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幸福度世界1位のオランダの中高生とWell-being探究「幸せって何だろう?」

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はじまりは自分のことを伝える会話の1ピース「I am」
お互いの「I am」を交換しながら、自分自身「I am」を知っていく
Explaygroundラボ「I am」では、世界中の子どもたちを繋いだ授業実践を行っています。

これまでの活動については、こちらになります。

 

取材した人:小芝裕子(Explayground ラボ「I am」)

日本の子どもたちは幸せではない?

下の表はユニセフが参加38カ国の子どもたちの「幸福度」を調べたランキングです。日本は「身体の健康」について1位になったにも関わらず「心の幸せ」がワースト2位になったことで大きく取り上げられました。

このランキングで「心の幸せ」とともに世界1位になったのがオランダでした。オランダの子どもたちの幸福度を育んでいるひとつに「教育」があるといわれています。

◎自分の進路を自分で選択できる

◎「個」を認め合う国のプログラム(ピースフルスクール)が幼少期から取り入れられている

◎イエナプラン教育
など

オランダにおいて「学校」とは

「自分の幸せを見つけ、生みだす方法を学ぶ場所」

「偏差値の高い大学に行けば良い会社に就職できて幸せになれる。だから勉強しましょう」といった外的要因からつくられる「幸せ」ではなく「自分でつくりだす方法」を学ぶのが学校とされています。

「オランダの学校ではどんな学びが行われているのか」「オランダの子どもたちはなぜ幸せなのか」オランダと日本の中高生を繋ぎ一緒に探究してみたいと考えました。

子どもの幸福度世界1位のオランダと日本の中高生によるWell-being探究
「幸せって何だろう?」

オランダ Vathorst College 14-15歳
日本 中学高校生

ここ数年、SDGs第3の目標にもなっている「Well-being」という言葉を目にするようになりました。

すべてが整ったらWell-being?

「自分」を取り巻くものには「家族」や「住んでいる街」さらにはそれを囲む「国」があります。

これら「すべてが整ったらWell-beingになるのか」そもそも「Well-being=幸せなのか」
「家族」や「学校」「住んでいる街」など様々な角度からWell-beingについて探っていく全11回のプログラムをつくっていきました。

参加してくれたのは、オランダ、アムステルダムから1時間程のアメルスフォールトにあるVathorst College の生徒57名。日本からは、北は北海道、南は鹿児島の離島、さらにはマレーシアに留学中の中高生54名が参加。オランダと日本の生徒を交えたグループをつくり、2ヶ月をかけワークに取組みました。

事前に行った日本の参加者へのアンケートには

「学校生活、授業や宿題、テスト、進路選択、子供の権利について話したい」
「オランダの教育制度について充実感・満足感があるか聞いてみたい」
「オランダの子たちがどうして幸福度世界一なのか、政治体制の違いから話してみたい」

オランダへの興味あふれる回答が並んでいました。

オランダ12時、日本20時 Open the door「はじめまして」

オランダはお昼、学校のオープンスペースから、日本は夜に向かう時間、それぞれの自宅から繋がり、プログラムをスタートしました。

 「違う」ことから見えるもの

「一日をどう過ごしている?」「教室ってどんな感じ?」「どんなふうに授業してるの?」

生徒さんから出てきた知りたいことをもとにやりとりをしていきました。

「歴史」の授業の交換

オランダで学んでいた単元は『第二次世界大戦』。「ナチスがどのようにして人をコントロールしていったのかをロゴのデザインから考えてみる」という授業が行われていました。

座る場所を「選ぶ」=意思を表示する

はじめの数分間、その日やることが全体に伝えられると、生徒たちは自分の好きな場所に移動し個々の作業をはじめます。座る位置によって「先生のサポートが必要」「話しかけないで」など意思表示ができるようになっているそうで、作業しながら部屋の中を自由に歩く姿もありました。

単元の終わりには、希望する生徒たちとアウシュビッツ強制収容所跡地を訪問(日本の遠足、修学旅行は、全員で行きますが、オランダでは選択ができるそうです)。「史実を覚える」というよりもそこから「何を感じるか」「どう考えるか」に重点が置かれた授業が行われていました。

寝ても「仕方ない」と「ありえない」時間

日本の教室は同じ方向に机が並び、先生の話を一方的に聞くという授業スタイルがほとんどかと思います。誰かが寝てるというのはよく見る授業風景です。

日本では、授業中寝てる子がいても先生は何も言わない、という話をしたら、オランダの子がすっごい驚いてた。オランダでは、寝てたらむちゃくちゃ怒られるって。

「選ぶ」=自分で考える

自分が関わってきた小学生たちは、3年生を過ぎる頃になると「どうする?」という質問に「何でもいい」「どっちでもいい」という答えを返すようになります。

自分自身を自由に表現していた幼児期から小学校に上がり、前を向いて授業を受ける日々がはじまります。子どもたちが何かを「選ぶ」場面は少なくなります。クラス、時間割、全てを用意された環境は「自分で考える」ことをゆっくりと奪ってしまうのだろうか、そんなことを考えさせられました。

子どもたちが自分で選択できるもの

日本では小学校を出たら、多くは学区にある中学に行き、高校へ進学します。試験の合否により進む道が決定されます。途中で学校を変わるには、大変な労力が必要となります。

オランダでは12歳から先、いくつもの学校から進む道を自ら選択でき、選んだ道は、その後も変更できるようになっています。

Well-being座標

様々な「違う」こと、また「同じ」ことが出てくる中で、グループのトピック「家族」「教育」「人種」「宗教」「戦争」などをもとにWell-beingにどのように影響しているかを並べていきました。

対話によって生まれる「問い」

どんなことがWell-beingに繋がるのか。ill-beingなものをどうしたら「持続可能なWell-being」に変えられるのか。回を重ね対話を深めていきました。

「宗教」って祈ることでWell-beingを生みだすのに「戦争」の原因にもなってる、何でだろう?

「戦争」ってWell-beingを求めてやってるんじゃない?でもやってることはWell-beingとは真逆だよね。

対話の先にたどり着く答え

「人種」について対話をしていたグループには、海外在住経験がある生徒さんが集まっていました。

やっぱりわかり合えないんじゃないかな。「人種」の問題ってどうすることもできない。重過ぎる。

海外に住んでいたからこそのリアルな言葉として聞いていました。
映画に出てくるヒーローや大統領の「人種」についてなどの話題をめぐった後、対話の最後にたどり着いたのは

慣れることなんじゃないかな。「違い」に慣れること。

対話によってしか導けない答えがあることを感じました。

世界を眺める新しいアンテナを立てる

2ヶ月の間、プログラムはそれぞれが過ごす日々と平行しながら進んでいきました。修学旅行先から参加してくれた生徒さんもいました。その過程で、生徒さんの中に「ここはWell-being?」「今、自分は心地良い?」と取り巻く世界を眺める新しいアンテナが立っていくのがわかりました。

マレーシアに行ったという中学生

日本より貧しいんだけど、住んでる人たちは日本の人たちよりずっと幸せそうだった。

アメリカから帰ってきた高校生

街はきれいだったけど、閑散としていて、日本って素晴しいところなんだなと思った。

書道の時間、ひとつの文字をいろんな角度から見ながら清書してる自分に気づいて。ああそうか、物や人もこんな風に見たらいいんだって。「ここは尖ってるな」とか「曲がってるな」とか。じっくり見てみると、物事すべてに奥深さがあるんだなって。

「1945」同じ時、世界で起こっていたこと

オランダの生徒さんのアウシュビッツ訪問の後、旅の報告をしてもらうことになり、日本からは、広島、長崎から参加している生徒さんに「原爆について」、その他「ひめゆりの塔について話したい」「空襲について」「特攻隊について」など手が挙がり「1945年世界で起こっていたこと」として交換をしていきました。

オランダの生徒さんによるアウシュビッツの報告

原爆投下へと繋がった1945年8月2日の富山大空襲

「原爆については知っていたけど、日本でこんなことが起こっていたのは知らなかった」

といった声がオランダから届きました。

自分が暮らす富山で起こった大空襲について話してくれた生徒さんは、戦争体験を語り継ぐ活動をしており、オランダ、日本の参加者から「戦争」への意識を問うアンケートをとり

「戦争を自分ごとにしていくために学校でどんな取組みができるか」

といった新たな「問い」へ広げていきました。

1945年に各地で起こっていたことを聞きながら、かつて日本のあちこちが、今のウクライナやガザのように戦渦にあったことに改めて気づきました。身近に戦争を思い起こさせる場面がいくつもあります。私たち日本人は戦争に対し、よりシンパシーを感じるのかもしれません。日本の生徒さんの中に戦争への意識がしっかりと根づいていることを知る機会となりました。

I am ○○ Well-being

2ヶ月を経て気づいたのは、オランダの生徒さんは、自分が感じることをとても大切にしているということでした。「今、自分は楽しいのか」「うれしいのか」、そして日本の生徒さんの人への心遣いには、他の国に類を見ないものがありました。
普段一緒にいるクラスメイトではなく、日本各地にいる同世代と繋がり、知らない同士が、ともに時間を過していきました。だからこそより必要となる思いやりや、癒し合う対話がいくつもありました。

このプログラムをはじめるにあたり「オランダの子どもたちは幸せ」で「日本の子どもたちは幸せじゃない」とは考えていませんでした。最後にどんなところにたどり着くのだろう、と思っていました。

最初は「well-beingって一体なんだ?」という状態でした。話し合っていくうちに、well-beingって特別な何かではないのだと感じるようになりました。休み明けに友達と久しぶりに会えたこと、家族とショッピングしたこと、お昼寝できたこと、部活が楽しいと感じれていること。
日常生活に広がるほんの些細なことをhappyだと感じられること、それが人々のwell-beingに繋がっているのだと、深く感じました。
住んでいる国によって教育制度の違いや社会構造の違いはあれど、当たり前と思って過ごしている毎日に存在している、沢山の小さな幸せに気付ける人の幸福度はとても高いんだろうなと思います。

嬉しい、楽しいなど感情が昂ったときのWell-beingと、それを感じる基盤にある穏やかな生活環境にWell-beingがあるのだと気づいた。

受験制度、学校のカリキュラム、不登校の問題など、解決を待っていたら大人になってしまうようなすぐにどうしようもできないことも沢山あるけれど、

自分でWell-beingに変えられるってわかったから。

自分で見つける答え

このプログラムには、誰の答えが正しい、間違ってるなどはありません。採点をされたり、直されることもありません。2ヶ月をかけて見つけた先にそれぞれの答えがあると感じています。

今回のプログラムで繋がったオランダの学校で実際に授業を受けたり、幼児が通う施設や小学校に訪問し、どんな教育が行われているのか見てきたいと日本の生徒さんのひとりが訪れることになりました。ホームステイをしながら、学校へ行き、生活を送ります。どんなものを見て、何を感じるのか。オンラインからはじまり、リアルな体験へ、プログラムを様々な形に発展させていけたらと思います。

 

Open the door 「はじめまして」 扉の向こうに広がる世界

人種や宗教、年齢、性別を越えて多種多様な人たちと「未来」への対話

 

 

取材・編集/小芝裕子