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未来の学校 みんなで創ろう。PROJECT

未来の学校 Topics

未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト「SUGOI部屋」で授業をしました。

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TEAM GIGAスクール時代の学習環境を考えよう

子どもたちが一人1台のデバイスを持って学習を進めていくことが当たり前の時代において、全国の学校で実装可能な最適化された環境とはどうあるべきか、また並行してGIGAスクール時代ならではの授業モデルとそれを支えるデジタル素材のプラットフォームを研究開発しています。

「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」の中に「Team GIGAスクール時代の学習環境を考えよう」というワーキンググループがあります。子どもたちが一人1台のデバイスを持って学習を進めていくことが当たり前の時代において、全国の学校で実装可能な最適化された環境とはどうあるべきか、また並行してGIGAスクール時代ならではの授業モデルとそれを支えるデジタル素材のプラットフォームを研究開発しています。10年先の教室環境の先行研究として、学習環境・空間づくりのプロである「内田洋行」、最先端のテクノロジー企業「ソニー」、GIGAスクール時代の通信を支える「NTT東日本」との協創により、東京学芸大学附属竹早小学校に「SUGOI部屋」ができました。
この部屋の一番の特長は、教室の壁一面を埋めつくす巨大スクリーンです。Wi-Fiの環境も万全に整い、完成時には教員も子どもたちも「すごい部屋ができた!!」と話題沸騰でした。「SUGOI部屋」のネーミングは、この子どもたちの声がきっかけに「Smart Unlimited Growing Open Innovation」の頭文字をとって「SUGOI部屋」が正式名称となったのです。さっそく、この部屋で授業を行った教員や子どもたちに聞いてみました。

佐藤 正範 (さとうまさのり)

1976年、札幌市生まれ。建築デザイン事務所勤務後に教員を目指し、北海道教育大学札幌校を卒業後、31歳で札幌市の小学校教員となる。その後、北海道大学 修士課程教職大学院を修了後に東京学芸大学附属竹早小学校教諭となり東京学芸大こども未来研究所の学術フェローも務める。専門は教育方法学。情報活用能力の育成に包含されるICT活用やプログラミング教育 、STEM/STEAM教育の研究を進める。著書に「70の事例でわかる・できる! 小学校オンライン授業ガイド」(明治図書)がある。

横山葉菜  (よこやまはな)

幼いころから食べることが大好きで、食に携わる仕事をしたいと思い栄養士の道を志す。栄養教諭やフードスペシャリストなどの免許や資格を取得後、東京都練馬区の小学校で学校栄養士として勤務。2020年に東京学芸大学附属竹早小学校栄養教諭となる。「食べることは生きること」をモットーに給食運営や食育などを担当している。

実践1:タイの学校との交流を通して自分たちができることを考えよう

授業者:6年1組担任 佐藤 正範
【単元の目標】
・タイの学校の小学生や先生の想いや願いを受け止めて、自分たちができることを考えたり、実行したりすることができる。
・タイの小学校との交流を通し、日本とタイの文化や産業の違いや繋がりに気づくことができる。

この活動は、佐藤先生のどんな想いから子どもたちと取り組もうとしたのですか?

佐藤先生(以下敬称略):タイという国は、日本との貿易額が5位と上位にランクされていて日本と関係が深いにも関わらず、本クラスの子どもたちにとっては、あまり知らない国である、というイメージがありました。交流する「虹の学校」は、タイの西部の山岳地帯近くの国籍をもたない子どもたちの学校で、日本人が支援をして運営を続けている学校です。ここの子どもたちとの交流を通して、日本とタイを比較したり、二国間の関係に目を向けたりするきっかけをつくり、特に日本の生活に欠かせないゴム製品の原料となっている天然ゴムのプランテーションや人権問題に注目をさせたいと思い、交流をスタートしました。

「SUGOI部屋」で授業をしてみていかがでしたか?

佐藤:初めて映像をつなげた時、とにかく画面が大きくてタイの子どもたち一人一人の表情までよく伝わりました。日本の漫画のことをうれしそうに話している姿にクラスの子どもたちもびっくりしていました。日本の製品が使われているか?という質問をした時に、映像に映っていた扇風機を見つけ、あの扇風機はどこの国の製品か尋ねた所、日本製品とわかった時は、お互いに「オーッ」と声があがりましたね。まさに、距離も言葉の壁もテクノロジーが、その壁を壊したのです。圧倒的な情報量と迫力ある映像を目の当たりにして、子どもたちはタイの小学生と自分たちや日本の文化、産業との繋がりを実感したのではないかと思っています。特に、日本で普通に暮らしていたら会えないタイの奥地に住んでいる人が実物大の同サイズで画面に現れているということは、まさに同じ空間を共有していることと同じで、学ぶ動機付けとしては圧倒的なインパクトがありましたね。

外国の言語については、日本語とタイ語の変換ソフトを使いました。使い勝手になれない所もありましたが、タイの虹の学校の先生は日本語もしゃべれることもあり、コミュニケーションは補足してもらいながら行いました。今回は、タイの虹の学校の先生が日本語をしゃべることができたので事なきを得ましたが、仮に、お互いが共通とする言語がなく、お互いが言語の変換ソフトのみでコミュニケーションをとることについては、まだ難しさがあるように思います。しかし、いずれは、この「SUGOI部屋」で言語ソフトを介して他言語同士でのコミュニケーション」に挑戦していきたいと思っています。

今後、この「SUGOI部屋」に期待していることがあれば教えてください。

佐藤:すでに5年生の実践で、GIGAスクール端末を活用し、子どもたちの考えを画面いっぱいに表示して共有し、話し合いを深める活動も行っています。この「SUGOI部屋」は、いろいろな活動に使っていける可能性を秘めており、期待しています。今後は、教師にとっても子どもたちにとっても魅力のあるこの「SUGOI部屋」という環境を使いながら、投影装置や音響設備等の使い勝手を「内田洋行」さんや「ソニー」さん、「NTT東日本」さんなどの企業とともにさらに使いやすい環境の構築を模索しながら授業提案をしていきたいと考えています。喫緊の課題ということであれば、音響の環境でしょうか。音量だけでなく、音の明瞭性、指向性等まだまだ改善の余地はありそうです。聞く側のこちらの問題だけでなく、相手側のことも考えるとマイク等の発信の仕方にも及ぶ問題かと思います。

もう一つ、ぼくは新しいICTの環境が整備されていく度に思うことがあります。それは、今はまだこの「SUGOI部屋」は教師側の情報の道具でしかないのですが、今後は子どもたち自身がこの「SUGOI部屋」を使いこなせるようになってほしいいなあ、ということです。おそらく、子どもたちが使いこなしていけば、ぼくたち教師が想像もしないような新たなこの部屋の新たな使い方が生まれてくるのではないかな、と期待しているのです。ICTってそういうものだし、そうあるべきだと思っています。

授業後に、子どもたちからこの「SUGOI部屋」について子どもたちに聞いてみました。

「SUGOI部屋」は、やっぱりすごい! 画面が大きくて、タイの虹の学校の子たちと実際に会っているように感じた。

モニターの画像を二つ同時に映せるのがすごい! 今までの普通の教室ではできなかった。

ICTの世界って、本当にすごいと思いました。本当なら会えることもないようなタイの国の奥地の人と会って話しができているようで、本当にその場所にいるような感じがしました。

 

実践2:給食の安全・安心はどのように保たれているのかを考えよう

授業者:栄養教諭 横山 葉菜

【単元の目標】
・給食室の調理員さんや農家の方と交流を通して、安全で安心な給食の工夫を学び、普段の食生活で生かすことができる。
・学校給食に携わる方とつながることで、目の前の食事から背景にある人や食材に感謝の心をもつことができる。

横山先生は、この活動をはじめるきっかけ・先生や子どもたちの想いはどこにあったのですか?

横山先生(以下敬称略):4年2組では、1学期より、学校のごみを減らして持続可能な社会をつくろうという活動が行われていました。その活動の中で給食の残食に目が向けられたという情報を担任の先生から得ました。日頃から、栄養教諭として食育の活動がクラスの活動とコラボできないか探していたので、私にとっては渡りに船だなと思いました。まず、7月には毎日の残食の量などを紹介しました。子どもたちは食べ物を残すことはもったいないとは理解しているものの、その食べ物がどのように作られ、運ばれ、調理されて目の前に給食として提供されているのかは漠然としか認識ができていないのが実態でした。栄養士として、食育の立場から、一緒に活動を作っていくいいチャンスだと思いこの活動をはじめました。4年2組の子どもたちは担任の先生との社会科学習で水の安全安心について社会科で学習した履歴があります。その学習で学んだ水の安全安心を給食の安全安心へと紐付け、生産・流通・調理へと繋がる学校給食の普段は見えないところにも注目しながら、フードロスを減らすために自分たちは何ができるのか、考えを深めていく活動のきっかけをつくりたいと考えました。

「SUGOI部屋」で授業をしてみていかがでしたか?

横山:コロナ禍でなければ実際に出かけて見学をしたかったのですが、 当時の状況ではなかなか難しくて…。活動内容について悩んでいたところ、本プロジェクトに参画している「アフロ」さんから、写真コンテンツの提供や農家さんとのライブ授業をコーディネートしていただけるお話しがありました。そこで、小松菜農家さんとオンラインで繋ぐことに決まりました。オンラインで、農家の方に話を聞いたり、小松菜がビニールハウスで栽培されている映像を見ることになったのですが、実際に直接会って話しを聞いたり、小松菜が生で畑に植わっている様子を見るわけではないので、肌で感じるような実感にどこまで迫ることができるのか不安がありました。しかし、当日子どもたちが「SUGOI 部屋」に入ってくるなり、壁一面にビニールハウスが映っているている画面を見て「すごーい!」「大きい!」「うわー映ってるー!」などといった声を聞くことができました。小松菜農家さんとオンラインで会話が繋がった時も「おー!」という声や目を見開いてスクリーンを見ている様子がみられ、農家の方から自分たちの疑問を聞きたいというモチベーションは最高潮で、「つかみはOK」っていう感じでした。
アフロさんには、現地の農園でカメラワーク等のコーディネートもしていただきました。

実際にカメラが回りながら農園の中を進み、ビニールハウスの扉が開いて小松菜が見えたときは、子どもたちの興奮は冷めやらぬ様子でした。大画面で見ることができたため教室の後ろに座っている児童からも、「小松菜が大きくなっている!」「きれいな緑だ!」「ベリーグッド!」などといった声も聞かれ、まるで本当に目の前に畑があるかのようなつぶやきが聞かれました。実は、事前学習でアフロさんのもっている豊富な画像素材の中から小松菜の写真を提供していただき、一人一台の端末でじっくり観察をしていたんですね。事前に一人一人の観察によって予備知識をもっていた小松菜という「材」が、今度は、クラス全員が共有できる大画面の、しかも動画で目の前に現れたのです。子どもたちにとっては、写真では味わえない、まるで「生で見学した」時のように、小松菜という「材」との出会いができました。子どもたちからたくさんの具体的な質問がたくさんでたのも、一人一台の端末から個々の観察できる写真と、この「すごい部屋」でクラスみんなと見た迫力ある映像との相乗効果が出たのではないかと思いました。子どもたちから「土はどういう仕組みで耕しているのですか」という質問が出たとき、実際にトラクターに乗って耕す様子を見せてくださり、機械の刃がどのように動くのか、普段の見学でも見られない詳細な部分まで大きくスクリーンに映し出されたときは一層盛り上がりを見せましたね。この場面では、実際の見学以上の情報を得ることが出来たのではないかと思います。

壁一面がホワイトボードになっているので、子どもたちと小松菜農家さんとのやりとりを大画面の横に担任の先生が板書してくれました。質問とその答えの要点をクラス全体でも共有することができました。こんな所も「SUGOI部屋」のいいところだと思います。
この活動を通して、給食の安全と安心の工夫から食への興味を深め、4年2組の探し求めているフードロス問題への学習に繋げていきたいと考えています。

今後、この「SUGOI部屋」に期待していることがあれば教えてください。

横山:スピーカーがハウリングを起こしてしまったため、別のスピーカーを設置して活動を行いました。今後の活動ではさらに臨場感のある環境になればいいなあ、と思っています。また、この「SUGOI部屋」で、栄養素の話を含めて食べ物が口から入って、食道を通る流れを子どもたちが体験できるような授業ができるといいな、と思っています。消化・吸収する様子が大画面に映し出されれば、子どもたちにとってリアルに受け止めて実感のある「食育」に繋がるのではないかな、という期待をもっています。

取材を終えて

今回は、お二人の先生から「SUGOI部屋」の実践を紹介していただきました。ありがとうございました。お話を伺って「SUGOI部屋」の魅力について、特に印象に残っていることがあります。それは、お二人とも共通して「圧倒的なスクリーンの大きさ」にあると話されたことです。大きさが違うというだけでも子どもたちへのインパクトが全然違い、それに伴ってその活動に対する興味関心の度合いも雲泥の差があるようです。画像を大きくし、単純に同じサイズの人間が映し出されているだけでも、同じ空間を共有している感覚に浸れることができるというテクノロジーの凄さを改めて感じました。「一人一台の端末で」映像をじっくり観察できるよさと、またそれとは違う「みんなと迫力ある画面で」映像を共有することのよさをうまく活用することで教育効果が大きく得られることもわかりました。「SUGOI部屋」は、これで完成ではありません。お二人の先生からもあった音響設備の改善、また、投影装置や使用するソフト等の使い勝手などを、一緒に「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」に参画している企業にフィードバックし、随時アップデートすることで、最先端かつ使いやすいものに進化させていくのです。これから、このプロジェクトを通して「SUGOI部屋」がどんな空間に進化していくのか、楽しみが広がりました。

インタビューした人:彦坂 秀樹(東京学芸大学教育インキュベーションセンター、東京学芸大学附属竹早小学校)