未来の学校 Topics
TEAM「子どもたちの興味が輝く学びの場に。」 中学3年生と向き合う「自分のありたい姿」
2022.08.29
未来の学校 Topics
2024.11.08
一人一人の興味・関心に寄り添った集団での探究型の授業、学びと向き合えない児童・生徒に対するキャリア教育、支援者の在り方やどのような支援の仕方が可能なのかを探っています。この支援者の存在として、先生でも親でもない〝サードパーソン〟がどのように関わっていくのか、そのモデルを研究開発しています。
「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」のTEAM「子どもたちの興味が輝く学びの場を。」では、先生でもない、親でもない、第三者が教育現場に関わることにより、生徒たちそれぞれの「個」の興味を引き出していくプログラムづくりに取り組んでいます。
「キャリア」と聞くと仕事や職業に関わる授業をイメージする方も多いかと思いますが、「キャリア教育」とは、職業や働くというところからさらに深めて、その根底にある「自分らしい生き方を見つけ、実践する力を育む」教育活動です。
普段関わることのない「サードパーソン(第三者)」とともに過ごす時間により、生徒たちの中にどんな変化が生まれるのか、授業実践にキャリアコンサルタントが参画し、中学生に向けた新しいカタチのキャリア教育授業を行っています。これまでに、中学1年生、3年生と行ってきた本授業実践。3部作の最後となる中学2年生での取り組みをお届けします。
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「職業”人”調べ」
東京学芸大学付属竹早中学校2年
提案者:中野未穂先生、神澤志乃先生、青柳智子、北川雄久、赤土豪一
参加キャリアコンサルタント(五十音順):板津薫、乾千嘉子、今泉恵美子、大澤美紀、加藤千佳世、木原三知子、黒田あき子、武田さゆり、仲祐佳、間野祐子、山内尚、山本貴之
多くの学校で行われている「職業調べ」の授業。身近にいる大人(親や親戚)の「仕事」について調べたり、保育園や病院や店舗など現場に行き「働く」体験をしたりする活動が主に行われています。一方で、「仕事」や「働く」という行為に触れながら、職業調べという授業名に表されるように、職業や仕事について調べることが中心となり、そこから自分の将来と結びつけて考えるという過程にまでは至っていないものが多いようにも感じられます。
そこで、今回の実践に向けて行った生徒たちへの事前アンケートで、職業や働くことに対するイメージや思いについて聞いたところ、
「未来の事を知るのは怖い」
「「いよいよ大人になるんかな~」というワクワクと、「もう大人になるのか…」という悲しさで複雑な気持ち」
「今までとは違う見方で、自分に合った職業を考えられそう」
と、不安や怖さを感じるという声とともに、自分の将来に積極的に向き合おうとする声も上がっていました。
「職業」「仕事」とは、「自分」という船をこいでいくオールのようなものだと感じています。オールを漕いでいきながら、いろいろな人に出会ったり、思いもかけないところにたどりつく。その流れや過程によって「自分」を表現していきます。流れの中で「自分」は何を大切にしているのか(=価値観)を持つことで、オールという道具(=仕事)が生かされるのだとしたら、道具がどう変わっても「自分」を漕ぎ続けることができます。本授業実践では、全4回の授業とその間に行う課外ワークにより「働く」ことを通して「人」が感じる多様な価値観を見つけるプログラムを、先生とキャリアコンサルタントが二人三脚でつくっていきました。
実践1限目
2023年11月24日
「自分」への扉を開く14の「問い」
何がはじまるんだろう、と様子を伺っている生徒たち。授業のタイトル「職業”人”調べ」を見て「『職業調べ』はもうやりました〜」と声を上げる生徒もいます。
生徒たちに配られた14の「問い」が並んだシート
「自分」の表層に現れていることへの質問からはじまり、自分の内面へと潜っていくような質問が続きます。最後には、少し先の未来に向けた質問へとたどり着きます。このシートは、14の「問い」に答えていきながら「自分」への扉を一つずつ開いていくよう構成されています。すぐに答えが埋まる「問い」ではありません。まずは「自分」への扉をたたいてみる作業がはじまりました。
次に、このプログラムの軸となる「職業”人”」のインタビュー映像を視聴してもらいました。
これまで学校で行われてきた「職業調べ」では、その人がどんな「仕事」をしているのか、内容を調べるものが多かったと思います。「職業”人”」インタビューに出てくる人たちは、その奥にある「仕事」を通して何を大切にして生きているかについてお話をします。
まずはクラス全員で同じインタビューを見てもらいました。「働く」=「お金のためにやること」と考えていた生徒たちの前に映し出されたのは、これまで見たことも聞いたこともない、「働く」=「自分らしい生き方を見つけること」と話す大人の姿でした。
実践2限目
2023年11月30日
新しい波を生みだす
2限目では、1限目で見てもらった「職業”人”」のインタビュー動画を20本用意し、20人20通りの「『働く』ことへの価値観」に触れてもらう時間をつくっていきました。
インタビューの一覧が掲載されたシートには、その人たちのいわゆる「職業」の名前ではなく、「仕事」という道具を使って、その人がどんな生き方を見つけようとしているのか、何を大切にしているのかが「#ハッシュタグ」として並んでいます。「#感動労働」や「#失敗しか勝たん」など、一見しただけではわからない「#ハッシュタグ」もあります。
並べられた「#ハッシュタグ」をもとに気になる動画を選び、グループで視聴していきます。グループ内で同じインタビューを見て、それぞれが感じたことを共有し合うことで、自分が感じられなかった視点を得ていきます。
次には、自分ひとりでインタビュー動画を選び視聴していきます。その後、自分が気になった「#ハッシュタグ」は何だったか、どうしてその言葉が気になったのか、視聴して感じたことなどを言語化し、グループの中で共有してもらいます。
1限目、2限目のプログラム前半部分では、多様な人たちの「働く」=「自分らしい生き方を見つけること」という新しい価値観に触れてもらいました。これまで見たことも聞いたこともないものを前にどう受け止めたらいいかわからない、と戸惑いを見せる生徒もいました。「つまらなかった」とわざわざ言いにきて先生に抵抗感を示す生徒もいました。新しい価値観というインパクトのある小さな石が投げ込まれた生徒たち。それぞれの中でどのような波の模様を描き広がっていくのでしょうか。
課外ワーク
「職業“人”インタビュー」
「問い」を見つける=自分ごとにする
実践3限目
2024年1月11日
中学生だった親と「対話」する
課外ワークとして、職業“人”インタビュー動画づくりに取り組んでもらいました。動画をつくりにあたり、あらかじめ提示されたインタビュー相手への質問項目とは別に、自分自身で「問い」を一つ考えるこが課題として出されました。
「問い」を見つけるためには、その対象をじっくり観察して、自分の中に取り込んでいく必要があります。生徒たちは、自分自身で「問い」をひとつ見つけ出すことを通じて、今回のテーマにコミット=「自分ごと化」していきました。
3時限目では、それぞれが課外ワークで撮影してきたインタビュー動画をグループで共有する時間をつくりました。
課外ワークに取り組んだのが、冬休み期間だったこともあり、自分の親を対象にインタビューを行った動画が多くみられました。生徒からは「普段、家で過ごしている様子を知っているからこそ感じるギャップに心をうたれたし、かっこいいなと思った」という感想も。インタビューという行為が生みだす距離感により、いつも一緒に過ごしている親をひとりの「人」として捉える視点もつくりだされたようでした。
用意された質問項目には、「中学生だった自分」から「現在の自分」を結びつける問いもあり、かつて中学生だった親と、今この時に中学生である生徒が時間を越えて対話を交わしているようでした。自分の将来がわからなくてモヤモヤしたり、焦りを感じたりする生徒もいます。わからないことはダメなことではなく、むしろそれでいいのだということ、そのモヤモヤから未来の自分が生まれてくるのだということを、中学生だった親との対話を通じて、生徒たちにも伝わったのではないかと思います。
実践4限目
2024年1月20日
未来に向けて「自分」への扉をふたたび開く
最後の授業となる4限目では、1限目に取り組んだ「自分」についての「14の問い」にもう一度向き合いました。
キャリアコンサルタントと1対1で15分程話す時間をつくり、その後に、14の質問にもう一度答えてもらいました。
普段まわりにいる親や学校の先生などの大人は、自分のことをよく知っている人がほとんどです。一方で、今回の授業の中で向き合ったキャリアコンサルタントは、自分のことをまったく知らない第三者です。自分について何の先入観を持っていない「サードパーソン(第三者)」だからこそ、身近な人には話しにくい自分の内面について語ることができ「まっさらな自分と向き合う」時間になったのかもしれません。
生徒からも、
「今まで自分のことを人に話したことはなかったのでスッキリしました」
「自分の悩みを言語化して人に伝える機会は今後の人生においても中々ないものだと思うので、とても良い機会だった」
「人との対話は新たな価値感を生むので大切にしていきたいと思った」
といった感想があがり、聞いてくれる人がいることで「自分のすべてが肯定される」という貴重な体験にもなったようでした。
本チームのプロジェクトでは、中学1年生と共に「自分」と向き合うはじめての時間をつくり、中学2年生では、「自分」を見つけるために価値観を広げる作業を行い、中学3年生にて、生きていく上での軸となる「自分のありたい姿」を探していきました。3年間というプロセスを通してたどり着いた「自分」を持って、生徒たちは高校、あるいはその先の道へ向かって行くことになります。
自分の未来についてリアリティを持って考えはじめる中学生という時期に、「サードパーソン(第三者)」であるキャリアコンサルタントと一緒に「自分」というものを探究していく3つの授業。キャリア教育の新しいカタチとしてプログラム化し、様々な学校で実践されることを目指して今後も活動を発展させていきます。
取材した人:小芝 裕子(Explayground ラボ「I am」)
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