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教育の未来

“学び”には場所も年齢も関係ない(前編)

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東京学芸大学教育インキュベーションセンター金子嘉宏先生へのインタビュー

 「教育のこれから」の創刊号では、東京学芸大学の教育インキュベーションセンター金子嘉宏先生にお話を伺い、編集部員みっきー・まっつん・ななこ・ちぴちゃんとともに未来の教育のありかたについて考えていただきました。

 みなさんは、10年後の教育はどのように変わっていると思いますか。この問いに対する正解はありません。ぜひ一度立ち止まって考えてみてください。

 “学び” には場所も年齢も関係ない(後編)~東京学芸大学教育インキュベーションセンター金子嘉宏先生へのインタビュー~

教育に関わった原点は子どもの詩

みっきー(以下、み):教育に関わろうと思ったきっかけを教えてください

金子先生(以下、金子 敬称略):大学4年の時に就職活動するなかで、子どもの詩が好きで、子どもの詩に関わる仕事をしたいと考え、教育系企業に入社しました。小学校向けの国語の教材をつくる担当となり、編集者として教育に関わり始めました。
 そこから、おもちゃのテーマパークを運営している企業に転職しました。
 自主的に遊ぼうとしないと遊べない遊園地であり、面白い場所で私が思ってもみなかったような遊び方をする子どももいました。 そこから「遊び」に興味を持ちました。「遊びはこんなにも人を夢中にさせて、遊んでいるうちにこんなにも人は変わっていくのか」ということを強く実感しました。

:子どもの詩が先生の原点なんですね。その企業から学芸大と関わるようになったそうですが、学芸大に来た時によいと感じたところと課題に感じたところはズバリどんなところでしょうか?

金子:まず、面白い先生がたくさんいらっしゃいますね。また、教育系大学は企業との連携が難しいと言われていますが、産学連携に力をいれていると思います。しかし、まだまだ協働が足りないと感じます。もっと社会にインパクトを与えるだけの力量があります。その部分に力いれていきたいですね。
 また、学芸大は教員養成が中心なので、いわゆる実践の大学です。東大にも教育学部はありますが、教育科学を中心とする理論の大学です。実践の大学だからこそ、より社会と関わる必要があります。学校現場の先生方への働きかけもどんどん推進していけるとよいと思います。

:まだ活かしきれていない学芸大の力をより発揮してほしいですね!
 今まで考えてきた疑問があって…教育学部でも、実践を中心とする大学と理論を中心とする大学で分けられているところが多いですよね。私は、それらが大学で共存すればより連携できるのでは?と思っていました。分けられている意味ってどんなところにあると思われますか?

金子:教育学というのは学問的な特徴をとらえるのが難しい学問です。教育心理学や教育哲学というように〇〇学というものがつくのが特徴とも言えます。
 また、研究の面から考えてみても現実から離れた視点でないと研究を進められないものもあります。昔から言われていましたが、世俗的な話題を大学に持ち込むなというものが学問のあり方でした。学問として突き詰めていくためには、目の前の課題にだけ注力していては足かせになる場合も多くあります。

 例えば、教育心理学の場合は学校の実践と関わるところだけに向き合っていると、学問として深めていくことが難しくなります。実践に引きずられるとイノベーションは起こりづらいと思いますね。やはり、独立した状態で研究を進めていくことで、研究をより深めていくことができるのだと思います。学芸大は、研究と実践を繋げていく、現場と繋げていく大切な役割を担っていますね。

 

公教育と民間サービスの関係性を考える

まっつん(以下、ま):私は今、民間企業に就職したいと考えています。教員以外の他の立場からでも教育を支えられるのではないかと思っていて…。今色々な企業を探している最中なのですが、教育と企業が連携していくことのメリットについて金子先生はどのようにお考えですか。 

金子:学校教育かどうかや、対象が誰かといった点はどうですか。

 :公教育に限定せずに広く教育を指していて、対象は小学生~高校生と考えています。

 金子:公教育がやらない部分・できない部分をカバーできるというのはメリットの1つですね。
 公教育って何が行われているかというと、みんなの意見の一致でこれをやるべきという教育を平等に行なっていると思うんです。要するに、ある程度枠組みが決まっているということ。教育を支援するときに、公教育を推進するための企業と公教育でできないことを推進する企業に分かれると思います。

 前者は、ICT教材などを学校現場に提供する企業などが挙げられますね。
 後者は、探求型学習塾(自ら学び自ら考える力を育む塾)やプログラミングに特化する塾など公教育ではカバーしきれない部分を行う企業がありますね。

:公教育は平等がキーワードとなっているため難しい部分は沢山ありますよね。だからこそ、本当に必要なものかどうかを見極めていくことは必要ですね!
 今は塾に通う子どもって多いですよね。民間教育が発展していくことで子どもたちの学力差は家庭の経済力で開いてしまうと思います。ある程度の差は仕方がないと思いますが、大きく開いてしまった差を公教育はどうやって埋めていくべきだと思いますか。

金子:公教育は、皆さんの税金を使って国が行なっている教育のため、皆さんの意見が一致しないとできないんですよ。なので、基礎学力が最低限の基準になってきます。
 公教育自体を高度化していくのはやっぱり現実的な話ではないので、個別に適応している教育を個人が広く受けられるようにするにはどうしたららよいかと考える必要があるように思います。
 仮に、プログラミングの塾があってみんなが受けた方が良いよねとなれば、それは企業がやっていても公教育なわけで、金銭的な支援をしましょうという話になります。そうすれば、塾に行けない子どもにも援助ができるわけですね。

 :学校がやっているから公教育というわけではない…。これは新しい視点でした!

 金子:教育と福祉みたいな話にもなってくると思います。

素早い展開力で現場の細かいニーズをキャッチする

:学芸大学と企業の連携によって今後どのような可能性が期待できるのかということについてお聞きしたいです。

 金子:企業は学校にはない展開力を持っています。展開していかないと企業としてはビジネスにならないわけです。先生の小さなニーズみたいなものが企業側にとってはビジネスになり、商品化される。企業が入るからこそだなと思います。
 これは一つの例ですけど、1年ほど前からギガ対応した教室の創設を目指しています。3000万円とか4000万円とかかかる教室では公教育として展開するということは現実的ではない。企業側の人とも、これは商品を作っても絶対売れないよねって(笑)。学芸大としては公教育に広まる教室を作らないといけないわけです。そこで今は、300万円でできる教室の創設を目指しています。それだったら学校側も取り入れたくなるよねって。最先端かつ有益な商品を提供する企業と公教育をつなげることこそ学芸大の役割かもしれないですね。

 あともう一つ、『未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト』(以下、未来の学校P J)(*1)でとある企業さんと話していてすごく面白そうだなと思ったのが、学校にコワーキングスペース(みんなで共有して使うオフィス)を作ろうという話です。
 実は学校の子ども達の机と椅子(職員室のも含めて)って本当に50年何にも変わっていないんですよ。予算化されにくいので、環境は進化しない。教育方法はどんどん進化しているんですよ。でも環境は恐ろしいほど進化していません。

(*1)東京学芸大学が教員、企業と教育委員会がワンチームとなって、Society5.0に向けた新しい学校システム創りに挑戦していくプロジェクト。日本初の産学連携の学校システム改革チーム。誰もが「好きに、挑む」ことができる未来の学校モデルの開発に挑戦する。
(参考:「公教育を変革していく『未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト』始動 2020年8月5日」PRTIMES

:え!そうなんですか!

 金子:企業側も展開することが見込めないので、新規開発にお金も人も投入しにくい。そうすると頑丈で長持ちするものという発想から抜けられなくなる。学校にコワーキングスペースを作ると、より多くの人に活用してもらうために、よりよい環境をつくることが必要になってくる。そうすると、企業はそこにお金を投入できるようになる。すると、良い照明や家具などを取り入れることができ、先生たちも快適な環境で仕事ができます。また、先生と企業の人が一緒に働ける環境を作ることで、新しい視点が生まれるなどの効果も期待できますね。

 :確かに働く環境って大事ですよね!学校の昔から変わらない部分というのを企業の持つ、新規開発、展開というやり方で変えていける可能性があるんですね。ありがとうございます!

(後編に続く)