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2024.02.22
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2022.10.19
東京学芸大学のおもしろそうな研究室を探し出し、その研究活動を分かりやすく発信するLabエージェント。第3回目は地理学分野の椿研究室を取材しました!文化地理学とはどのような学問なのでしょうか?文化という観点で、景観や食文化などさまざまなものにアプローチしていく椿先生の研究室のようすをお伝えします。
編集チーム:椿先生の研究分野を教えてください。
椿先生:文化地理学と歴史地理学が専門になります。文化地理学は、文化という非常にアバウトなものが対象で、地理学といいながら、目に見えない人間のイメージ、感覚、思いなども具体的なテーマになります。それから、衣食住のような生活文化や、風土や場所に根ざした地域文化、北米のマイノリティについても研究しています。多民族社会・多文化社会を対象に、ホスト社会(※1)との関わりのなかで文化がどう変化していくか、どんな風に継承・創造されていくか、ということに関心をもっています。
※1 ホスト社会…移民や外国人労働者、観光客などの域外からの人びとを受け入れる側の社会。
編集チーム:椿先生の研究は、学校教育や生涯教育とどのような関連があるのでしょうか?
椿先生:教育との関連でいうと、異なる文化や価値観をもっている人たちがどんな風にうまくやっていけるのか、地域社会を持続させていけるのかにつながると思っています。
地理学は、教科書的にいうと地域や国がそれぞれどのような特徴をもっているのか、どのような違いがあるのか学びます。ですが、それが「違うよね」で終わってしまうとつまらないと思うんです。どこが違うのか、何で違うのかという、背後にある関係性やしくみなど、目に見えない構造を解き明かすことで、「こういう考え方をする背景にはこんなことがあるんだな」というのを理解することができれば、お互いの意思疎通や関係づくりにつなげていくことができるのではないかと思っています。
編集チーム:さまざまな分野があるなかで、なぜ地理学を選んだのでしょうか。地理学の魅力を聞いてもいいですか?
椿先生:実は私、大学3年生の終わりくらいまで、地理学って人間味が薄くてつまらないなって思ってたんですよ。当時は生活文化史とか人類学とか民俗学の方に関心があったので、まさか自分が地理をやるなんて思っていなくて。
大学4年生のときに受けた歴史地理学の授業が、毎週「今朝何を食べてきたか」という問いかけから話がはじまる、食をテーマにしている先生の授業だったんです。そこで、自分がいままでつまらないと思っていた地理って、自分の捉え方がすごく狭かったことに気が付きまして。食文化もそうであるように、人々の日常生活そのものを扱える学問なんだ、目に見えないものも場合によっては地理学になるし、空間や場所と結びつけて具体的に把握できるんだ、ということに初めて気が付き、それで地理学の方に足を踏み入れたという感じです。
編集チーム:椿先生の研究室である文化地理ゼミには、どの学科の人が所属していますか?
椿先生:人数が多いのは社会科の学生、院生です。年によりますが、環境教育や多文化共生教育の方、留学生が一緒に参加してくれることもよくあります。
編集チーム:研究室に入ってからの年間スケジュールを教えてください。
椿先生:授業期は、毎週木曜の18時から、各自の発表を中心に活動しています。あと、コロナ禍では全然できなかったのですが、夏休みや春休みなど長期の休みの間には、宿泊込みで巡検(※2)したり、行けるときは韓国や台湾、カナダやエジプトなど、海外に行くこともありました。年間スケジュールとしてルーティンなのはそんな感じですね。
※2 巡検…現地で景観・土地利用やさまざまな地理的特徴を観察・体験しながら、地域・場所の特徴を五感をとおして理解するフィールドワーク。
「地域調査法」の授業での巡検の様子
編集チーム:研究室に所属している学生は、卒業後どのような進路に進まれていますか?
椿先生:学校の先生になる人が多いですね。小学校か中高かはその年によりますが、大学院生は中高を志向する人が圧倒的に多いです。その他には公務員や企業、日本人学校や塾、警官や劇団員、ミュージシャンまで、テーマ同様に多彩です。
編集チーム:どんな学生に研究室に入ってほしいですか?
椿先生:来る者は拒まずですが…。できることなら食べ物でも音楽やファッションでもなんでもいいので、広い意味での文化的なものと人間に関心があるといいですね。自然や風土、地域社会に対する好奇心があればいうことなしです。
それから、私自身は、コミュニケーションをとりながらお互いエネルギー交換できるといいなと思っています。人と話すのが苦手だったり億劫な人もたくさんいると思いますが、この研究室に入ったら少しずつでもいいのでコミュニケーションをとって、今日話して楽しかったなと思ってくれるとうれしいです。
編集チーム:今後、研究室として何か取り組んでいきたいことはありますでしょうか。
椿先生:今期、いくつかのプロジェクトを進めているのですが、1つは屋上の景観を素材に周辺地域を読み解いていくという「景観パノラマプロジェクト」です。この研究室のあるサンシャイン(中央7号館)の屋上は大パノラマで、富士山はもちろんスカイツリーや筑波山まで見えるときもあるので、そういったパノラマから地域の特徴を読み解きたいなと思っています。小学校でも学校の屋上に上って身近な地域を観察しましょうという授業はよくやりますよね。
編集チーム:サンシャインからのパノラマから、小金井市や国分寺市を地理的に見ていくのはとても興味深いです。
椿先生:あとは国立にある「辻調理師専門学校」が2024年に学芸大学の北門の脇に移転される予定です。そこでは、調理以外にも、素材についての作物や環境についての学びも行われるので、それを地理学とも関連させようとExplaygroundで「くいしんぼうラボ」という食·農·環境を考えるラボを立ち上げ、活動しています。食文化は奥が深く、学生さんにも興味がある人は多いと思うので、分野を超えて新たな学びを創っていきたいなと思っています。
椿研究室に所属する20名のメンバーのうち今回は3名の学部4年生、3名の大学院生の6人にインタビューしました。
学生のみなさんが実際に研究しているテーマは、埼玉県浦和地域、信濃川沿いの山村といった特定の地域についての研究や、銭湯やeスポーツカフェといった施設についての研究など、非常に多種多様でした。研究室としてひとつの方向性を決めるのではなく、各人の興味に応じて卒業論文や研究を進めていくというのが椿研究室の特徴だそう。
椿研究室を選んだ理由としては「観光」や「人々のつながり」といった文化地理学に関係することに興味があったという理由が多かったです。また、ゼミの雰囲気に惹かれたといった学生もいました。
卒業後の進路としては、中高一貫校の地理の教員を目指す人が多くいました。中高一貫校は、中学生、高校生の時期を6年間という長いスパンで関われるところが魅力的だということです。また小学校の先生や日本人学校の先生を目指している学生もいました。椿研究室全体では、やはり教員になる人が多いそうです。ほかにも、学生のみなさんからたくさんのお話を聞かせていただきました。インタビューにご協力いただきありがとうございました。
取材を通して、私たちの日常生活と深く結びついている、地理学の新たな魅力を発見することができました。また、椿先生の研究室は、それぞれの興味に合わせて研究テーマを決めるということで、学生さんがさまざまな研究をされていたことが印象的でした。Labエージェントでは、引き続き学芸大学の研究室の魅力をお届けしていきたいと思います。お楽しみに!
椿 真智子(つばき まちこ)
西伊豆生まれ・静岡(旧・清水)育ち。子ども時分はちびまるこちゃんと同じ世界観の中で日々過ごす。大学3年までは地理学以外の学問に惹かれていたが、遅まきながらフィールドワークの魅力や地理学の新たな知見を知り、この道に迷い込む。
専門は文化・歴史地理学。人びとの暮らしや活動・行動ならびに眼には見えない意識や感覚・価値観と、地域・場所と時間とが常に交錯する地理学的世界を追究し今にいたる。自然も人間もふくむ多様な要素の関係性により、地域や場所の特徴・意味が創出され、課題も生じることを重視。日常を地理的な眼差しで捉え直し、多様な人・モノ・場所・地域の関係性と持続性とをともに考えていくことを希求して、地域や多様な方々との活動にも積極的に関わる。
主な研究フィールドは日本と北米。地域文化、景観、エスニック文化や文化継承、アイデンティティ等の文化事象。現在、環境教育研究センター長、「武蔵野らぼ」「グローカルジオ・ラボ」代表、辻調理専門学校との連携事業や「くいしんぼうラボ」にも参画。
取材・編集/酒井南風 N. 菅谷美月 菅俊平