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TEAM「子どもたちの興味が輝く学びの場に。」 中学3年生と向き合う「自分のありたい姿」

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TEAM 子どもたちの興味が輝く学びの場に。

一人一人の興味・関心に寄り添った集団での探究型の授業、学びと向き合えない児童・生徒に対するキャリア教育、支援者の在り方やどのような支援の仕方が可能なのかを探っています。この支援者の存在として、先生でも親でもない〝サードパーソン〟がどのように関わっていくのか、そのモデルを研究開発しています。

『未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト』TEAM「子どもたちの興味が輝く学びの場に。」では、親でもない、先生でもない、様々な立場の第三者「サードパーソン」が教育現場に関わりながら、子どもたち個々の興味を引き出していく学びのモデルづくりに取り組んでいます。
2022年1月には、「サードパーソン」として、個々の魅力を引き出すことを仕事として携わるキャリアコンサルタントを中心とするキャリア教育コミュニティ「Eキャリ部」が、子どもたちに必要とされる資質、非認知能力(自己肯定感や協調性、やり抜く力など数値化されにくい能力)を育む原点となる「自己を知る/セルフアウェアネス」についての授業をプログラムづくりから参画し、東京学芸大学付属竹早中学校の1年生に実践しました。
2022年6月、さらに踏み込み、同メンバーにより「名刺をつくろう」第二弾として竹早中学校の3年生と「自分のありたい姿」に向き合う授業を2週に渡り行ってきました。

〈関連記事〉
TEAM「子どもたちの興味が輝く学びの場に。」のメンバーにインタビューしました
(TEAMのはじまりや中学1年生への授業について)

自分の「ありたい姿を考える」

東京学芸大学附属竹早中学校 3年

提案者:中野 未穂、青柳 智子、北川 雄久
実施日:2022年6月3日、10日
参加キャリアコンサルタント(五十音順):青柳 智子、今泉 恵美子、加藤 恭子、北川 雄久、塩崎 孝太郎、武田 さゆり、田中 みほ、東 杏美、山内 尚

自分自身を選択する

中学3年生のころを振り返ったとき、親や先生から「あなたは何になりたいの?」「何がしたいの?」と聞かれることが苦痛だったという経験はありませんか。迫ってくる高校受験を前に、クラスの雰囲気もどんどん変わってきます。「何になりたいかなんてわからないし、何がしたいのかもよくわからない」結局、自分の偏差値の前後で何となく行きたい高校を選ぶ、そんな中学3年生の姿もあるかもしれません。

合格することだけを目的に受験に臨むのと、自分がたどり着きたい未来を少しでも描きながら、その過程のひとつとして勉強に取り組むのとでは、モティベーションの質が大きく変わってきます。

「高校受験に向けた勉強が本格化してくる前の今だからこそ、その大切な時期を過ごす中学3年生に向けて、応援となるような授業をしたい」
中野未穂先生の思いが、今回の授業づくりへとつながっていきました。

「生徒たちはこれから、進学先として受験する高校を選ぶことになります。高校に入ったらその先には大学、さらにその先ではどんな仕事に就くのか、就かないのかも含めて、さまざまな選択を行うことになります。他の誰でもない、自分自身を選択することになります。そのはじめての選択となるのが、中学3年生です。これからも、その先も、選択をする場面に立ったとき、自分と前向きに向き合って、自分自身を生きるような選択をしてほしい、そんな気持ちからこの授業を提案しました」(中野未穂先生)。

「なりたい姿(Do)」を見つけるための「ありたい姿(Be)」

2020年文部科学省により「キャリア教育」として、小中高校にキャリアパスポートづくりが導入されました。

「子どもたちには、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実践するための力が求められています。」(引用:キャリア教育/文部科学省サイト)

「キャリア」というと、「職業」と関連した授業を行うことをイメージしますが、「キャリア教育」とは、もっと広い意味で自分自身の役割や価値を見出し、周囲との関係性を作り上げていきながら、自分らしい生き方を実践する力を育むことをいいます。

「キャリア教育」で使われるキャリアパスポートは、自分が取り組んでみたいことに向き合い、それを実現するためには何をしたらいいのか、といった「見通し」を立て、その後、プロセスを「振り返り」がんばったところなどを書き込むワークシートになります。「見通し」と「振り返り」を繰り返すことで主体的に学びに向かい、自分のやりたいことを実現する力へとつなげていきます。

学校の活動のなかで、子どもたちによってその都度書かれたキャリアパスポートは、小学校から中学校、高校、そして大学と、すべての学校へ運ばれていき、ポートフォリオとしての役目も持つことになります。

今回の授業では、生徒たちがこれまで書いてきたキャリアパスポートをベースに、自分がどんなことを感じてきたのかをたどっていくことになり、学校で実際に使われているキャリアパスポートをキャリアコンサルト自身も書いてみる、というところから授業づくりがはじまりました。

「大人でも書くのむずかしいね」「中学の頃、なりたいものなんて全然わからなかった」といった意見が出る中、「やりたいこと」「なりたいもの」は、まだわからなくてもいい、自分の「なりたい姿(Do)」を探していく手立てとして、まず自分の軸となる「ありたい姿(Be)」を見つけていこう、という授業が組み立てられていきました。

自分の軸とつながり 「ありたい姿(Be)」と向き合う

実践1限目
中学3年生 全4クラス 各35~36名

1限目は、東京や大阪など各地にいるキャリアコンサルタントが、教室にいる生徒たちとクラスごとにオンラインでつながり授業が行われました。

自分の将来について選択するとき、まず「やりたいこと」「なりたいもの」を見つけなくてはいけないのではないかと考えます。しかし「やりたいこと」「なりたいもの」は、簡単に見つかるものではありません。大人でも「やりたいこと」「なりたいもの」を言葉にするのは難しい場面があるかもしれません。「やりたいこと」「なりたいもの」が明確にならないと、先へ進めないのではないかと閉塞感を感じてしまいます。

「やりたいこと」は、自分の外の世界、社会に向けて行う行動「Do」です。その行動によって定義される仕事や職業が「なりたいもの」になります。外側に見えている自分の姿です。しかしその奥底、自分の内面には、行動「Do」を促し、支える、こう「ありたい」という「Be」があります。「ありたい」「Be」が自分の軸をつくっています。自分の「ありたい姿(Be)」と向き合うことで、そこから「なりたい姿(Do)」の選択肢が広がっていきます。

1限目の授業では、「やりたいこと」「なりたいもの」、「なりたい姿(Do)」が見つかっていない生徒も、すでに見つかっている生徒も、自分の内面に潜っていき、「ありたい姿(Be)」と向き合う時間をつくっていきました。

「Do」と「Be」

参加したキャリアコンサルタントから、自分の「ありたい姿(Be)」をどうやって見つけていったのかについてのストーリーが語られた後、「ありたい姿(Be)」とは一体何なのか、いよいよ自分の「ありたい姿(Be)」探しがはじまりました。

「ありたい姿(Be)」のキーワード集を使いながら、自分の「ありたい姿(Be)」を見つけようとしている生徒。「形容詞だよな」「これは形容動詞だ」「How do you ~ ? だから動詞か」などこれまで習ってきた英単語を「Do」と「Be」に置き換えてグループで話し合う生徒。「「なりたい姿(Do)」と「ありたい姿(Be)」の違いがわかりません~」と質問してくる生徒もいました。中学3年生が、はじめて自分の「ありたい姿(Be)」と向き合う姿がありました。

「なりたい姿(Do)」は、スポーツ選手とか、実際にそうなっている人の例があるからわかりやすいけど、「ありたい姿(Be)」は、人それぞれ違って、心理的な要素も入ってくるから見つけるのが難しい。

という生徒の発言から、「なりたい姿(Do)」と「ありたい姿(Be)」がどんなものであるのか、まずはその本質を確かに受け取ってもらえたのではないかと感じました。

自分を可視化する 「ありたい姿(Be)」の名刺をつくろう

実践2限目
中学3年生 全4クラス 各35~36名

2限目にあたる2週目は、3年生全体に一斉での合同授業が行われました。メインの授業はオンラインにより、現場である教室にはキャリアコンサルタントが1名づつ入り、生徒たちの間をまわっていきながら声をかけていく形が取られました。

1限目で見つけた自分の「ありたい姿(Be)」をもとに、2限目は「ありたい姿(Be)」の名刺をつくっていきます。中学1年生の実践(2022年1月)でも取り入れられたのですが、名刺にすることで、自分の中で何となく感じていたものを言語化していくことになります。生徒たちは自分の「ありたい姿(Be)」を掘り起こし、言葉にして表に出していきます。言葉だけでなく、ロゴマークやイラストが描けるスペースもあり、名刺という一枚で自分自身を可視化することになります。

自分の「ありたい」みんなの「ありたい」 自分自身を交換する

名刺は、人に見せ、交換することができます。他者と共有することで、新たな視点での相互理解を生み出します。相対的に自分をより深く認知する場にもなっていきます。

名刺が描き上がると、生徒たちは、席の隣や前後で自分の名刺を見せ合いはじめました。さらには席を離れ、名刺を交換し合う姿が教室のあちこちで見られました。オンラインでつながっているキャリアコンサルトにできた名刺を見せてくれる生徒もいました。

「好きなものを大切に!踊るように人生を」

「困難な中でも幸せを見つけられる人」

「人の気持ちに寄り添い 自分も周りも笑顔にできるような人でありたい」

「全てを楽しみ冒険する」

「「なりたい姿(Do)」と「ありたい姿(Be)」の違いがわかりません~」と声を上げていた生徒の名刺には「いろんな国の人たちとかかわりながら、いろんな国の人たちの手助けをする」という言葉とともに青い地球の絵が描かれていました。どの名刺にもその生徒だからこそ持ちえる「ありたい姿(Be)」が並んでいました。

育っていく問いを渡す

授業の後の振り返りのアンケートには、94%の生徒から「ありたい姿(Be)」について考えられた、という回答がありました。
たくさんのカリキュラムがある中で、このような授業を数多く持てるわけではありません。一方で、一回の授業ですべてのことを理解してもらうのは難しいことです。その分、生徒たち自身の中に浸透し、時間をかけて芽をだし育っていく種となるような問いを渡すことが大切になってくるのではないかと感じています。

今回つくった名刺は、これまで他の活動を通して書かれてきたキャリアパスポートと一緒に、生徒たちがこれから向かう高校、そして大学へ運ばれていきます。
自分の「ありたい姿(Be)」は、すぐにわからなくてもいいし、変わってもいい。いつか名刺を見返した時、改めて自分の「ありたい姿(Be)」について問う時間が持てるかもしれません。

生徒たちの振り返り

“自分の未来を想像するのは、急かされる感じがしてあまり好きじゃなかったが、「⚪︎⚪︎の職業になりたい」ではなく、自分の「ありたい姿」を想像するのは楽しかった。”

“自分のありたい姿に向き合ったり、考えてみたりすることはできたが、それを具体的に言葉にするのはなかなか難しかった。だけど、言葉にするという作業があったことで、自分はどんな風でありたいのだろうかとより真剣に心に問いかけられたと思う。言葉にするメリットや大切さを身に染みてわかったので、これから言葉にしていくように心がけたい。”

“私たちは、半年と少ししたら高校受験があります。そこでもし何かうまくいかないことがあったとしても自分のありたい姿を忘れないようにしたいと思います。”

“自分自身について見つめ直す機会を作れて本当によかったと思います。自分のありたい姿からなりたい姿まで考えた経験は、近くまで来ている進路選択の際に大きな指針になると思います。”

“志望校とか職業とか、そういう具体的な夢ではなくて、どういう人でありたいかという「今」について考えることができて、自分について深く知るきっかけになった。”

“他の子の考えを聞くことができて面白かった。ありたい姿は、その人のなんとなくの性格や、大切にしていることが自然に表れると思うから。”

“友だちのありたい姿について聞けて、人それぞれでやっぱり考え方って違うんだなと思った。”

その他に
“将来のことを考えるのに名刺づくりをするのは遠回りなのではないか。”
といった感想や
“自分のありたい姿について全く考えられなかった。”
“自分自身に全く満足していない。”
というアンケートの回答もありました。このような「自分と向き合う」授業によって、生徒の内面が見えてくる機会となり、より深い次の対話へとつなげることができるのかもしれません。

「まっすぐ」と「ななめ」の連携

TEAM実践では、日頃、本学校の生徒たちと関わることのない第三者のキャリアコンサルタントが、中学1年生の授業(2022年1月)においては、生徒たちと「1対1」で対話をするという形をとり、中学3年生との授業では「問い」を渡すことによって、自分自身を探求していく時間をつくっていきました。

1週目の授業が終わった後、中学1年生の実践にも参加したキャリアコンサルタントからは「小学生のあどけなさが残っていた中学1年生とは雰囲気が全然違った」「はじめ反応がまったくないので、受け止めてもらえているのか全然わからなかった」という意見が上がりました。

「中学3年生のこの学年は、グループで話をするのが大好きです。「話し合って」と言ったら、ずっと議論しているような子たちです。共有することの大切さを感じているのかもしれません」という中野先生からの一言により、2週目の授業では、多くの時間をグループワークに取っていこうという方向性が生まれ、生徒たちがお互いの名刺を交換し合うという場面にも繋がっていきました。
生徒たちと日々真正面から「まっすぐ」に向き合う先生との連携があった上ではじめて、第三者であるサードパーソンと生徒たちとの「ななめ」の関係が生まれるのではないかと感じています。

授業後のアンケートの「今後の進路を誰に相談してみたいですか?」という問いに、「先生」「母親」「友だち」についで「キャリアコンサルタント(12%)」があがり、「塾の先生」よりも多く、「父親」の2倍以上の数となっていました。「まっすぐ」と「ななめ」の連携によって、生徒たちの中から引き出せるものがあるのかもしれません。

親でもない、先生でもない、サードパーソンが教育現場に関わることは、まだまだ難しいという現状があります。先生とサードパーソンの連携をいかにつくっていくか、それによりTEAMのテーマである「子どもたち個々の興味が輝く学びの場を」生みだす可能性をさらに深めていきたいです。

取材した人:小芝 裕子(「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」事務局/Explayground ラボ「I am」)