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未来の学校 みんなで創ろう。PROJECT

TEAM 子どもたちの興味が輝く学びの場に。

TEAM 自分に目を向け興味をつなぐ学びの場を。~様々な立場の大人の関わりを通して~ 」のメンバーにインタビューしました

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「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」の中に「TEAM 自分に目を向け興味をつなぐ学びの場を。~様々な立場の大人の関わりを通して~」というワーキンググループがあります。一人一人の興味・関心に寄り添った集団での探究型の授業、学びと向き合えない児童・生徒に対するキャリア教育、支援者の在り方やどのような支援の仕方が可能なのかを探っています。この支援者の存在として、先生でも親でもない〝サードパーソン〟がどのように関わっていくのか、そのモデルを研究開発しています。
今回は、キャリアコンサルタントを中心としたキャリア教育コミュニティ「Eキャリ部」と、附属竹早中学校の教員と共同で研究開発したキャリア教育の実践についてインタビューしてみました。

活動名:キャリア教育「オリジナル名刺を創ろう」

 


授業者:東京学芸大学附属竹早中学校1年B組 中野 未穂
参加キャリアコンサルタント(五十音順)
相原 佳奈、青柳 智子、板津 薫、今泉 恵美子、大澤 美紀、甲斐 陽子 川上由紀子、菊池 幸、北川 雄久、木下 栄一、後藤 直子、武田 さゆり 原 麻衣子、福原 裕美子、森田 あつ子、山内 尚、山村 良雄
本実践のねらい
本実践は来年度以降にキャリア教育の一環として行われる職業調べや進路学習につながる実践として計画した。自分の関心のある事柄を起点として取り組めるように、まずは自分と向き合うこと、対話を通して自分を深く知ることを目的にしている。本実践のねらいは次の2点である。
・自分や他者を深く知るための対話の大切さを知る。
・対話を通して自分に目を向ける

 


中野先生がこの活動をはじめることになったきっかけや、この活動に対する想いはどこにあったのですか?

中野先生(以下敬称略):私が担当するB組は天真爛漫な生徒が多く、自分の関心があることや好きなことについて発言したり、行動したりすることに対してとても積極的です。好きな音楽グループやアニメの話など自分の関心のある事柄は気軽に発信することができる生徒が多いことから、学級全体として、「会話」は積極的になされて盛り上がっている様子が見受けられます。その一方で、いざ、話し合いの場面となると生徒同士で相手の考えを引き出すようなやりとりは少なく、「私はコミュ障なので」などと、発言することに対して遠慮がちな姿も見られます。クラス全体は活発な会話で気軽なコミュニケーションの場になっていますが、お互いに情報や意味を共有したり、お互いの価値観の違いを尊重したりするような対話によるコミュニケーションの場には至っていないのでは、と感じていました。

ちょうどその頃、「未来の学校 みんなで創ろう。プロジェクト」の「サードパーソン」の部会でキャリアコンサルタントの方との実践を模索する会議をしました。キャリアカウンセリングについて教えてもらいながら、担任一人ではなくコンサルタントの方々との合同授業のあり方について議論する場をもったのです。私のクラスの生徒の実態とキャリアコンサルタントの方々との意見交換から、自分の好きなことを掘り下げる場、自分の新たな面を発見する場として、他者との対話が重要であるということを改めて学びました。この他者との対話をキャリアコンサルタントの方々と行うことを通して、自分に目を向け、自分の興味関心や強みを知り、自分自身を深く知っていく機会がつくれるのではないか、そんなことを期待して、学年で取り組む活動を計画しました。

今回の「キャリア教育」はどのように進めていったのですか? また、授業を行って中野先生の手応えはいかがでしたか?

中野:一時間目は、キャリアコンサルタントの人たちと生徒の接点作りを目的としました。全国各地のキャリアコンサルタントの方々とオンラインで繋がり、自分のキャッチフレーズを創るワークショップを4クラス同時に行いました。この時間は、生徒同士3人グループで話をしました。お互いに引き出し合うような対話ができるのか未知数でありましたが、自分の好きなことについて、生き生きと話している場面や、「それはいつから好きなの?」「どうして?」などと質問している様子もみられ、ホッとしました。振り返りの記述では「好きなことを話すのは楽しい」「相手の好きなことを知れて良かった」という内容や「短時間で自分がどういう人なのかを深く知るのは難しい」という記述もありました。

二時間目もオンラインで行いました。この時間は、2年生になり職業調べや進路学習などの目線を外に向ける前に自分のことを知る機会を作ることを目的としました。そこでは、キャリアコンサルタントと1対1で 対話を行うことと、オリジナル名刺を創るワークショップを行いました。多くの生徒たちが、前回の活動内容やキャリアコンサルタントについて覚えおり、1対1での対話を楽しみにしている姿や緊張している姿が見られました。対話は、オンラインで一人 10 分間ずつ行われました。教室をパーテーションで6ブースに区切り、ヘッドセットを着けているため、周囲の声は聞こえずタブレットの画面に映るキャリアコンサルタントと1対1での対話ができる環境であったことで、どの生徒も集中して対話に取り組むことができていました。対話に入る前は「何を聞かれるんだろう」「緊張する」など硬い表情をしている様子が見られましたが、対話から戻ってきた生徒は、柔らかくリラックスした表情で「こんなこと聞かれたよ」「〇〇さんと話したよ」などと得意気に次の友達に伝えている姿がありましたね。

また、対話と並行して、自分を伝えるための名刺創りにも取り組みました。名刺作りのような「書く」という活動について、絵や文章で表すことが苦手で作業が進まない生徒もいましたが、キャリアコンサルタントとの1対1の対話の中では、自分の好きなことを引き出されている様子がありました。振り返りの記述をみると、「はじめ私は緊張していたけれどすぐにその緊張はほぐれて気軽に話せた。」とか「自分を勇気付ける言葉も頂いて嬉しかった。」など、前向きな事が多くみられました。印象に残っているのは、「自分でも自分自身について知らない部分があり、それを他人と対話する中で初めて見つけられることに気づいた。」とか「自分にもしっかりとはしていないけれど夢があることに気づいた。」など、自分自身が気づいていない自分を発見できたと記述している子が何人もいたということです。友達でもない、学校関係者や教師でもない、ある意味斜めの関係にあるキャリアコンサルタントだからこそ、生徒たちは、対話を通して「素」で自分をさらけ出せたのかもしれません。自分自身のよさや自分の好きなことを再認識したと記述する子もいて、自己有用感の広がりにつながるのではないかと期待がもてました。

この実践は、多くのキャリアコンサルタントの方が授業作りから参画しています。代表として、青柳さんからお話しをお聞きしたいと思います。まず、今回キャリアコンサルタントとして、大勢の方が関わっていましたが、どんな方々が参画されていたのですか?また、青柳さんが、今回参画された経緯や想いがありましたら教えてください。

青柳さん(以下敬称略):所属している「Eキャリ部」が、この「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」に参画しているということが直接的な繋がりです。「Eキャリ部」はキャリア教育に想いを持つ国家資格キャリアコンサルタントを中心とした社会人が、対話型のオンラインキャリア教育授業づくりをしているオンラインコミュニティであり、今回関わった皆さんはこの「Eキャリ部」の方々です。この中野先生の実践に関わった方は、総勢で17人になります。

私は「多世代・多カテゴリーの人々が混ざり合って対話をしながら社会、教育を創る」をテーマに30~70代の方とのワークショップや、学生とフラットな関係で働くという活動などを行っております。「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」の『「学校」という枠を超えて「みんなで」教育を自分ごととして考え、創る』という想いに大変共感し参画させて頂きました。

また、ちょうど同じ頃に、東京学芸大学で実施された「教育人材リカレント養成・マッチングプログラム事業」の講座に参加し、学校の現状や科学的アプローチなどいろいろな角度から教育について学べたことも参画への一つのきっかけになったと思います。

青柳さんが今まで関わってきた実践と、今回の中野先生との共同研究に違う点はありますか?

青柳:先生と共に、ゼロから授業作りに参画させて頂いたことが大きな違いです。今までは、既に着地点やニーズがある中で授業作りをする、もしくは、既にこちら側でつくったプログラムを提案するという形でした。今回、中野先生の想いを伺い、目的を考えるプロセスから関わることができ、目の前にいる生徒・クラス・先生に、より近づいた授業作りになったのではないかと感じます。また、先生方の抱える課題やキャリア教育の捉え方について現場の声を少しずつ伺いながら進めることができたのも、今までとの違いです。

キャリアコンサルタントの関わり方は、「心理的安心・安全な場を創ること」「傾聴と問いかけにより生徒自身に気づきを促すこと」「自己肯定感を高めるアプローチをすること」を大切に、それぞれのキャリアコンサルタントが「生徒一人一人にとって、良いきっかけになるように」と想いを持って関わっておりました。大切にしていたことは今までの実践と変わりませんが、事前打ち合わせや事後の振り返り時等に中野先生にもご参加頂き、その都度、生徒の反応や先生の感じた印象をもとに良いアプローチを行うために必要なポイントを細かく相談させて頂くことができたのは共同研究ならではかもしれません。

今回の実践の成果はどのように捉えていますか? また、今後この実践に期待しているところはありますか?

中野:今回の実践で、特に印象に残っているのは生徒たちの表情の変化です。初めてキャリアコンサルタントと対話する前は、緊張している表情をしていた生徒が少なからずいました。ところが、対話が終わった後には、みんなとても開放的な表情へと変わっていたんですね。それは、キャリアコンサルタントの方が、生徒を否定せずに受け止め、傾聴し、共感に基づく対話を心がけてくださったものだったので、生徒はとても安心して自分をさらけ出せる場であったんだろうなと感じています。キャリアコンサルタントの方が日頃行っている「対話をするためのカウンセリング技術」は、日々の生徒とのやりとりの中で教師が意識すべき姿勢とも共通していると改めて実感し、学ぶことできました。これは、教師としての私自身の成果ですが、これが一番の成果かもしれません。

生徒の振り返りを見ると「自分でも自分自身について知らない部分があった」とか、「他人と対話する中で初めて自分自身のことを見つけられることに気づいた」などの記述がありました。これまで改めて話すことのなかった気持ちや言語化しようと思わなかったことをこの対話を通して言葉にするきっかけにつながり、新しい気づきを得られていることがわかりました。このことから、対話により自分と向き合うこと、自分を深く知るというねらいは達成できたのではないかと思っています。

キャリアコンサルタントとの対話を通して、生徒が自覚のなかった気持ちが掘り起こされ、評価をしない第三者、サードパーソンだからこそ話しやすく、普段教師に見せている姿とは異なる一面があることもわかりました。多くの人が関わることで、生徒をみとる視点が増え、具体的に生徒の姿を知ることができたことも成果と言えます。
来年度の実践に向けて、例年本校で行われている職業講話や職業調べに取り組む際に、自分の関心を起点した取り組み方や相手を知ろうとする対話的なインタビューなどができるように、今回の実践をつなげていきたいと思っています。

青柳:授業内のワーク中に生徒同士が対話している場面に何度か出会いました。自分自身について見つめ、言葉にしたことでお互いに今まで知らなかった一面を知ることができたのではないかと思います。「それって〇〇ってこと?私は△△だと思うんだけど…」「 △△も分かるけど、私にとっては□□かな~」などお互いにとって意味の共有、すなわち「対話」を生徒同士で実践できたことは一つの成果だと考えています。


アンケートでは、「今までの自分について考える機会があまりなかった」という声がありました。生徒にとって、初対面の大人であるキャリアコンサルタントに、自分について言葉として伝えることはとても勇気のいることだった思います。そのような状況の中で「自分についての話を聞いてもらえて嬉しかった」「もっとキャリアコンサルタントと話をしたかった」「自分の好きなことや興味・関心について考えてみようと思った」などの感想があり、キャリアコンサルタントの関わりによって対話について前向きに捉えられる生徒を増やすことができたのではないかと考えています。

また、「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」の一つの研究であるこの授業づくりに参画させて頂き、今一番想うことは、プログラムを創るためには「生徒」の視点や感覚が重要だということです。今回の実践で生徒の皆さんの様々な想いを感じたので「みんなで」の部分に「生徒」を含めて創っていけたらと思います。

生徒たちの活動の振り返り

キャリアコンサルタントとの対話について

“10分という時間をすごくあっという間に感じた。はじめ私は緊張していたけれどすぐにその緊張はほぐれて気軽に話せた。”

“自分でも自分自身について知らない部分があり、それを他人と対話する中で初めて見つけられることに気づいた。”

“ストレスだと思っていないことでも、キャリコンさんと話しているうちにストレスだとわかりそれが解消されている気がしました。”

“最初に、声が可愛いと言われました。小学校の時など、色々な人から声が気持ち悪いと言われていたので、かなり驚きました。私の声は、嫌いな人の方が多いですが、嫌いでは無い人も一定数いるんだな、と思いました。”

“私は人との対話が苦手です。ものをはっきり言うのが苦手で嫌なことがあってもずっと笑顔でいます。でも、今回の授業で、自分にはしっかりした軸があり、自分なりの考えをきちんと持てていることに気づきました。”

“最初は話しづらく感じていたが、話すにつれて、こちらからもどんどん話せるようになった。話すにつれて、自分の特技や性格が見えてきて、前向きになった。”

名刺創りについて

“自分の好きなことを増やすことができた。”

“今までは初めて会う人に対してその人のことばかり知ろうと思っていたけど、これからは初めて会う人を知っていくと同時に、自分のことも相手に伝えられるようになりたい。”

“自分にもしっかりとはしていないけれど夢があることに気づいた。”

“自分の長所や個性は自由に表してもよく、そうすることでもっと自分のことを知ってもらえると思った。”

取材を終えて

今回は、授業者の中野先生、サードパーソンとして授業に参画したキャリアコンサルタントの代表として青柳さんから「はじめての名刺作り」の実践について語っていただきました。ありがとうございました。
お話を伺って印象に残っているのが、想像以上に生徒たちは、自分で自分のことをわかってなく、自分のことを語る機会がないのだなあということです。そして、他者と対話することを通して自分の気づかなかった側面に気づき、前向きに変容する生徒が少なからず存在したということです。自己有用感が芽生える瞬間があるとしたら、まさにこのような時なのでしょう。
この過程でサードパーソンが果たした役割はとても重要だと思いました。共感、傾聴などのカウンセリング技術も大きな役割を果たしたかと思いますが、教師でもない、親でもない斜めの存在としての第三者という立場がとても貴重な存在ではないかと思っています。
一昔前なら、我が孫に無条件で愛情を捧げるおじいちゃん、おばあちゃんという存在が身近にいたかもしれません。兄弟が多かったり、親戚が多かったりすれば、年の少し離れたお兄ちゃん、お姉ちゃんという存在がいたかもしれません。小さい頃、近所の路地裏で群れて遊んでいたガキ大将や世話好きなお姉ちゃんが今も近所に住んでいて、お祭りの時などに神輿の担ぎ方とか、浴衣の着こなしなどを伝えていく文化が残っていたかもしれません。そこでは、教師でもない、親でもない「斜めの関係」が自然と息づいており、親や教師の期待に応えなければいけないというプレッシャーを気にすることなく、「本当にしたいこと」「本当の自分のこと」などを表出できる相手と空間が存在していたのかもしれません。もちろん、良いことだけでなく、ちょっと悪いことも教えてもらったかもしれませんが…。
現在は、そんなご近所付き合いが根付いている地域社会も減り、核家族も進んで「斜めの関係」がなかなか存在しません。今回、この「斜めの関係」であるサードパーソンとして、キャコンサルタントの方が機能していて、改めて「斜めの関係」の存在は大切なんだということを感じました。
今後、キャリア教育のみならず、他の実践でサードパーソンをどう生かしていくのか、「TEAM 自分に目を向け興味をつなぐ学びの場を。~様々な立場の大人の関わりを通して~」の今後の研究成果が楽しみになりました。
インタビューした人:彦坂 秀樹(東京学芸大学教育インキュベーションセンター特命教授、東京学芸大学附属竹早小学校非常勤講師)

中野 未穂(なかの みほ)

東京学芸大学附属竹早中学校音楽科教諭

新潟県出身。高校までは新潟県で過ごし、音楽大学へ進学。大学でジャズと出会い、音楽教育を専攻しつつジャズコースに所属し、ジャズサックスを学ぶ。卒業後、東京学芸大学教育学研究科音楽教育専攻修士課程に進学。大学院では、「サンバのリズムを体感する手立て」をテーマに、文化や社会構造の中の音楽、授業の中で現地のリズム感覚を大切にした演奏方法について研究する。修士課程修了後、学芸大学の附属中学校を経て中国の大連日本人学校に勤務し、現勤務校に着任する。「TEAM自分に目を向け興味をつなく゛学ひ゛の場を。」では、キャリアコンサルタントの方々との対話を通して、第三の大人の価値を知る。子どもが自分の好きに自信を持てること、自分の新たな一面を発見する機会づくりなど、カウンセリング的な関わりとキャリア教育に関心をもち、実践開発に取り組んでいる。

青柳 智子(あおやなぎ ともこ)

国家資格キャリアコンサルタント/Gallup社認定ストレングスコーチ

大阪府堺市出身
2012年より9年間人材広告企業に在籍。大学生・若年層の就職支援業務に従事し3000名以上と面談。また、セミナーや就活イベントの企画運営、web求人広告のディレクションに携わる。就職支援時に、若年層の自己肯定感の低さや働き方に対する世代間のギャップに課題感を持ち、キャリア教育について研究を始める。現在はフリーランスとして、小中学校・高校・専門学校・大学のキャリア教育授業や、社会人向けワークショップ、バリスタ業を行う。多様な人が混ざり学び合うことで、互いに認め合える社会を創り、自分らしく在る人を増やしたいという想いをテーマに活動中。