを心がけています。前に出過ぎず、でも後ろにいすぎても傍観者になってしまうからなるべく横にいたいと思います。また生徒と教師どちらが上でどちらが下で、といった関わり方にならないようにも意識しています」。

ねらいがあるという意味でDプロと普段の授業は、本質的に変わらないものの、教員の関わり方は異なると話す小岩先生は、「枠は生徒が作り、それをどうやって教員が支えていくかが大切だと感じました」とのこと。

どちらも、“与えすぎない”という点が共通しています。大人が知識を与えるのは簡単なことですが、あえて積極的には与えない。軸は生徒が決める。それができるのは、お二人が生徒の可能性を信じているからこそではないでしょうか。

インタビューの後半では、竹中生を愛する先生方の熱い思いが感じられます。

小岩先生

竹中生はピカピカの原石。だからこそ輝ける場所を。

Dプロに対する先生方の熱量の大きさが伝わってきたところで、最後に改めてDプロに対する想いを伺いました。

小岩先生は、「竹中の良さをもっと広めたいです。竹中生はピカピカの原石の集まりなので、うちに秘めた主体性を披露する場を与えてあげれば、自ずと力を発揮してくれるでしょう」。

さらに、学校研究の観点からは「生徒にとっては通いたい、保護者にとっては通わせたい、教員にとっては働きたい。そのような魅力あふれる学校にするための研究として、Dプロは意味がある素敵なものです」。

時には、口を出したくなる時もあるそうですが、それをグッと我慢しているという話からも生徒への愛が伝わってきました(笑)。

左:荻野先生、右:小岩先生

小岩先生の熱いお話に真剣な眼差しを向けていた荻野先生は、今日(取材日)がDプロを始めてから最も印象的だったと話します。

というのも、積極性の芽が花開いた生徒がいたから。Dプロに参加するまでは考えられないほど積極的な行動をとる姿に成長を感じ、この活動の意味を実感できたと感動していました。

インタビューの途中で何度も出てきた言葉は、やはり“生徒の想いから始まる活動”。きっとこれからも多くの竹中生が、Dプロという場所で、それぞれの想いや願いを実現し、成長していくのだと思います。その過程で自ずと主体性が育まれていくはずです。

編集後記

取材を通して、Dプロは生徒と先生両方にとっての自己実現の場であると感じました。双方の想いが両立しているからこそ、Dプロは魅力的なのだと思います。先生のやりたいことが生徒のやりたいこととは限りませんよね。もちろん逆もです。だからこそ、コミュニケーションをとって、互いを理解する必要があるのだと思います。先生方は、今回のインタビューのなかで、初めてプロジェクトに対するお互いの想いをじっくり語り合ったそうですが、「そんなふうに考えていたんですね!」と真剣に耳を傾ける姿が印象的でした。
先生同士、生徒同士、生徒と先生同士がもっともっと“対話”を重ねていくことがこれからのより良い「教育の未来」を創る上で大切なのではないでしょうか。

前編・後編を通して読んでくださった皆さんは、ぜひ身近な人と主体性や多様性、子どもとの関わり方など様々なテーマをピックアップして、考えを共有してみてください。

それでは、次回の教育の未来の記事もお楽しみに!!

 

この記事の前編はこちら

荻野 聡

東京学芸大学附属竹早中学校国語科教諭

群馬県出身。高校まで群馬県で過ごし、東京学芸大学A類国語科へ進学。硬式テニスサークル「ELF」に所属しテニスに打ち込む。学部では文法論的文章論を学び、卒業後(横浜)桐蔭小学校に勤務した後、東京学芸大学の修士課程へと進む。
大学院では大熊徹教授の研究室に所属し、国語教育について学ぶとともに生活綴方実践である「山びこ学校」について研究を深める。2010年に修士課程を修了した後、東京学芸大学附属国際中等教育学校、附属竹早小学校での勤務を経て現任校に勤務する。国語科の授業では「国語個人研究プロジェクト」(通称:ココプロ)など、プロジェクトベースの教育実践を開発しつつ、2022年度からは「竹早Dプロジェクト」に取り組んでいる。

小岩 大

東京学芸大学附属竹早中学校研究主任,数学科教諭

愛知県出身。高校まで地元で過ごし、東京学芸大学A類数学科へ進学。数学教育のおもしろさを知り、数学教育学を学び始める。その後、東京学芸大学大学院修士課程に進学し、「文字式の理解」をテーマに研究。修士課程修了後は、地元愛知県の公立中学に就職し、授業、生徒指導、部活に奔走する日々を過ごす。4年間の勤務後、附属竹早中学校に着任。着任4年目からの3年間、10年目からの5年間の計8年間、研究主任を務め、竹早地区の幼小中連携教育研究、竹早中学校の「多様性の教育」の研究、東京学芸大学との連携プロジェクト「CCSSプロジェクト」「未来の学校 みんなで創ろう。プロジェクト」をリードする。また、この間に、東京学芸大学大学院連合学校博士課程に進学し、博士(教育学)を取得。学校研究と自分自身の数学の実践研究に日々取り組んでいる。

取材・編集/松永裕香
本文中写真提供/東京学芸大学附属竹早中学校