教育を面白くするメディア 「エデュモット」EDUMOTTO東京学芸大学公式ウェブマガジン

edumotto

YOUは何しに学芸へ?

Vol. 7 D類養護教育~学芸大生のリアル

SNSで記事をシェア

いよいよ秋ですね。志望大学などの進路選択が本格化する時期でしょうか。まだまだ暑いので、体調に気をつけながら受験勉強に取り組んでくださいね!
さて、今回のゲストはD類養護教育専攻(以下、D類)4年のMさんです。Mさんは、高校時代に法律家志望から養護教諭志望へと変わったそうです。Mさんはどのような思いで進路と向き合ってきたのでしょうか。また、「保健室の先生」を目指すD類とはどのような専攻なのでしょうか。進路を考える秋にぜひ読んでもらいたい、そんな記事です。

Mさん

D類養護教育専攻4年

edumotto学生編集メンバー。高校時代の好きな科目は「倫理」。最近ハマっているのは、飼っているウサギに毎日2回レタスをあげること。

法学部志望から養護教育の道へ

元々は法学部を志望していたそうですね。

Mさん:はい、中学生の時は法学部志望でした。きっかけは「いじめ」が裁判になったという話を聞いた事です。その話を聞いた時、「いじめを法的に裁くことができるんだ!」と衝撃を受けました。

いじめはあってはならないことです。しかし中学生の私には、それを主張する力がありませんでした。法律を学ぶことで、感情だけではなく根拠を持っていじめに対抗できるのではないか、と考えたのです。

そこからどのようにしてD類養護教育専攻を志望するようになったのですか。

Mさん:高校生になって、少し気持ちが落ち込んでしまった時に、心理士の方とお話しをする機会がありました。その時、心が「ふっ」と救われる感じがしたんです。そして同時に、不安を抱えている子どもの心を軽くするためには、丁寧に話を聴いたり言葉をかけたりすることが近道なのかなと思いました。それまで考えていた、法律でいじめにアプローチする方法は少し間接的だなって。

そこからは、カウンセリング専攻と養護教育専攻で迷いました。最終的には、「常に学校にいて、子どもの心と身体、両方の痛みにアプローチできるのは養護教諭だ」と思い、D類の受験を決めました。

D類って、どんなところ?

D類養護教育専攻はどのような雰囲気の学科ですか。

Mさん:D類は、少人数の学生に対して先生が多くいらっしゃるので(※)、一人ひとりを手厚く見てもらうことができます。また必修の授業が多く、たくさんの時間を同じ学科の学生と過ごすことで、同期との仲も深まります。学年ごとに色があって、団結していると思います。
(※編集部注:学生12〜13名(一学年)に対して、教員4〜5名)

附属小金井幼稚園での保健指導で使った虫歯の模型。D類の学生の手づくり。

D類で学んだ「みる」ということ

4年間のD類での学びを振り返って、今どのようなことを考えていますか。

Mさん:私はD類で、身体から根拠をもって情報収集をすることを学びました。また、「みる」ことに関する価値観も変わりました。

D類に入学する前の私は、子どもが保健室に来室する理由を、すぐに心の痛みと結びつけていました。しかし子どもの訴える身体の痛みは、緊急度の高い疾患の兆候を示すものである可能性もあります。まずは、その子の身体を「みる」ことが必要なのです。

また、子どもだけではなく、自分を「みる」ことの大切さも学びました。保健室で教育実習をした時、保健室登校の児童の話を毎日聴いていました。私は気づかぬうちにその子の話に感情移入しており、家に帰った後でも、その子の苦悩を思い出して辛くなってしまいました。養護教諭が不安定になっていては、保健室は子どもたちの安心できる場所ではなくなってしまいます。今では自分の体調や気持ちの変化を把握し、安定した存在でいることができるように努めています。

養護教諭を目指す上で、Mさんが大切だと思うことは何ですか。

Mさん:「エンパシー」だと思います。「エンパシー」とは、相手の立場に立って、その人の気持ちを想像する能力のことです。保健室に来室するのは、子どもに限定されません。担任の先生や管理職の先生、保護者の方、ソーシャルワーカー、スクールカウンセラーの方など、立場や専門性の異なる方と協働する場面もあります。そのような場面では、その人の立場に立って、新たな視点で世界を見聞きすることが必要です。他人の立場に立って考え、そこから学びを得て、自分の養護観をつくり“続ける”ことが大切なのではないでしょうか。

D類だから、ここまでやってこれた

最後に、D類を目指す受験生にメッセージをお願いします。

Mさん:D類の学生には、保健室での思い出をきっかけに養護教諭を目指した、という人が多いです。保健室って、体調が悪い時やけがをした時に行く場所ですよね。身体は元気でも、心に悩み事を抱えていて、話を聴いてもらいたいという時に来る子もいる。D類の学生はそういう場所にルーツがあるので、人の痛みが分かるというか、知っている。そういう同期に恵まれました。

先生方も、養護や看護の学問に精通されているからこそ、学生一人ひとりの価値観を尊重してくださいます。時に厳しくも、愛情に溢れている方々です。とてもあたたかい環境でした。大学は高校よりも視野が拡がるので、辛いことや苦しいことも、人によってはあるかもしれません。私は、この専攻だからこそ、ここまでやってこれた。すごくおすすめです。

Mさんのとある一日

8:30 1限:ゼミ 他学科の法学のゼミに参加。最近は医療過誤についての本を読んでいる。その後ボランティア先の中学校まで歩いて移動。
12:00 中学校の保健室でボランティア活動。保健委員会の活動に顔を出すことも。
16:30 保健室を閉める作業を手伝って、帰宅。

 

取材を終えて

「ともに時間を過ごしながら、子どもの心に寄り添いたい」という思いから、法学ではなく養護教育の道へと進んだMさん。「大学生活の中には、もしかしたら辛いこととか苦しいこともあるかもしれない」と話すMさんに、D類のあたたかさを垣間見た気がします。
動機も進路も人それぞれで大丈夫。養護教育に関心のある方はぜひ東京学芸大学D類へ!

関連記事
D類や養護教育についてもっと知りたい方はこちら!

せんせいのーと 荒川雅子先生(養護教育講座 養護教育分野)

「保健室」が存在しない国で行う養護教育

 

取材・文/岩田有紗・赤尾美優・大内涼葉
写真/Mさん提供
画像作成/小沢真奈・岩田有紗