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Open the door 「はじめまして」 扉の向こうに広がる世界

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ラボ「I am」では、世界の子どもたちを繋ぎ、ともにワークに取組むプログラムづくりを行っています。これまでに実践した活動を紹介させていただきます。

取材した人:小芝裕子(Explayground ラボ「I am」)

この世界をいろんな角度から眺めてみる

世界各地で起こる戦争や侵攻、気候変動による自然災害など、すでに自国だけでは解決できない問題が続いています。起こった事象について、人種、宗教などそれぞれの立場によって見え方は大きく異なります。

様々な国の、いくつもの視点を持ちより、対話をする場がつくれたらと、活動がはじまりました。

はじまりは自分のことを伝える会話の1ピース「I am」

「知らない世界への扉を開く」

「扉の向こうにいる人と繋がって未来をつくる」

このふたつを軸に、
出会った人たちとお互いの「I am」を交換しながら、相対的に自分自身「I am」について知っていく
プログラムをつくっていくことにしました。

子どもによる子どものための学校

参加してもらえる海外の学校を探しながら、はじめにたどり着いたは、台湾の自然豊かな地に広がる実験的学校でした。

台湾のIT担当大臣オードリー・タンさんのお母さんにより、ギフテッド(先天的に突出した能力を持つ)の子どもを育てた自身の経験をもとにつくられた学校です。子どもたち自身で時間割を組立てたり、学校で起きた出来事に対して裁判を開き解決するなど、子どもたちの自主性を軸にした学校づくりが行われています。

「子どもの才能を引き出すーオードリー・タンを育てた母の教育メソッド」(日本実業出版社)
参考記事
「台湾の実験学校が生み出す未来人材」(朝日新聞GLOBE+)

日本からは、新渡戸文化小学校アフタースクール(東京)の子どもたちが参加。放課後の時間を使い実践をさせていただきました。

「Open the door/扉をひらいて」
台湾ー東京
種子親子実験学校
新渡戸文化アフタースクール
2023年10月から12月

日々の交換

オンラインでの対話を行いながら、小学生でも簡単にメッセージや写真、動画のやりとりができ「未来の学校 みんなで創ろう。PROJECT」でも活用されているカレンダーアプリJorteを使い、教室や校庭、図書館を撮影した学校の紹介を送ったり、台湾からも学校にあるツリーハウスやスクール旅行の様子が送られ、お互いの日々を交換していきました。

相手の国の言葉で話す

海外の人と交流をする時「英語」で話さなくてはという思いが浮かんできますが、子どもたちの中にそのような概念はありません。やりとりをするのに絵を使ったり、台湾の子どもたちが「日本語」に興味を持ち、日本の子たちが教える、という場面も見られました。

学生の頃、ヨーロッパを旅してまわったことを思い出していました。次の国に入った時、まずやったのは、その国の言葉の「ありがとう」を覚えることでした。英語ではなく、片言でもその国の言葉を話した瞬間、相手の顔がやわらぎ、仲間に入れてもらえたような、ようやくその国に入れたような気持ちになりました。「ありがとう」さえ覚えれば、その国でなんとか生きていける。「英語」で話すことにとらわれず、深いところで繋がる大切さに気づかせてもらう時間となりました。

 

子どもの幸福度世界1位のオランダと日本の中高生によるWell-being探究
「幸せって何だろう?」

オランダー日本
2024年1月から4月

実践についての詳細はこちらになります。

 

広島で「平和」について考える
インドー広島
Bluebells International school
広島県立加計高等学校
2024年5月30、31日

スクールトリップとして広島を訪れる海外の中高生が年々増えているといいます。こちらの生徒さんと日本の生徒さんを繋ぎ、対話をする時間が持てたらと1泊2日のプログラムをつくり実践してきました。

インドのBluebells International Schoolでは、毎年20名程の生徒さんが日本を訪れ、各地の学校でインド舞踊を披露したり、科学についての討論をしたり、交流をしながら横断するスクールトリップを行っています。この旅先に必ず入っている地が広島です。原爆について知ってもらいたいという先生の思いが込められています。

相手となる広島の加計高等学校には、年間100以上の海外からの訪問者と交流活動をする「おもてなし隊」というのがあり、そちらから8名の生徒が参加してくれました。

平和記念資料館の入口で、「小学生の頃は、怖くて中に入ることができなかった」と話す広島の生徒さんがいました。同じように「ここにくるのは正直とても怖かった」というインドの生徒さんもいました。

資料館を見た後、原爆ドームをめぐり、爆心地を含む広島の街を一望しながらグループで感じたことを共有し対話を行いました。

「ここに静かな暮らしがあって、その上に落ちた原爆だったということがわかった」

と話すインドの生徒さん。

最後には、みんなで俳句をつくり交換しました。日本語を学ぶインドの生徒さんもおり、日本語で挑戦する生徒。英語の音を使って詠む生徒。はじめて体感する575のリズムにそれぞれの感じたことが綴られていきました。

「おちたとき おりづるとんだ あかい川 キルティ」

たゆたうインド時間

2日間をともに過ごすことで、食文化などお互いの深い部分に触れることもできました。何より感じたのは時間感覚の違いです。
出発のかけ声に、動き出すのは日本の生徒さん。インドの生徒さんは、おしゃべりをして動く気配はありません。全員で25名程。1クラスに満たない人数が「1回の信号で渡りきれない」「1回の電車で乗りきらない」
「インド時間」とは、このことを言うのかと思いながら、2日も経つと、このおおらかでお茶目なインド時間がとても心地よく感じられてくるのです。

住んでいる地が、その人の時間をつくりだす

そもそも「時間」の単位とは、人間が勝手に決めたもので、本来は人それぞれの中で刻まれているものです。
私たち日本人は、集団で行動するために、時間を守るように、乱さないように、小さな頃から鍛えられてきました。個の時間が、集団に合わせていつのまにか整えられてしまったのかもしれません。

インドにあるガンジス河には「生者」も「死者」も流れてきます。街には人や車に交じり、牛も歩いていきます。まったく異なる時間軸を持ったものが共存しています。インドの人たちの中に、それぞれを尊重し合う個々のの時間が大切に守られていることを感じました。

広島の街に流れるガンジス河

長く広がっていくインドの生徒さんの流れはどこまでも続き、一番後ろを歩くひとりは見えなくなっていました。広島の街にガンジスの大河が流れこんでいるようでした。

どうしたら世界は「平和」になるのか

1日目はスマホの翻訳アプリを使ってやりとりをしていた日本の生徒さん。「直接話した方が通じることがわかった」と、2日目にはインドの生徒さんに向き合い、話しかけている姿がありました。

「こういう繋がりが平和をつくるのなら、何度でも挑戦したい」

言葉も文化も異なる同士が、お別れの時には、抱き合ってる場面を見て、このような風景から未来の「平和」が生まれるのかもしれないと感じました。

 

ふじさんサミット
スウェーデン、アメリカ、フランス、メキシコ、ドイツなど15カ国からの参加者
2024年8月6日から8日

「ふじさんサミット」の詳細はこちらになります。

 

「ゆんぬんちゅmeet around the world」
離島に暮らす高校生が、世界中の同世代と出会いながら自分の「夢」や「未来」を交換します。

「島の良いところを教えてください?」という質問に「海がきれい」「星が素晴しい」「人が優しい」とどの生徒からもすぐに答えが返ってきます。

離島発プロジェクト

島の素晴らしさを伝えながら、世界中の同世代と繋がり、お互いの「夢」や「未来」を交換してみたい、と離島に暮らす高校生により立ち上がったプログラムになります。

 

世界中の同世代とWell-beingを軸に「未来」を探究
オランダー日本ータンザニア

子どもの幸福度世界1位のオランダと日本に新たな視点として幸福度129位のアフリカ、タンザニアを交え、3か国の中高校生と「Well-being探究」第二弾を行います。

もうひとつの時間

台湾との実践で、台湾の子たちが教えてくれた自分の好きな物に「パールミルクティ」という言葉が何度も出てきて、日本の子どもたちと「何だろうね」と話していました。何日かして、ひとりの生徒さんが「何かわかった」と「パールミルクティ=タピオカミルク」を街で見つけたことを教えてくれました。
知らない国やそこに暮らす相手のことを知るということは、日常の中にその国やその人が見ている風景、時間が流れこむことではないかと考えています。

冬眠するクマを想う

アラスカの大自然や動物を映した写真家、星野道夫さんの本に冬眠するクマのことが書かれたものがあります。別の国に暮らす誰かについて知ることは、この世界のどこかに雪の下で春を待つクマが眠っているということ、それを知ること、想うことに似ているように感じています。

日々の暮らしに追われている時、もうひとつの別の時間が流れているーそのことを知ることができたなら、いや想像でも心の片隅に意識することができたらなら、それは生きてゆくうえでひとつの力になるような気がするのだ。(「長い旅の途上」星野道夫)

プログラムを通して繋がった国で災害が起こったとニュースが流れれば「大丈夫かな」と心を傾けます。ましてや繋がった人たちを相手に戦争をしたいとは思いません。

ラボの活動によって、誰かの中に「もうひとつの時間を生む」そんなプログラムがつくれたらと思っています。

 

幸福度世界1位のオランダの中高生とWell-being探究「幸せって何だろう?」

人種や宗教、年齢、性別を越えて多種多様な人たちと「未来」への対話

 

取材:小芝裕子(Explayground ラボ「I am」)

プロジェクトの企画ディレクションに携わる。廃校になる小学校への「教育」による地域再生ミーティングに参加したのを機に、これからの「教育」に面白さを感じ、都内小学校の子どもたちとの野菜やお米づくり、「知りたい」「やりたい」を軸に探究し発表するまでの活動を行う「宇宙商事」「ものしり展覧会」などのプログラムを実践。

世界中の子どもたちを繋ぎ「自分」を発見するラボ「I am」メンバー。

ラボ活動への参加に興味がある方はぜひこちらから