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みちしるべ

今度はわたしが誰かの“きっかけ”に 学びを欲張る木育ガール

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東京学芸大学の卒業生を訪ねる「みちしるべ」。今回お話を伺うのは、学芸大学発のベンチャー、一般社団法人kiki 代表理事の前田彩世さんです。小金井市にある「きっかけ家」という活動拠点を中心に、ワークショップや出張授業などの教育事業を展開しています。学芸大学の技術科で得た学びや考え方に支えられ、恩師や周りの人たちの刺激を受けながら、現在までさまざまな挑戦を続けてきた前田さん。そんな彼女が歩んできた道のりと、その根底にある思いに迫ります。

取材・編集/山﨑靖加、赤尾美優、山下紗彩

「いろんな人生を歩みたい」

前田さんの行動力は中学生時代から垣間見えていた。

テレビで活躍する子役を見て、芸能の仕事に興味を持つ。憧れを抱いて、芸能事務所のオーディションに挑戦。「演じることを通して、いろんな人の人生を経験できるのが面白そう」と思い、役者を目指すようになった。

中学時代、ファッションショーにモデルとして出演する前田さん

当時、前田さんは違う中学校に通う友人から、「あんまり学校が楽しくない」と相談を受けた。しかし、相手に寄り添った言葉を思うようにかけられなかった。楽しい毎日を送っていた自分とは異なる環境での学校生活が、上手く想像できなかったのだ。この経験から、さまざまな立場にある人の気持ちがわかるようになりたいという思いが芽生えた。

「いろいろな経験をすることで、人の気持ちを想像できるようになる。それによって、相手にかけられる言葉も変わるかなと思っています」と語る前田さん。このような思いが、さまざまな挑戦への原動力になり、数々の経験を重ねていくことになる。

「木育」との出会いから生まれた新たな挑戦

東京で本格的に役者の仕事がしたいと思っていた前田さん。中学校の数学教師へ抱いた憧れもあり、学芸大学への進学を志した。理数系の科目に関心があったことから、技術科を受験し入学。大学に入った後に、技術科での学びのおもしろさに気づいた。

特に印象的だったのが、木材加工の授業。何のために制作するかという目的意識を念頭に置きながら、製品を作る過程を学んだ。ものづくりに夢中になった経験が決め手となり、「木育」について扱う研究室への所属を決めた。教育を通して木に関わる実感をもたらす「木育」は、前田さんが卒業後も取り組み続けていくテーマの一つになる。

木育のサイクルについて(出典:木育ガールキキちゃん オフィシャルサイト)

3年生になり進路に悩んだ前田さんは、知り合いの勧めでビジネススクールに通い始めた。「SDGsについて学ぶ中で、日本の森林に関する課題を実感して、何かやらなければいけないと思った」と語る。

最終課題のプレゼンテーションでは、図工室と森を木材でつなげるというテーマを掲げた。アイディアを出すことができても、実際に行動に移す人は少ない。中でも、情報や実践を発信している人はわずかだ。その点に着目し、「私が発信者になります!」とプレゼンした。

その意欲的な姿勢が評価されたことがきっかけとなり、「木育ガールキキちゃん」が誕生した。
YouTube「キキちゃんネル」をはじめとする各種SNSを立ち上げ、木材でDIYする様子を動画にしたり、自らラジオドラマを制作したりするところから始まった。

木育を仕事に~なりたい自分を模索して~

三菱地所ホーム主催「KIDZUKI CARAVAN 木に集う人々会議vol1@東京学芸大学」での講演

木育ガールキキちゃんの存在は次第に注目されるようになり、ワークショップや出前授業の依頼が増えるようになる。事業を継続的なものとして確立させていくために、前田さんは大学院で研究を続けることを決めた。

大学院生活と木育ガールキキちゃんの活動の両立は簡単ではなく、研究に加えてイベントの準備や進行、ワークショップで使用する木材の加工など、事業の全てを1人で担うには限界があった。そこで、協力メンバーを募り、2022年に木育研究所を設立する。さまざまな興味や得意をもつメンバーが集まり、その存在が事業の幅をどんどん広げていっていることを実感した。企業から事業を委託されることもあり、その経験から、十分な予算を活用して環境問題の解決に取り組むことにも興味を持った。

その反面、新たな悩みも生まれた。「一人ひとりが自分らしさを発揮できる団体はどうやって作られるんだろう」。そのヒントを求めて、卒業後は企業に就職する道を選択した。

入社後は、企業の仕組みや組織づくりについて学ぶ日々だった。また、その一方で、木育研究所の仲間とともに一般社団法人kikiを設立。会社員をしながらも教育に関する活動を続けた。

「先輩方に仕事観をインタビューする企画を同期とやっていたこともありましたね」。人と話すことが大好きだという前田さんは、当時を振り返る。企業でさまざまな仕事観に触れ、自分が本当にやりたいことについて改めて考えるようになった。一般社団法人kikiの活動に専念したいという思いが強くなり、退職を決意。新たな一歩を踏み出した。

みんなの「やりたい!」が生まれる この居場所を守り続けたい

現在は、教育を中心とした事業を展開しており、中でも小金井市にある「きっかけ家」という活動拠点は、さまざまな人が集まる居場所になっている。

時には、学校に行かない選択をした子が自ら友達のために貯金箱作りを企画したり、時には、書道をしに来たおばあちゃん世代の方が、思いがけず人生の話に花を咲かせたり。みんなが安心して過ごしている様子を、前田さんはいつも見守っている。
「普通の会社で働いていたらこんなに多くの世代の人と関わることはできない。やりたいことが学びにつながっていく姿を間近で見られることが嬉しい」

前田さんと一緒に活動しているのが、大学院時代からの友人である阿部さんと田中さんだ。
森に関する知識が豊富な阿部さん。困っている人に何かしてあげたいという思いが強く、人の気持ちに寄り添うことができる優しさをもっている。
学芸大学の美術科で造形を学び、学校で働いた経験もある田中さん。現在のきっかけ家にも、正解を求めるより夢中になって取り組めることを大切にしている田中さんの色が表れている。

得意分野や考え方がそれぞれ異なるからこそ、前田さんに新しい視点や発想をもたらし、影響を与えている。2人は前田さんにとって大切な存在だ。

一般社団法人法人kikiのメンバー、左から前田さん、田中さん、阿部さん

活動を始めてからの2年間、日々来てくれる人に合わせて変化を続けているきっかけ家。予想ができないからこそ、10年後の未来を思い描いてワクワクしているという。

「たくさんの方が私の背中を押してくれたように、協力してくれる人の存在は一歩踏み出すための大きな力になります。夢が2つあってもいいし、今ある職業が全てでもない。あらゆる可能性をいっしょに模索できるような……。今度は私たちがそういう人になりたいです」

——いろいろな人生を知って、人にやさしくありたい。

かつて掲げた人生のテーマを胸に、前田さんはこれからも走り続けていく。

「きっかけ家」の普段の様子

前田彩世さん

一般社団法人kiki 代表理事

2022年3月東京学芸大学教育学部中等教育教員養成課程(B類)技術専攻卒業、2024年3月同大学院教育学研究科(修士課程)修了。学部4年生の時から「木育ガール キキちゃん」として活動を始め、大学院の2年間は(一社)東京学芸大Explayground推進機構 木育研究所の代表として活動。その後、木育研究所の仲間と2024年6月に一般社団法人kikiを設立。武蔵小金井駅から徒歩3分の場所に「きっかけ家」という活動拠点を置き、居場所の運営や教育イベントの企画運営などを行なっている。

きっかけ家
【場所】スカイラーク小金井地下一階 小金井市本町1丁目9-5
【日時】平日10:00〜13:00、14:30~19:00/土日 イベントや習い事によって時間が異なります。
 ※詳細はインスタグラムやホームページをご覧ください。
【利用料】1日500円(途中入退室可) ※イベント時は別料金となります。
【使えるもの】コンセント、Wi-Fi、レーザーカッター、3Dプリンタ、ミシン、基本的な工具、基本的な工作の材料など
一般社団法人kiki/きっかけ家Instagram

 

編集後記

優しい笑顔と穏やかな話しぶりからは想像もつかないほど、挑戦し続ける貪欲さや、芯の強さが感じられる取材でした。特に、記憶に残ったのは「まだ誰もやっていないから、私がやる」という前田さんのパイオニア精神です。数々の経験の中で「あれは違う、これは違う」と試行錯誤を重ね迷いや不安も抱えながらも、一歩ずつ自分の進む道を切り拓いてきた前向きな姿が印象的でした。

勇気を出して一歩踏み出しても、思うような成果が得られないかもしれない。でもそれは巡り巡って、「自分」を形作る大切な1ピースになっていく……。前田さんの人生が、そう信じさせてくれました。

 

写真提供/前田彩世さん