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日本発の授業研究を世界に!「学び続ける教師」を支える日本の文化とは?

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教室の後ろに先生がたくさん来て、自分たちの受けている授業を見ている…。皆さんが小学生・中学生だった時にそんな経験、したことはありませんか?あれは何だったのだろうと思う方もいるかもしれません。それは、教師がより良い授業をつくるために行う授業研究の中の1つの活動です。

そんな授業研究。実は、日本発のもので、日本が世界をリードしているんです!2023年6月、日本の算数・数学の授業研究を学ぶ授業研究イマージョンプログラムが、ここ東京学芸大学で開催され、世界各国の先生や研究者が来日されました。日本の授業研究がなぜ注目されているのか、取材してきました!

各国から注目される日本の授業研究

教師は、より良い授業をつくるためにさまざまな研修に参加し、学びを深めています。日本の学校では授業研究という、教師間のコミュニケーションを大切にし、互いに学び合うことを重視した活動が行われています。授業研究ラボIMPULSの松田菜穂子さんによると、このような取り組みは、日本独自の教員研修システムだといいます。

では、授業研究とはどのような活動なのでしょうか。

授業研究とは、まず研究の目標を設定し、学習指導案を作成します。学校内の先生たちとその指導案を共有した上で研究授業を行って、学校内外の先生方に見てもらい、協議会で研究授業の意見交換をします。そして振り返りをした後、また新たな目標を設定します。この一連のサイクルが授業研究なのです。それは答えから始まる学びではなく、問いから始まる教師どうしの学び合いだと松田さんは言います。

1980年代、日本の数学の成績が良いことが、世界の教育研究者から注目されていました。これに目をつけ、理由を考えていくと、日本の授業研究の存在が明らかになりました。しかし、授業研究は各地区や各学校で、それぞれの方法で発展してきた活動なので、日本国内で総合的に実態が把握されていませんでした。

そこで誕生したのが、国際算数数学授業研究プロジェクト:IMPULSInternational Math-teacher Professionalization Using Lesson Study) *です。この中核的な活動が海外の先生を対象にした授業研究イマージョンプログラムであり、2023年6月までに、12カ国からのべ335名の研究者や現職教員が来日しました。附属学校や公立学校で、研究授業と協議会を同時通訳付きで視察し、日本の先生方と交流を深めています。6年間のプロジェクトとその後の、授業研究ラボIMPULSの成果をもとに、一般社団法人東京学芸大 Explayground 推進機構の支援のもと8月22日に合同会社を設立しました。
 *文部科学省特別経費「国際算数・数学授業改善のための自己向上機能を備えた教員養成システム開発 (2011年4月〜2017年3月)

授業研究の海外交流は「逆輸入」

授業研究が進んでいる日本が海外交流を積極的に行うねらいはどこにあるのでしょう。松田さんは、授業研究の海外交流を逆輸入と言っています。

「授業研究がまだ始まっていない地域で、日本と同じことをやったときに上手くいく部分といかない部分がでてきます。なぜ上手くいかないのか、逆になぜ日本だと上手くいくのかを考える問いの変換が、日本の文化を振り返る、授業研究の良さを再確認するきっかけになっているのです。また、海外で行った新たな取り組みが逆に日本で役に立つこともあります。それがIMPULSのミッションの1つです」。

このプロジェクトは、海外の先生に授業研究を教えることだけが目的ではないのです。交流を通して、それぞれの国の文化を活かした授業研究の形ができていくのではないかと感じました。

これからの授業研究の発展のために

最後に、松田さんにプロジェクトへの思いを聞きました。

「IMPULSは立ち上げ当初から、授業研究を推進していくリーダーの育成を目指しています。リーダーは、学校内で授業研究を広めたり深めたりしていく現場の先生だけでなく、学校外から授業研究を支えている指導・助言者がいます。その両方の立場のリーダーを日本で育てることが軸にあります。日本には、教員になったその先に学び続けることができるシステムがあります。学び続ける先生を世界中にどんどん増やしていくことで、より良い授業をつくりたい、という想いを共有できるような授業研究コミュニティを各学校ないし地域に根付かせていくことが願いです」。

教師が学び続けられるシステムが整っている日本は、実は教育について学べる環境はとても恵まれていることをあらためて感じました。子どもから大人まで「学び続ける」ことが求められている時代に、日本の文化の1つとして授業研究が注目されていくと思います。

後編では、実際に海外の先生方にインタビューを行い、「海外から見た日本の授業研究」について考えていきたいと思います。ぜひ、続けてお読みください!

日本発の授業研究を世界に!海外の先生方にインタビューしてみました

〈関連サイト〉
国際算数数学授業研究プロジェクト IMPULS

松田菜穂子(まつだ なおこ)

東京学芸大学発ベンチャー企業
IMPULS合同会社 代表

新潟県湯沢町在住。静岡県御殿場市出身。2007年東京学芸大学(A類理科教育)卒業後、国際協力機構(JICA)の総合職として勤務。研修員受入事業で、アジア・アフリカ地域の教員研修を担当したことがきっかけで、2011年より、東京学芸大学「国際算数数学授業研究プロジェクト」のプログラムコーディネーターとなる。授業研究に関する研修等の企画・運営及びそれらに関するコンサルティング業務や調査研究を担当。

 

取材・編集/大久保里咲、坂本実優、菅谷美月
写真提供/授業研究ラボIMPULS