みちしるべ
絵本出版社で働く先輩に聞いてみた!〜「伝えたい」という変わらぬ思いが花開いた新しい道とは〜
2024.07.04
みちしるべ
2024.12.13
東京学芸大学に通う学生がインタビュアとなって、卒業生が歩んできた道のりや将来の展望にせまるコーナー「みちしるべ」。今回は、東京から高速ジェット船で2時間弱、飛行機で25分の離島、伊豆大島で教員をしている宮之原将哉さんと紅葉さんご夫妻です。
大好きなスポーツを通して汗を流し、学業にも全力で取り組む。どこか似た境遇を辿った二人は、大学院の授業で同じグループになったのをきっかけにともに人生を歩み始めました。現在、伊豆大島の魅力に触れながら子どもたちと一緒にスポーツを通じたチャレンジを始めています。
宮之原 将哉 さん
都立大島高校 数学科・情報科教諭
勉強をすること、教えることが好きで、教員を志した将哉さん。柔道に打ち込みながら東京学芸大学E類情報教育コースで学び、2019年に卒業。同大学の大学院2年生の時に教員採用試験に合格し、1年後思いがけず伊豆大島の高校から声がかかった。2021年に大学院を修了した後、現在は都立大島高校の数学科・情報科教諭として働き、クラス担任も務める。
宮之原 紅葉 さん
都立大島海洋国際高校 家庭科教諭
高校生の頃からソフトボールをしていた紅葉さん。学芸大学の硬式野球部で活躍していた兄への憧れから、同じグラウンドに立つことを夢見て学芸大学を志望した。大学時代は部活に打ち込みながら、A類家庭選修で専門的な知見を深めた。2019年に卒業した後、同大学の大学院に進み修了。現在、将哉さんも勤める伊豆大島の地で、都立大島海洋国際高校の家庭科教諭として働く。
学芸大学で部活動に励む宮之原ご夫妻。写真左が試合に挑む将哉さん(写真中央の左側に立つ)、右がリーグ戦中の紅葉さん
大学時代、将哉さんは柔道、紅葉さんはソフトボールとそれぞれ部活動に打ち込んでいた。目標を立てて、毎日仲間と切磋琢磨しながらそこに向かっていく。そうした経験が今の二人を形作っている。しかし、伊豆大島ではまた違った部活動の様子が見られた。
みんなの予定が合う日に集まるという自由な雰囲気。上手くなりたい、相手に勝ちたいという強い思いを持って取り組む生徒は少ない。
「伊豆大島の高校生たちは他校の生徒と関わりがない中で、向上心を持って部活動や進路活動に取り組むことができるのだろうか」
そう心配していたが、地域に根付く行事で彼らのまた違った一面を見て考え方が変わった。
将哉さんが勤める都立大島高校には、毎年11月に高校1、2年生の生徒が参加する郷土芸能祭という行事がある。彼らが小さいころから地元でよく聴いてきた歌や見てきた踊り。物心つく前からずっと隣にあった地域の伝統に、じっくり時間をかけて向き合う。
今年は生徒たちの忙しさに配慮し、郷土芸能祭への参加が任意となった。口伝えで何代にもわたって受け継がれてきた伝統が途絶えることも覚悟した上での決断だったそう。
しかし蓋をあけてみると、1年生全員が「やりたい!」と声をあげていたという。本番に向けて毎晩各地区で集まり、自分の住む地区の師匠さんに、太鼓や踊り、歌を習い、練習を重ねる。
この歌詞ってどういう意味なんだろう。どうやったら上手に踊れるようになるのかな。
地域の仲間とともに学び合う時間の中で、彼らは生き生きとした表情を浮かべていた。
郷土芸能祭で練習の成果を披露する生徒たちの様子(上が御神火太鼓、下があんこばやし)
穏やかな時間が流れる伊豆大島。生徒たちは、競争を通して成長を感じられるような経験を積みづらいのかもしれない。その一方で、郷土芸能祭など人とのつながりを感じられる時間においては、楽しみを見出し意欲的に励む様子が見られる。
生徒たちと関わる中で、そんな2つの側面を目の当たりにした将哉さんと紅葉さん。目標に向かって仲間と一緒に切磋琢磨する経験は、今後の人生において必ず自信につながるはず──。そう考えた二人は、生徒たちにとって学びの機会になる、そして「やりたい!」という気持ちを持って無理なく取り組める、そんな“何か”を探していた。
将哉さんと紅葉さんは今、ベースボール5というスポーツにその可能性を見出している。
ベースボール5は、5人集まればチームを作ることができる、初心者にとっても取り組みやすいスポーツだ。打者がバットを使わずボールを手で打つことで始まり、ゲームが一気に展開する可能性があるホームランも存在しない。
もちろん個人の能力を高めることは必要だ。しかし、個人の持つ高度な技術を駆使して得点することはルール上難しい。それではベースボール5で勝利を掴むにはどうすればいいのか。
「1つのゲームの中に、5人みんなが輝けるシーンが必ずあるんです」と紅葉さんは目を輝かせて話す。
ゲームの間、常にチーム全員の存在がなくてはならず、連携プレーによって地道に得点を積み重ねていくことが必要とされる。
チームの中には、足の速さに自信がある人がいれば、投げることが得意な人もいる。自分を含め一人ひとりの強みを理解し、それらを点数につなげるための方法をみんなで一緒になって考える。どのくらい自分を見つめ直せたか。チームメートと真正面から向き合えたか。その過程が、ゲームの結果として表れてくる。
そんな「チーム力」を培っていくための基盤が、伊豆大島の生徒たちには既にあった。
教員が思ったことを伝えると、まっすぐ受け止めてくれる。学校外で会っても、「先生!」と気さくに声をかけてくれる。郷土芸能祭という特別な場面だけではない。将哉さんは、日常生活を送る中で、人とのつながりを大切にできる生徒たちの姿にいつも励まされてきたと話す。
「大島の生徒のみんなには、本当にいいところがいっぱいあるんです。何より一緒にいる僕たちが楽しいんですから」
ベースボール5のゲームを楽しむ伊豆大島の生徒たち
チームの団結が勝利に繋がるベースボール5と、競う経験は少ないものの仲間のことを心から大切に思える伊豆大島の生徒たち。
ベースボール5の体験会を開催すると、彼らは夢中になって取り組んでくれたそう。彼らの楽しそうな笑顔を目の前で見て、将哉さんと紅葉さんが感じていた期待は確信へと変わった。
「目標に向かってみんなと競い合うことって面白い!」
「自分たちにはこんな強みがあったんだ!」
二人は、ベースボール5を通じて、そんな発見を生徒たちと一緒に積み重ねていきたいと考えている。
「今日はこんな面白いことがあったんだよ」
「これについて、どう思う?」
互いに刺激しあい、同じ目線で考えを共有しあえるよきパートナー。
「いつかは一緒に情報科と家庭科の内容を融合させた授業ができたらなって考えているんです」
将哉さんと紅葉さん、そして生徒たちの楽しそうな笑顔が溢れる教室…。そんな、二人の思い描く“これから”がはっきりと私たちの目にも浮かぶようだった。
そして、二人自身もベースボール5のチームを作り、教員仲間やその家族と一緒に練習に励んでいる。次の栃木県で開催される大会への出場も目指しているそうだ。
教師として、そしてベースボール5のプレイヤーとして。挑戦は始まったばかりだ。
大島を盛り上げたい。生徒たちの力になりたい。そんな思いを起点とした二人の生き生きとした姿は、子どもたちに一歩踏み出す勇気を与え続けることだろう。
将哉さんと紅葉さんが学芸大学で出会ったこと。現在一緒に大島で教育に携わっていること。生徒たちと歩む中で、ベースボール5というとっておきのツールを見出せたこと。
どれも偶然なのかもしれません。それでも、二人の人生はどこか運命的な出会いがあふれているように感じました。
それは、目の前にある“大切にしたいもの”に対して、二人が常に全力で向き合ってきた結果なのでしょう。
時には周りを頼りながら、ひとつひとつのことに対して真摯に向き合う。そうすればきっと、その先には明るい未来が広がっているはず。
そう信じて、私たちも前に進んでいきます。
・ベースボール5についてもっと知りたい!と思った方はこちら!!
Baseball5 JAPAN オフィシャルサイト
取材・文/ 赤尾美優 斎藤育
写真提供/宮之原将哉さん
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