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教育の未来

“学び”には場所も年齢も関係ない(後編)

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東京学芸大学教育インキュベーションセンター金子嘉宏先生へのインタビュー

“学び”には場所も年齢も関係ない(前編)~東京学芸大学教育インキュベーションセンター金子嘉宏先生へのインタビュー~

 前編では、「金子先生の教育に関わる原点」「公教育と民間サービスの関係性」を中心にお話を伺いました。後編では、10年後の公教育の展望に迫ります。

学校は街のキャンパス —あらゆる境界線をなくし、みんなが学ぶ場に

ななこ(以下、な):今からおよそ10年後の、2030年の公教育を考えると、どこがどのように変わっていると良いのでしょうか。

金子:まずは、学校が全年齢に開放されたら良いなと思います。例えば、源氏物語を研究したことのない私にとって、源氏物語についての知識は中学生と変わりません。だから日本古典文学を学びたくなったら、中学校に行けば良いんだと思うんです。大人が学びたいことを学校に学びに来るということは、人生100年時代、リカレント教育(*2)と言われる中では当然起きうることだと思います。最終的には年齢は関係なく、教える側と教えられる側の境界線もなくなって行くのではと思っていますね。

(*2)リカレント教育とは…学校教育からいったん離れたあとも、それぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていく社会人の学びのこと。(参考:厚生労働省「リカレント教育」)

 森で木を切る活動をしているのですが、そこでは中学生に木の切り方を教わることもあります。「金子先生、そこはそんな風にしたらダメだよ」って(笑)。彼らの方が木のことをよく分かっています。だからこそ、年齢も、教える・教えられる側の境界線も、なくなってしまえばいいのにと思いますね。

 ただ、それで確実にうまくいくかどうかは分かりません。基礎学力や知識レベルの違いは年齢によって明らかにありますし、数学と算数のように系統だって教えていく領域はありますよね。いきなり中学の数学を小学生が学習しても、それまでの系統がないと理解できないことは当然出てきます。系統立った学習とそれ以外の学びをいかに上手く両立させていくかが今後の課題だと思います。

:それでは学校の先生は、10年後、どう変わっていって欲しいですか?

金子:学校の先生については、歴史の先生なら、歴史が大好きで歴史の面白さを伝えられる人であってほしいと思います。また、知識はアップデートされていくので、先生方も研究をし、学ぶことがすごく重要になってきます。働き方も含めて、午前中は学校の仕事、午後は研究というような形になっていくと良いんだろうなと。あるいは、午前中に会社で働いている大人が午後に子どもたちと一緒に学びに来るような学校になると良いですよね。
 話は変わりますが、最近「ロングテール(*3)部活動」をやりたいと思っていて、小金井市と話を進めているんです。

(*3)ロングテールとは…単品ではそれほど売れない商品を数多く扱うことで十分な売上を確保する、インターネットならではの販売方法、およびその現象を表す言葉。実際の店舗では売り場面積に限りがあるため、売れ筋商品ばかり扱わざるをえないのに対し、インターネット販売では月数点の売り上げしかない商品も取り扱える。これを恐竜のしっぽにたとえて「ロングテール」と呼ぶ。(参考:「ASCII.jpデジタル用語辞典」より)

 例えば、カメムシが大好きで研究したいと思っている中学生がいたとしたら。学校にカメムシが好きな仲間はそう多くはいないかもしれませんよね。でも日本全国で考えたら、数十人いるかもしれない。そうしたら、日本全校の仲間で部活をすれば良いのではないでしょうか。

 学校がつながって、特に放課後には一人一人の興味関心がちゃんと追求できるような場所ができたら良いですよね。そこに大人が入って良いんです。子どもたちと一緒にカメムシの研究をしてくれたらそれもいいですよね(笑)。その研究がお互いにとっても学びになるはずです。年齢は関係なく、放課後は大人も含め好きに学ぼう!と。

 そして何かのために学ぶというよりも、学ぶために学ぶ、学びが面白いから学ぶ、という状況を作りたいですよね。仕事に役立つからと学ぶのは本当に面白いと言えるでしょうか。リカレント教育にしても、次の仕事に就くための学びということではなく、いろいろな種類の学びをしながら、何かが仕事につながってくるのが今後の生き方なのだと思っています。

 そのためにも、中学校や高校が開放されていけばいいと思うのです。特に放課後は、大人が指導者としてではなくチームの一員として入ってほしい。そういう年齢の垣根がなくなっていくような学びの場が、2030年に達成されているかどうかはわからないですが、そういう場を作っていきたいと思っています。

:なるほど!まさに人生100年時代におけるこれからの学校のあり方ですね。

金子:そうですね、それは学校を街のキャンパスにするということなんだと思います。学校は学びたい人がみんな集まることのできる場所であるべきです。子どもにとっては絶対通う場所でありながら、学びたい大人もいつでも学びに行けるというのが一番良いですよね。

:お話を聞いていて、学校の中身だけじゃなく、学校への入りやすさといった環境の大切さも改めて感じました。そういうところに企業がビジネスとして関わっていくことがとても重要だということなのですね。

金子:公教育においても、企業が関わっていくことはもっとできると思います。例えば大人が学校に対して「施設をもうちょっとよくしてほしい!」「最新機材を入れたい!」と思ったら、お金を出してくれるのではないでしょうか。ビジネスにもつながると考えられます。

 ビジネスの話になってしまいますが、実は学校の不動産価値ってものすごく高いのです。まず、学校は街の中心地にありますよね。そして校庭もあれば体育館もあり、プールも、家庭科室も、音楽室もあります。素晴らしい施設がたくさんあるのです。
 プールはほとんど屋外にあるけれど、屋内プールを保護者や地域住民、地元企業などで協力して作ることができたら、一年中泳げるし、地域の人も使える。行政としても予算を使わなくて済みますよね。大人たちがどんどん利用して、学校を地域で変えていく場所にしていくと、大きく変わっていくんじゃないかなと思います。
 学校という資産を共有するということ。これができたら良いんじゃないかな。

:確かに!学校が閉じられているのは本当にもったいないことですね。学校をいつでも学びに行って良い場所、共に作っていく場所にしていくにはどうしたら良いのでしょうか。

金子:すごく難しいですよね。ただ、未来の学校PJが連携している岡山県の津山市と岩手県の山田町、それから東京学芸大学附属竹早小中学校で、実験的にやってみましょうと話し合いを進めています。

津山市の教室と大画面でつなぐ

山田町の児童によるプレゼン前の風景。東京とオンラインでつながっている。

 こうした取り組みを進めるには、もちろんリスクの検討や本当にうまく機能するのかを実験してみなければなりません。ですが、学校の施設を一部貸し出すということは法律上できないことではないのです。上手く事例を作ることができれば、行政で実現される可能性は十分にあるので、やはりモデルを作っていく必要があります。そしてそれが竹早小中学校での実現にとどまらず、岡山県の津山市、岩手県の山田町で同時多発的に未来の学校PJ進めようとしているところなんです。やりたいですね!

「未来の学校 みんなで創ろう。PROJECT」戦略会議(2020年1月) 

 とはいえ、学校の先生方にとっては保護者をはじめとする学校外の人々が関わってくることに対する不安や抵抗はあると思います。最初はハードルがありますが、それでも長い目で見れば、みんな仲間として学校に取り入れていく方が絶対に良いはず。それがコミュニティスクールの基本的な考え方でもありますよね。
 ハードルは高くても、みんなが一緒に学校を運営していく立場となるように学校を開いていくことが重要になってきますね。あくまで僕の一意見ですが。

:なるほど!学校の変わっていくべきところが明確になりました。貴重なお話をいただきありがとうございます。

学芸大生よ、学んで学んで学びまくれ!

ちぴちゃん(以下、ち):これまでいろいろな話を伺ってきて私自身も今日1日でたくさん変われたことがありました。最後に、これからの教育を学ぶ学芸大生にメッセージをいただいてもよろしいでしょうか。

金子:そうですね、大学生には大学を活用して学びまくれと思っています。正直、バイトで社会経験や仕事経験をするよりも、研究をしてほしいのです。バイトは社会経験になるという人もいるのですが、社会経験は社会に出たら積むことができます。一方で、研究を極められるのは大学生のうちだけです。

学芸大の先生は各分野の専門性と教育の専門性の2つの専門性を兼ねそろえています。だから、皆さんには、くらいついて、その先生たちをできる限り使い倒してほしいです。このような姿がより良き大学生の姿だと思いますし、皆さんにこのような大学生になってほしいというのが私の思いでもあります。

:なるほど!ありがとうございました!

取材を終えて

教育は公教育だけではなく、放課後の活動、習い事、趣味に費やすことなど、日常的に行われていることだと気付きました。それも教育の一環なのか!と思う例が沢山あり、視野が広がったように思います。この取材を出発点に、さまざまな「教育の未来」に触れられることにとてもわくわくしています!現在、実現に向けて次第に進みつつあるプロジェクトを、今後も追っていきたいです。 (編集部員一同) 

 

名前:金子嘉宏(かねこよしひろ)先生

東京学芸大学教育インキュベーションセンター教授。1969年生まれ。東京大学卒。専門分野は社会心理学、教育支援協働学。一般社団法人東京学芸大Explayground推進機構事務局長、一般社団法人STEAM Japan理事、一般社団法人教育支援人材認証協会理事、NPO法人東京学芸大こども未来研究所理事、日本教育支援協働学会理事を兼任。こども、教育関連の企業に勤めながら、「遊び」についての産学共同研究を数多く実践。現職にて、企業と大学、学校をつなぐ協働の推進、新しい「学びの場」の研究開発、普及に取り組んでいる。

取材・編集/大島菜々子、徳田美妃、松田千皓、松永裕香
本文中写真提供/未来の学校みんなで創ろう。PROJECT