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教育×ICTの四次元ポケット!【加藤研究室】

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Labエージェント4回目となる今回は、情報教室/情報教育教室の加藤直樹先生に取材しました!急速に進む「教育の情報化」ですが、学校現場にICT機器が導入されたり、1人1台端末を持つようになることで、教育はどのように変わっていくのか?教師の役割はどうなっていくのか?「主体的、対話的で深い学び」との関係は?さらに、加藤先生の「ペン」にまつわる研究も必見です。

2年間で情報教育を究める

編集チーム:どんな学科の学生が研究室に所属されていますか?

加藤先生:いまはA類情報教育選修(以下、A情)と、E類教育支援課程の情報教育コース(以下、E情)です。大学院生は教育支援協働実践開発専攻の教育AI研究プログラムの学生が多いですが、教職大学院の情報教育サブコースの学生もいます。(令和5年度入学生からはB類情報科コースも所属対象になります)。

編集チーム:学生はいつごろから研究室に入ることになるのでしょうか?

加藤先生:A情とE情の学生は3年生から研究室に所属し、その後2年間で卒業研究を仕上げていきます。

編集チーム:研究室に所属してから卒業するまでの流れを教えていただきたいです。

加藤先生:まずは、簡単なプログラミングの課題を6月くらいまで続け、夏休みの合宿をめどに自分の研究テーマを決めていきます。そこからは研究に打ち込み、4年生の10月ごろから卒業論文を書き始めます。1月末に卒業論文を提出して、2月に研究発表会を行い、合格すると晴れて卒業できます。

研究室によっても違いますが、私の研究室では、研究の進みが早い学生は4年生の12月、1月頃に学会発表することもあります。たまにですが、3年生の3月に学会発表をするような学生もいます。

 

加藤研究室のゼミのようす

編集チーム:学生はどのような進路に進むことが多いですか?

加藤先生:A情の学生は小学校の先生になることが多いです。教員志望ではない学生やE情の学生はIT系の企業に就職する場合が一番多いですね。教育と関わりのあるIT企業に進む人もいれば、教育とは関係ないIT系のシステムをつくる企業に進む人もいます。

専門は「コンピュータと教育」

編集チーム:先生の研究分野は何ですか?

加藤先生:私は農工大学を出て、情報工学、いわゆるコンピュータが専門です。HCI(human computer interaction)といって、どのようにしたらコンピュータが使いやすくなるか、便利になるかを考えています。なかでも、学生のころからペンでコンピュータに入力する研究をしています。いまはペンだけではなくタッチ入力も含まれますけどね。

学芸大学に来てからは、コンピュータと教育のつながりの研究をはじめました。ペン入力やタッチ入力の知見を生かして、電子黒板や一人一台端末を使ったコンピュータシステムの研究をしつつ、学生の指導をしています。

編集チーム:さまざまな入力デバイスがあるなかで、ペンに着目したのはなぜでしょうか?

加藤先生:いまはキーボード入力もフリック入力もできる人が多いだろうけど、何かを書くときにはペンで書くという動作が一番自然ですよね。もしコンピュータにペンで入力できたら、もっと簡単に、自由に入力できるようになると思ったからです。

デジタル教科書の新たな可能性

編集チーム:デジタル教科書の利点や、今後研究室として何か取り組みたいと考えていることを教えてください。

加藤先生:デジタル教科書があると、子どもたちは積極的に学習してくれます。子どもたちはデジタル教科書に線を引いたり、デジタル教科書内の図表を切り抜きしたりして、自分で考えるようになります。先生の役割は発問したり、たまに子どもたちの活動の流れを修正したりするだけで、あとは子どもたちが自主的に取り組むといった形になります。

学芸大学は、教育と情報を一緒に学べる数少ない大学です。なので、それを生かして何か取り組みたいと思っています。

また、教育や子どもたちの学びをより良い方向に持っていくために、ICTを授業や学校事務などさまざまな場面で生かしていったほうがよいという流れになっているので、そのシステム作りを学生たちと試行錯誤しながら取り組んでいきたいですね。

「あったらいいな」を創り出す場

研究の面白さについて、加藤研究室の学生6人に聞きました。研究室に入ると目の前にパソコンが並ぶ席があり、奥にはソファや毛布まである。「リラックスできる空間も欲しいなと思って」と神保一樹さん。学生の発案で空間づくりをしているそうです。

部屋の一角には軽食やお菓子が並ぶ棚、そして価格表…早い時間に閉まってしまう購買の代わりに始めたミニ商店がありました。加藤研究室には何に対しても「こんなのあったらおもしろいよね、作っちゃおう!」という雰囲気があり、この思いが研究への原動力になっているそうです。

 

研究室内に学生が始めたミニ商店

研究テーマは、「子どもの忘れ物を減らす支援をするスマートスピーカーの開発」や、VRゴーグルを使って星や星座を見る「星空ビジョン」など多岐にわたります。先輩の研究テーマを引き継いで、機器や機能を進化させている学生もいるそうです。大学院生の木村航大さんは「この研究室の学生たちは、役立つかどうかだけではなくシンプルに『こういうのがあったらいいな』という思いから研究をしています。研究の意味は後からついてくるという価値観がありますね」と話していました。神保一樹さんは「それぞれの研究が多様だから、相談をすると自分にない視点や知識、発想をもらえることが刺激的」だと語っています。

学生のみなさんに加藤研究室の良さについて尋ねると、オンとオフの切り替えがはっきりしている点を挙げていました。研究の時には真剣になり、休憩中は他の学生と気楽に話せるメリハリのついた環境が好きなのだそうです。

取材を終えて

加藤先生と学生のみなさんへの取材を通して、あったらいいなという思いを実現させていく、まるでドラえもんの四次元ポケットのように夢がふくらむ研究室だなと感じました。情報科、プログラミング、などと聞くと専門の人にしか分からない世界だと想像してしまいがちですが、加藤研究室の研究は専門外の私たちも身を乗り出して聞き入ってしまうようなおもしろさにあふれていました。この研究室で学生のみなさんが研究していることが、将来の教育現場や社会に登場するかもしれないと思うとわくわくしますね。インタビューへご協力いただきありがとうございました!

加藤 直樹(かとう なおき)

1998年東京農工大学大学院工学研究科博士後期課程修了。
日本学術振興会特別研究員を経て,東京農工大学助手。
2004年から東京学芸大学に勤務し2021年よりICTセンター教授.博士(工学)。
専門分野は情報工学(Human Computer Interaction)。
特にコンピュータへの入力にペンを用いる研究を進め、それと絡めて、教科書やノートや黒板の電子化など、学びを支援するシステム開発を行っている。

取材・編集/酒井南風 N. 菅谷美月