未来の学校 Topics
TEAM「子どもたちの興味が輝く学びの場に。」 中学3年生と向き合う「自分のありたい姿」
2022.08.29
未来の学校 Topics
2021.11.12
教育のICT化が進み、電子的なコンテンツが増える中、学校において図書室はどのような役割をはたしていけるのか。教科教育におけるデジタル書籍の活用方法のモデルを開発しつつ、探究学習などの児童生徒の学習成果をデジタルデータ化し、アーカイブしていくプラットフォームを開発していきます。
「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」のひとつに、「TEAM 未来の図書室をつくろう。」というワーキンググループがあります。「デジタルで流通している情報が飛躍的に増えているなか、未来の図書館はどうあるべきか」を研究しています。このワーキンググループも他のグループと同様に、学校現場の教員だけでなく、大学の教員や企業の方、教育の仕事を志す方など多くの方々が参画され、多種多様なメンバーで構成されています。今回はポプラ社から参画されている松田恭子さんと齋木小太郎さんに、いろいろとインタビューしました。
松田 恭子(まつだ きょうこ)
株式会社ポプラ社 こどもの学びグループ こどもの学び研究所 所長。新潟県長岡市出身。ずっと地元の公立育ち。神奈川県の公立大学から教育系企業に就職。出版部門で通販事業や雑誌のプロモーション・マーケティングを担当。ポプラ社に入社後、一般書籍や児童書の宣伝・広報部門を経て、新規事業立ち上げに際してこどもの学びグループへ。広報・プロモーションとともに学校連携やリサーチを担当。
齋木 小太郎(さいき こたろう)
株式会社ポプラ社 こどもの学びグループ こどもの学び研究所 主任研究員。福井県福井市出身。地方の国立大附属小中から公立高校へと進み、大学は理学部で物理学を主に学ぶ。出版社に就職し、週刊誌、音楽雑誌編集者などを経てポプラ社へ。前職中に放送大学大学院を修了。『ポプラディアプラス 世界の国々』『総合百科事典ポプラディア 第三版』の編集、「百科事典の使い方」の研修、図書館総合展や図書館マルシェのセミナーや座談会のコーディネート、ファシリテートを担当。
このプロジェクト、「TEAM 未来の図書室をつくろう。」に参画しようと思った背景やいきさつを教えてください。
松田さん(以下敬称略):以前児童書や一般書の広報を担当していたのですが、そのころから、東京学芸大こども未来研究所(注1)がおもしろいことを研究されているな、と注目していました。私の勤めるポプラ社で昨夏、私たちが今所属する「こどもの学びグループ こどもの学び研究所」という新しい部署が立ち上がり、一緒に活動するパートナーを探していたのです。ちょうどその頃、「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」のプレスリリースがあり、同僚の齋木と「これだ」と。こんなぴったりなことをやってるところがあるんだねと意見が一致したんです。ポプラ社の考える学びというのは、どうやって子どもたちに「好き」を見つけてもらって、生きる力を育むかというポイントに重点をかけています。ポプラ社のこどもの学びグループでは「こどもっとラボ」という事業ブランドを立ち上げて、「遊びをもっと、学びをもっと。」をコンセプトに掲げているのですが、学芸大学のラボとポプラ社がやろうとしていることはとても親和性が高いと感じたのです。齋木の方で学芸大学の附属図書館の高橋菜奈子先生とつながりがあったので、さっそく連絡を取らせていただいたことがきっかけです。
齋木さん(以下敬称略):自分がもともと国立大附属出身だったということもあり、親しみを持っていました。学芸大学の附属学校は子どもの主体性、子どもの判断を尊重されているところ、いわゆる型に押し込むような教育はされていないということは承知していました。今、松田からも話がありましたが、「かいけつゾロリ」や「おしりたんてい」を刊行しているポプラ社という会社が、学びの事業に乗り出すには、どこかと組まないといけない。では、どこと何をやっていけばいいだろうと探していたんですね。「かいけつゾロリ」のようなやんちゃな部分をもちつつ、子どもの学びをどう膨らませていけるのかという部分と、「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」の学びと遊びの部分が合致したんです。私たちにとっては、すごくぴったりのパートナーがみつかったなと思っています。
(注1) 東京学芸大学の教育に関する実績や大学の「知」である子どもに関わる「ヒト」「モノ・コト」「コミュニケーション」を、様々なニーズに合わせてカスタマイズし、社会に発信・提供する『NPO法人東京学芸大こども未来研究所』のこと。https://codomode.org/
やんちゃでエンターテインメントの部分と学びを含めて「ぴったりのパートナー」といっていただけるのは大変うれしいですね。お二人が、今、関心のある教育問題はどん なところでしょうか。
松田:気になるのは主体性についてでしょうか。自分の小中学校時代の経験も踏まえて、子どもの側に選択肢が少ないのではないのかな、と素朴に思うところがあります。読書をとってみても、すごく個人的な営みですし、興味の幅って人それぞれだと思うのです。私と齋木でも読んできたものはおそらくまったく違いますけど、今こうやって同じ会社で働いています。今、学校向けの電子書籍サービス(注2)をやっていますが、学校の現場に落とし込んでいくにあたっていろいろなハードルが日々リアルに聞こえてきます。もともと読書を含めていろいろなことを公教育の型にはめ込むことは難しいと思いますが、ICT活用がこんなに進む今の世の中で、学校教育も根本的に変わっていかないと日本の将来はまずいのではないか、という心配があります。これからは、ICT活用度とともに、子どもの側の自由度と選択肢を広げていけるといいと思っています。
齋木:私も子ども側の選択肢を広げることはとても大事だと思っています。ただ、ICTの改革含め、そういうことって、先生たちだけでできるのだろうか。失礼に聞こえるかもしれませんが、従来型の教育のあり方とインターネットの文化とは相性が悪いところも多いですし、職務の性質上、自由にSNSやツールを使える環境も作られていなかった。子どもに選択肢を与えるなら、それに応じた対応ができないといけないし、これまで以上にスキルや知識や準備が必要になる。それを急務として、本当に忙しい先生方に「待ったなしです、よろしく」では難しいですよね。じゃあ自分は、また学習にしても読書にしても、「学校」と重なりつつも、ちょっとはみ出しているようなものを出版してきたポプラ社は、学校の外側からなにができるのだろう、というかたちで問題意識を持っているという感じですかね。
(注2) 本プロジェクトで竹早小の電子書籍を活用した授業実践に使われている電子書籍読み放題サービス『Yomokka!(よもっか!)』https://kodomottolab.poplar.co.jp/mottosokka/yomokka/
なるほど。では、今お話しいただいた教育の問題を解決する糸口、このプロジェクトに対して期待していることはどんなところでしょうか。
齋木:この「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」みたいにいろいろな企業の方に学校現場へ入ってもらう、もっと地域とのつながりを広げるというのは解決する一つの方法ではないかと思っています。
私は、主に学校司書や司書教諭に向けた研修で「百科事典って実はこんなに楽しいんですよ」と意識を変えてもらうような草の根的な仕事を地道にしています。これが管理職や教員の方にも行えたらいいなとも思いますが、では、私が授業を引き受ければよいかというと、それはちょっと違うと思うんですね。楽しさや、楽しさへと導く仕掛けは、百科事典の作り手として提示できる。でも目の前の30人、40人の子どもたちに、実際にどう話をして、どういうケアをしていくかというのは、ずっと子どもたちと接している人(教員)には敵わない。「出版社の人」が目の前でなにかしゃべってるのを聞くというのは、あくまでも飛び道具的なものかもしれないけど、教員だけでは提供できない貴重な体験になるかもしれません。さらにそういう交流が日常になれば飛び道具でもなくなる。やれることもやりかたもいろいろあると思うんです。教員と我々企業が、お互いに得意なことを教育の現場で生かしながら、それをお互いに学びながら、教員も企業もお互いがwin-winになるような関係の中でプロジェクトが進むといいなあ、と思っています。
松田:学校の中って意外と外からわかりにくいと思うんですね。だからこそ、どんどん外に発信していこうとするプロジェクトであることが素敵だなと思っています。いろいろな所に発信することで、うちでもやってみようという先生方からの反応があるんじゃないかと期待しています。
お二人が考える「未来の図書館」像はどんなものでしょうか。
齋木:これからの時代、デジタルか紙かというのは目的に応じて必要な方を選ぶというだけで、使う人からみるとどちらでも関係ないと思うのですね。学校図書館にいけばデジタルでも紙でも、情報が、またその手がかりがある。そして、それを使ってどういうことができるかを調べることができる。そのための設備と人が図書館に必要だろうと思います。また現在は、インターネットの普及で、いろいろな情報を得るために使っているツールがそのまま情報発信にも使えるという双方向性が当たり前になってきていますから、発信をするという行為も図書館で行うことになっていくでしょう。調べたり、発信したりする機能をごそっと図書館が引き受けることになるんじゃないかなと思います。大学図書館のラーニングコモンズ(注3)のように「みんなで相談しながら資料を見ながら語り合える場所」が普通に図書館にあって、それをサポートする人がいる。このような考えが小中学校の図書室に生かされ、学校生活や授業にどうフィードバックされていくのか。図書館の未来像の土台はここにあると思います。
松田:私は子どもの頃、図書室が好きで本を通じて外の世界と出会ってきた実感があって、図書館は今の時代に生きる今の子どもたちにとっても、楽しいと思える場所になってほしいなと思っています。
何かに興味をもって、やりたいこと、例えばゲームのプログラミングがやりたい、もっと本格的な絵をパソコンで描きたいとか、自分のギガ端末ではできないことも図書館に行けば高性能のPCでできる、知りたいことが出てきたら詳しい本が読める、みたいな、いろいろな学びや遊びができて好奇心が刺激される場所。今のこの時代ならではの素敵なものに出会う楽しさが全部図書館にそろっているといいな、と妄想的に思っています。
齋木:図書室で調べたもの、例えば歯車を3Dプリンターで作って、図工室で木を切ってとか、そういう部屋同士の連携つながりがもっとあっていいじゃないかな、と思っています。学校には家庭科室もあるし音楽室もあるし、実験のできる理科室もある。魅力的な場所がいっぱいあるんです。図書室でネタを考え、素材と出会い、図工室、音楽室、理科室や家庭科室などで実践する。飛行場で言えばハブ空港みたいな感じで、学ぶ場所や学ぶ教科の枠組も越えて総合的な学びの中心が図書館、そんな風に図書館がクリエイティブな空間になることが、自分の未来の図書館のイメージに近いかなと思います。そんな図書館であれば子どもたちも主体的に取り組むだろうし、学校って、もっと楽しいんじゃないかなって思います。
(注3) 大学図書館などの施設で自学やグループ学習する利用者の利用目的や学習方法にあわせ、図書館資料やICT(情報通信技術)を柔軟に活用し、効率的に学習を進めるための人的な支援を含めた総合的な学習環境のこと。
ありがとうございました。企業の方ならではのお話も随所に聞かせていただきました。学校現場の教員と企業の方の協働による研究だからこそ、このようなスケールの大きい話が構想できるのではないかと思います。あらためて、このプロジェクトが企業の方々を含めた多種多様な集団で研究していけるところであることにワクワクするような期待感が高まりました。
インタビューした人:彦坂 秀樹(東京学芸大学教育インキュベーションセンター、東京学芸大学附属竹早小学校)
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