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未来を学ぶための歴史とは?中国古代史研究に迫る!⼩嶋 茂稔先生インタビュー【歴史学編】

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お待たせしました!せんせいのーと第5弾は人文科学講座 歴史学分野の小嶋茂稔先生に取材しています。この記事では先生がどうして歴史学の研究をしようと思ったのか、歴史を学ぶ意義とは何かなど、先生の歴史学研究者としての側面を知ることができます。

歴史教育の研究者としての側面、歴史教育について知りたい方はこちら『歴史×教育の奥深さをたずねて。⼩嶋 茂稔先生インタビュー【歴史教育編】』をご覧ください!

☆こんな人におすすめ!
・歴史学を学びたい!
・中国古代史に興味がある!

vol.22 ⼩嶋 茂稔先生

先生のご専門

幼いころから歴史を学ぶことが好きで、自然と歴史学の研究者になることを志していました。私たちは日本の歴史を学ぶとき、必然的に中国の歴史も学びます。時代によって王朝が変わったり、国がわかれたりする中国に関心をもちました。また、小学生のころに読んだ漫画『三国志』がおもしろかったこともあって、中国の古代史に興味をもつようになりました。

中国古代史を柱に

中国古代史の研究について言いますと、後漢時代(A.D.25-A.D.220)をメインとして学生時代から研究をしてきました。

国家の力が強い中央集権的な中国というひとつの歴史の捉え方(戦国時代〜前漢時代の研究)があります。その一方で、地域の秩序を維持するために自らの利益は多少犠牲にしても地域のリーダーになるような人が生まれる地方分権型の政治体制が、後漢時代の終わり頃から三国時代ぐらいに出てくるのではないかという、そういう立場から中国史の歴史的な展開を見た方がよいという研究のせめぎ合いがありました。そのせめぎあいを乗り越えるために、戦国時代〜前漢時代から作られたひとつの歴史の解釈と三国時代から後ろの方に着目して作られた歴史の解釈をつなげられるようにしたいと考えました。そのため、後漢時代のことを研究すればその二つの考え方の対立のようなものを乗り越えていけるのではないかと考え、後漢時代を中心に当時の国家がどのようにして多くの農民を支配していたのか、そのための仕組みをどのように作っていたのかということを集中的に研究していました。

近代以降の日本人のアジア認識

近代以降の日本人はどのように中国やアジアを考えていたかについての研究はここ10年くらい、かなりウェイトを割いています。その背景には、外国の歴史を研究することの本質的な意味を考える必要があるのではないかと思うようになったことがあります。自分の研究のための勉強という次元を超えて、これまでの日本人の歴史研究者がどのようなスタンスで中国やアジアに向き合ってきたのかを、ひとつの近代日本の思想の流れとして描き出していけないかなと考えています。

後漢時代の日本語の概説書を書くことが目標

実現可能性のあるものからいうと、後漢時代の日本語の概説書(※)を書きたいと思っています。かなり先のことになりそうですが。
(※)概説書:初学者向けに書かれた、あるテーマに関する内容が体系的にまとめられた書物

古代中国において印象の強い、秦が中国を統一したところは概説書や歴史書に多く記載があります。また、秦は15年ほどで滅びてしまい、新しく漢という王朝になります。その漢が400年近く続く途中で一時的に漢を奪った王朝があります。多くの古代中国を対象とする我が国の概説書では、せいぜい後漢時代の前半くらいまでしか書かれておらず、後漢に特化した概説書はなかなかないのが現状です。後漢の歴史の専門書はないわけではありません。私も一冊、自分の20代から30代の研究をまとめて出版した専門の人以外読んでくれないような本を出版した経験があります。ただ、後漢時代だけを取り上げた歴史に関心のある方向けのわかりやすい本は幸か不幸かないんですね。

歴史を研究する一番重要な条件は、研究したいテーマに関する史料があるかどうかということです。後漢時代を研究する史料っていうのが非常に限定されているというか、ほかの時代に比べると史料に恵まれていないところもあり、研究がさかんでないと言えるかもしれません。

実は後漢は日本にとってもなじみのある王朝です。日本から送られた使者が派遣されて中国の皇帝に最初に謁見した可能性が高いのは後漢で、後漢から金印も贈られています。このことからも日本人は後漢という時代に関心を持ってもよいのではないかと思っています。関心をもてるようにするためにも、概説書の執筆にとりかかりたいです。

日本人研究者の中国認識を研究したい!

もうひとつ、興味のあるテーマとして中国の歴史を研究している人はどういう思いで戦時中の日中関係を見ていたのかを研究したいと思っています。1931年には満州事変が始まっていて事実上日本と中国が戦争しているような状況でした。そのようななかで研究者はどのように現実の政治状況を見ていたのか、それを自分の研究にどのように反映させていたのかを、1930年代を中心に主に歴史学研究会という学会の活動を担ったような人たちの研究を振り返りたいと思っています。

歴史を学ぶということは未来を考えること

教養として歴史を学ぶということは、十分価値があることだと思うんですね。

ただ今の時代って多分そういう時代ではもうなくなってきているので、歴史学者として歴史を学ぶ意義を答えるならば、「歴史を学ぶことによって実は現代が見えてくる部分がある」と答えます。だから単に過去のことを意味もなく学んでいるわけではなくて、過去のことを学んでおくことがいずれ目の前の問題を何か解決しなくてはいけないときに役に立つことにもつながると思うんです。未来を考えるために学んでいると言ってもよいかもしれません。ただなかなか実感できないんですけどね。

教育のありかたを考えていくときにも、歴史的な視点は必要です。学習指導要領がつくられるようになって75年経ちますが、それを振り返るだけでも、なぜ今このような教科体系になっているのかが見えてきます。専門的に研究者として深めるって言うことではなくて、一人一人の教員が可能な範囲でちょっと遡って考えるっていう視点は、それが結果的に未来志向に繋がるのではないかなとは思ってはいますけどね。言うは易く行うは難しなのですが(笑)。

歴史×教育の奥深さをたずねて。⼩嶋 茂稔先生インタビュー【歴史教育編】

小嶋茂稔

東京学芸大学副学長
人文科学講座歴史学分野 教授

東京大学文学部第2類(東洋史学専修課程)卒業、東京大学大学院人文科学研究科修士課程東洋史学専攻修了、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程アジア文化研究専攻修了。博士(文学)。山形大学人文学部講師、助教授を経て、2003年10月より東京学芸大学助教授、2016年より教授。専攻は、中国古代史、近代日本のアジア認識。近年は、歴史教育、歴史教師の教員養成のあり方にも関心を広げている。
主な研究業績:『漢代国家統治の構造と展開』(汲古書院、2009年)、『内藤湖南とアジア認識』(共著、勉誠出版、2013年)、「現行教員免許制度下における教員養成のあり方をめぐって」(『歴史評論』774、2014年10月)

取材・編集/千葉 菜穂美 飯島風音