教育を面白くするメディア 「エデュモット」EDUMOTTO東京学芸大学公式ウェブマガジン

edumotto

せんせいのーと

歴史×教育の奥深さをたずねて。⼩嶋 茂稔先生インタビュー【歴史教育編】

SNSで記事をシェア

お待たせしました!せんせいのーと第5弾は人文科学講座 歴史学分野の小嶋 茂稔先生に取材しています。この記事では先生がどうして歴史教育の研究をしようと思ったのか、社会科の教員になりたい方へのメッセージなど、先生の歴史教育を研究する人としての側面を知ることができます。

歴史学の研究者としての側面、中国古代史研究について知りたい方はこちら『未来を学ぶための歴史とは?中国古代史研究に迫る!⼩嶋 茂稔先生インタビュー【歴史学編】』をご覧ください!

☆こんな人におすすめ!
・歴史教育を学んでいる人
・歴史を学んでいる人
・社会科の先生になりたい人

vol.22 ⼩嶋 茂稔先生

先生のご専門

私は歴史学分野に所属し、中国古代史を研究していますが、それ以外に教員養成大学における歴史教育についても研究しています。一見中国古代史の研究と歴史教育は離れたテーマのようにも見えますが、私からするとつながっているテーマです。中国古代史の研究をするためにも、歴史教育の研究を進めることは欠かせません

教員養成大学における大学の歴史教育の研究

学芸大学のような教員養成の大学において大学の歴史教育はどのようにあるべきかということについて、情報を集めたり、実際に自分で考えて授業してみたりしています

一方でこの20年間ぐらい世界史教育が非常に揺れ動いていくなかで、外国の歴史をどのように教育していくべきなのかということを考えていますこれを考えることは日本列島に生きる者として、ある意味外国の歴史を研究する人の一つの社会貢献だとも思っています。
また、このように歴史教育に研究のウェイトがおかれるようになったのは学芸大での私の前任の先生に「歴史学の最大の社会貢献は教育だ」と言われたことが影響しています。自分の専門の研究をしている時間はもちろん楽しく居心地のよい時間でしたが、その言葉をもらったときにガツンときました。ずっと自分の研究を続けるよりも、将来学校の教員になって子どもたちに何らかのかたちで歴史を教えていくことになる人を育てることの方がより社会的な意味があると思うようになりました。そういうことがあって、教育の問題にも関心が広がっていったわけです。

新科目「歴史総合」へ向けた“実験的な”授業

私は、教員養成のカリキュラムの中での先生方の専門をどのように教えるかということが問題になると思っています。先端的な学術の動向に触れておくことは、大事なことなので先生方の専門研究のテーマをそのまま講義することも必要です。

一方で教員になる前提の学生なので、もう少し学校で教えなければならないとされている内容に対して教えてもよいのではないかと思います。ただ、特に歴史という学問は非常に個人の価値判断が加わってしまう学問なので、同じ現象でもその研究者によって評価が変わります。だからこそ、学校で教えなければならないとされている内容を大学で教えることは歴史だけを見てみるととてもハードルが高いことです。

そのため、「高校歴史教育における教科内容構成」という授業を、教員養成の教育においてこれから求められる授業になるのではないかと思い、実験的に始めました。平成30年告示の新しい高等学校の学習指導要領では、大きな変化があって、教育の中身だけではなく教え方まで踏み込んで、さまざまなパターンを例示してくれています。それは現場に出てからだとなかなか勉強できないと思って、学習指導要領を具体的に分析するような授業を設定しました。

歴史学は人によって価値判断が加わってしまう学問ですから、学習指導要領で教えることになっている内容についても、国や文部科学省が考えている内容なのでひとつの仮説に過ぎません。教科書や資料集に例示されている内容も、ひとつの歴史の捉え方でしかありません。現場で教えることになる学生には、自分ならどう教えるかという主体性がほしいと考えると、国が決めたスタンダードとされている学習指導要領の持っている裏の意味のようなものを学んでもらう機会を与えることも必要かなと思って、そういう授業をつくってみました。

社会科に強い教員になりたいあなたへ

将来、社会科に強い教員になりたい方に伝えたいことは、歴史嫌いにならないような教育をしてほしいなと思いますね。自分の子どもにも「何でお父さんは歴史なんか研究しようと思ったの」と言われちゃうので(笑)。教員の思いがうまく子どもに伝わってないということがありますよね。本来、技術的なことを言えばもっと教える内容を精選して、知識偏重ではない形での歴史教育をつくらなければならないとも思います。

歴史を学ぶことが好きな人は、本を読むなどして過去のことについての知識を増やしていくことが喜びだし、そういう知識を頭に定着させるのが得意な人だと思います。ただ、単に知識が増えるだけではなくて、できればさまざまな社会の問題を歴史的な視点から考えられるようになってもらいたいなと思います。口で言うほど簡単ではないのですが(笑)。現代にある解決しなくてはいけない問題の原因は、歴史的な視点から見ていくことによって見えてくることがあります。過去に関心を持つだけではなく、ぜひ現代のことにも関心を持ってほしいですね。もっと大きな視点で見ると、古代まで遡らないとわからないこともあります。日本は、令和という元号を使っていますが、なぜ日本は元号を使っているのだろうかと考えると古代まで遡る必要があるんですね。

常に現代にフィードバックしながら、現代の疑問点を過去に遡って理由を考えたり解決法を考えていったりするようにしてほしいなと思いますし、そういうことができる子どもたちを育ててもらいたいです。今回の高校の歴史総合や探究科目はそういう作りになっています。ぜひ、現代と過去をつなぐ歴史学という視点を持ってどんどん歴史に関心を深めてもらえればなと思います。

未来を学ぶための歴史とは?中国古代史研究に迫る!⼩嶋 茂稔先生インタビュー【歴史学編】

小嶋茂稔

東京学芸大学副学長
人文科学講座歴史学分野 教授

東京大学文学部第2類(東洋史学専修課程)卒業、東京大学大学院人文科学研究科修士課程東洋史学専攻修了、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程アジア文化研究専攻修了。博士(文学)。山形大学人文学部講師、助教授を経て、2003年10月より東京学芸大学助教授、2016年より教授。専攻は、中国古代史、近代日本のアジア認識。近年は、歴史教育、歴史教師の教員養成のあり方にも関心を広げている。
主な研究業績:『漢代国家統治の構造と展開』(汲古書院、2009年)、『内藤湖南とアジア認識』(共著、勉誠出版、2013年)、「現行教員免許制度下における教員養成のあり方をめぐって」(『歴史評論』774、2014年10月)

取材・編集/千葉 菜穂美 飯島風音