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教育の未来

博物館から広がる、遊びのなかの学び~江戸東京たてもの園 協定締結式〜

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東京都江戸東京博物館の分館として都立小金井公園内にある、江戸東京たてもの園。かつて都内に建ち並んでいた歴史的建造物が移築され、野外博物館として子どもから大人まで幅広く学びを提供している。

2024年5月27日、東京学芸大学と江戸東京たてもの園の協定締結式は、江戸東京博物館の藤森照信館長、東京学芸大学の國分充学長の挨拶で幕を上げた。

国内を見渡してみると、国立大学と博物館の連携協定の事例は多くはない。どうして両者にこのような縁が生まれたのか。そしてこれから、どんな展望が広がっているのか。たてもの園と学芸大学のつながりを作った君塚仁彦教授(教育学講座 生涯教育学分野)、市川寛明園長(江戸東京たてもの園)、金子嘉宏教授(教育インキュベーションセンター)にクローズアップし、彼らの思いに迫る。

江戸東京たてもの園って?
江戸東京たてもの園(以下、たてもの園)は、東京都江戸東京博物館の分館として、1993年に都立小金井公園内にオープン。文化的価値の高い歴史的建造物30棟の展示に加え、四季の移り変わりに合わせたイベントや子ども向けの学習体験活動も実施している。
江戸東京たてもの園 WEBサイト

遊びのなかの学び、10年の挑戦

「私にとっては、今日に至るまで10年越しの思いがあります」

今回の連携協定締結のキーパーソンである教育学講座 生涯教育分野の君塚仁彦教授は、こう振り返る。国内でも珍しい“博学連携”には、いったいどのような背景があったのか。

最初のきっかけは、2014(平成26)年ごろ。江戸東京博物館館長であった恩師のお話だったそうだ。当時学内では、教育支援や地域社会との連携が現実的な課題となっていた。個人的に模索を始めたが、うまくいかなかったという。

しかし4年後の2018年、契機が訪れた。学芸大学附属幼稚園小金井園舎の園長に着任したのである。また、ちょうどたてもの園から博学連携の声がかかったのだ。

「遊びのなかの学び。教育を柔らかく、楽しいものにしたい。これが私の思いです」

附属幼稚園の教育理念である『遊びのなかの学び』に、君塚教授の博物館教育のとらえ方が強く共鳴した。

たてもの園では教育的価値の高い文化資源である“建物”を通して、江戸東京の歴史を体感することができる。園は『遊びのなかの学び』のフィールドになるだけの魅力と教育的な潜在力があると、君塚教授は力強く語る。

一時期新型コロナウイルス流行により連携の話も停滞してしまうが、君塚教授の気持ちは変わらない。加えて、その後押しとなる機関が設立された。“教育における新しい取り組みを支援すること”を大学として組織的・計画的に進めるために設立された、教育インキュベーションセンターだ。

「そこで展開されるさまざまな学びに可能性を感じました。なかでも、附属幼稚園の園長時代に抱いた博物館教育と幼児教育が共鳴しあうポイントに近いことが実践されていました」

教育インキュベーションセンターの力でたてもの園との連携協定につなげられないか、と考えていたところ(2023年)、同窓会で市川園長と再会した。これが今日の連携協定締結の直接的なきっかけとなったのである。

10年の紆余曲折を経て、今回協定締結という種が蒔かれた。「みなさまの力で発芽させたい」と笑顔で語る君塚教授の表情は晴れやかだった。

提携の未来を思い描いて

「沢山の方に来場いただきたい。でもそれだけでは足りないんです」

市民に支持される、社会に根付いた場所にするためにはどうしたらいいのだろう。江戸東京たてもの園の市川寛明園長は頭を悩ませていた。そこで思い浮かんだアイデアこそ、将来を担う若者に焦点をあて、たてもの園を社会教育実践の場として活用することだった。学生時代からつながりのある君塚教授にお話を持ち掛けたところ、意気投合。今回ついに学芸大学との連携が実現した。

「今は枠組みだけですが、この連携はまだまだいろいろな可能性を秘めています。これから先生方と話し合いを重ねて前に進めていきます」

市川園長は、たてもの園の、そして地域の“これから”を見つめている。

学ぶって面白い!「チーム学び」のその先は

今回の連携の“力”となった、教育インキュベーションセンター長の金子嘉宏教授はこう考えている。

「遊びを創造する力とか、面白くする力とか、失敗する自由みたいなものが、子どもからも大人からも少しずつ失われてしまっているのが現状なのかなというふうに思っています」

こうした現状を打破するためにはどうすればよいのだろうか。

それぞれが学んできたものを共有できる、刺激を与えあえる場所を生み出すこと。それが、この現状を解決に導く一つの方法なのではないだろうか。

そう考え、学芸大学で実施されている取り組みの一つがExplaygroundの活動である。自分の興味や面白さを感じるもの、課題などを主体的に持ち寄り、『LAB(ラボ)』と呼んでいるプロジェクトを作って活動する。特撮研ラボやくいしんぼうラボなど、50を超えるさまざまな取り組みが生まれている。また、「こんなアイデアがあるんだけど、一緒に何かやってみませんか?」と気軽に投げかけられる『この指とまれ型公開講座 Explay Hub』などの新たな仕組みも始まっている。

東京学芸大学とたてもの園を中心に新たな『遊びのなかの学び』が体現される日はそう遠くないかもしれない。

 

編集後記

HIVE棟で談笑する藤森照信館長(左)と國分充学長(右)

締結式が終わると、一行はHIVE棟に足を運んだ。HIVE棟は金子教授のお話にあった、Explaygroundの拠点として、2023年に建設された。「ここにつたを這わせたら面白そう!」「建物の下でサッカーできたりもするのかな…」思い思いに散策する締結式出席者。彼らの会話の中から次々とアイデアが飛び出す。この生き生きとした姿こそが、『遊びのなかの学び』の体現なのかもしれない。このような場から生み出される“新たな学びのカタチ”は、これからどんなものになっていくのだろう。学芸大生とのコラボによって、どんな化学反応が生じるのだろう。想像を膨らませつつ、今後の動向に注目していきたいと思う。

EXPLAYGROUND Webサイト

 

取材・編集/赤尾美優 川原彩 斎藤育