カッコつけない本棚
人生100年時代の学び方 ―おとなの学びはもっと自由だ―
2023.06.30
カッコつけない本棚
2021.08.25
啓蒙書や入門書は、ひょっとするとその分野で最初に出会う「先生」なのかもしれない。
だとすれば、その先生はできる限り柔和で、温厚そうな人がいい。初めて出会った専門家が、しかめっ面で、厳しそうな人だったら、誰だって尻込みしてしまうはずだ。その分野を学ぶとも何とも決めていないのに、怒られでもしたら尚更である。
そんな、学問の入り口に立つよりさらに前「入り口まで行ってみようかな」くらいの気持ちの人に必要なのは、そそり立つ壁のような専門書が並んだいかつい本棚ではなく、気楽に手に取れる本が並んだ「かっこつけない本棚」ではないだろうか。
「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」という言葉がある。
いくら他者からの働きかけがあろうとも、一歩踏み出すかどうか、最後にそれを決めるのはいつも自分自身である。これは学びの世界も全く同じ。ならば教師には何ができるか、何をすべきか。生徒においしい水が湧いている場所を教えるのはもちろん「実は喉が乾いているのに、それを忘れているということ」も思い出させてあげなければいけない。
そしてもうひとつ、教師自身も自らの中においしい水が湧き出る新しい泉を作らなければならない。なぜなら、学びとは死んだ学問のリストを伝えることではなく、先達が残してくれた偉大な財産の価値を知り、生かし、次の世代のために新しい学問を生み出してゆく営みだからである。
学ぼうとするものも、教えようとするものも、学問に携わるものは皆、新しい学問の作り手なのである。
水を求める生徒にとっても、新しい泉を自分の中に作りたい教師にとっても、思わず手に取りたくなる「本」が並んだ本棚、それが「かっこつけない本棚」である。
カッコつけない本棚企画 小林晋平
上の文章は、小林先生が書き綴った自身の企画に込めた思いです。なんだかカッコつけないというか、カッコいいですね。
コロナ禍で学校や学び方が変わらざるを得ない空気に包まれつつあった2020年3月「24時間ではしりぬける物理」という高校で学ぶ物理全てをなんと!24時間連続でライブ配信。またEテレの番組『思考ガチャ!』ではMCも務める、その活躍から目が離せない先生がなぜこれを企画し実現したかったのか。
「先生、ブラックホールとかちょっと興味あるんですけどおすすめの本ないですか?」「相対性理論っておもしろそうなんだけど、何か良い本ってありませんか?」。学生さんのみならず色んな方からこのように聞かれる事がよくあります。私は研究者で大学教員だし「えっ、こんな簡単な本読んでたの?!」なんて思われるのもな…とついつい硬めの本を紹介してしまいがち。
これスゴい!おもしろい!とワクワクする事は学ぶ上での燃料となる部分なんだと思います。実際、研究者はワクワクしているからその学問を深く学ぼうとしているのですが、これが意外と知られていない。世の中に発表された時点で“ワクワク感”は削り取られ、整然と並べ直されたようなものだったりすることが多いのです。
そんな綺麗に並べ直された本で知識をつける事を否定する訳ではありません。ただ専門家でない人がこのような“ワクワクレス”な本を最初に手に取ってしまっては、その学問に新しく参入する人は減り、裾野は広がらず、何よりも一緒に楽しもうとする人が増えないのではないでしょうか。
ならば、初学者でもとっつきやすく、なおかつその学問の問題意識や軸となる部分も備わっている本を紹介すればどうだろうか。様々な分野の専門家をゲストに招き、肩肘張らないワクワクする本を紹介いただき、その学問について深く楽しくトークしていく、そんな企画です。
プロフィール
小林 晋平(こばやし しんぺい)
東京学芸大学 自然科学系 基礎自然科学講座 物理科学分野 准教授/理論物理学者/エンターテイナー 1974年長野県長野市生まれ。
専門は宇宙物理学・素粒子物理学。ブラックホール・初期宇宙・量子重力の理論的研究,メタマテリアルの理論・実験をしている物理学者。学際学を構築し「学問を編む」ことも目標にしている。
文・編集:edumotto編集チームzaki
写真:YouYube「かっこつけない本棚 vol.00」より