教育の未来
“好きな色”を選ぶことができる社会へ
2022.09.05
未来の学校みんなで創ろう。Ongoing
2024.05.14
「未来の学校みんなで創ろう。PROJECT」では、私たちと同じく「完成しない、みんなで創り続ける学校」を目指して実践・研究に取り組んでいる個人や団体に対して、勝手ながら「未来の学校みんなで創ろう。Ongoing!」ステッカーを認定証として贈呈することにしました。Ongoing、まさにみんなで未来の学校を目指して取り組んでいる途上!同志としてこれからもよりよい実践・研究に磨きをかけていきましょうという思いの証です。Ongoingをどんどん認定して、未来の学校を創る「みんな」を増やしていきたいと思っています。
さて、そんな「未来の学校みんなで創ろう。Ongoing!」の認定第1号は、岡山県岡山市立岡南小学校 塩見利夫先生です。
紹介者である岡山大学准教授の原祐一先生は、塩見先生のことを次のように話されています。
「彼は、寝ていても新しいゲームを思いつく『ゲームの神様』と呼ばれています。岡山市の学校で楽しめるゲームの研修会、プレイフルの会を開催しています。県内から多数の教員が集まって、塩見先生が開発したゲームを目の色変えて楽しんでしまうのです。そして、日々の実践に使ってみようと、新たな動きが生まれています」
塩見先生、原先生には、今年の1月6日、東京学芸大学のExplayhubで「ゲーミフィケーションで学びを変える~笑い合える豊かな教室へ~」と題し、まずはゲームを楽しんでみようと実践研修の講師を務めていただきました。
その時のゲームの様子を少し紹介します。
はじめのゲームは、4人組で、一人7~8枚のカードを配ります。カードには地図記号が6つ書かれています。テーブルの上に1枚のカードが出され、そのカードに書かれている6つの地図記号と自分の持っている7~8枚の書かれている地図記号がひとつ一致します。一致した地図記号の名前を声に出して、そのカードを出すことができるのです。手持ちのカードが早く無くなった人が勝ち!というゲームです。
最初、ああ、地図記号か‥‥ちょっと苦手だな、と思ったのですが、塩見先生が「はじめは正確に地図記号が言えなくてもいいですよ。見た目で二重丸とか点々とかでもいいですよ。」と声をかけてくれました。俄然、これで私もゲームに積極的に参加することができ、同じテーブルの人たちと何回もゲームを楽しみました。何回か楽しんでいるうちに、もう少し難しいことに挑戦しようと思えるのが不思議。今度は適当な名前でなく、正確な地図記号を言うようにしようとテーブルのみんなとルールを変更して再びゲームに挑戦。テーブルにはヒントとして地図記号と正確な呼び名が記載されている表もつくられていました。うろ覚えの呼び名はその表を見ながらゲームができるのです。なるほど、これなら地図記号の知識が充分でない子も楽しめる! この後、別のゲームを4つほど紹介していただきました。どのゲームも楽しく、すぐに実践したくなるものばかりでした。
Q:学習ゲームをたくさん開発されていると伺ったのですが、学習をゲームにしようという考えに至った原点はどこにあるのですか?
塩見先生:原先生との出会いが大きく関係しています。その時は体育の話だったのですが、勝つか負けるかわからない、できるかどうかわからないところにドキドキがある。できるかできないかが50%、50%が一番面白いんだと話されていて、そこに感銘を受けたのです。ゲームも、おそらく勝つか負けるかわからない、できるかできないかわからないところが一番楽しい。それは、遊びの本質でもあるのではないかと思います。最初は体育学習の話でしたが、他の学習場面でも同じような状況が作れないのかなという発想になっちゃいました。そこから原先生が話されていた「プレイフル」っていう言葉に出会ったことから、日常生活・学校生活が変わるんじゃないかと考えるようになったのです。プレイフルという視点を持てば、仕事の業務内容も全然変わるんじゃないか、単純作業もゲームにできるんじゃないか、プレイフルのマインドを持てば、生活も豊かになるのではないか、遊びに変えられることが多くあるのではと、そう考えるに至ったのです。学習をゲーム化する原点はこのような視点の転換があったからだと思います。
Q:確かに遊び、ゲームが楽しいのはわかりますが、遊びが学びに繋がる瞬間ってどんな時に感じますか?
塩見先生:まず、遊びそのものが丸ごと学びであると考えています。その前提でお話をします。プレイフルの会で「熟語ポーカー」というゲームを実技研修した時に、ある先生がこんな感想を言ってくれました。それは、「手札に書いてある漢字 1文字1文字を見ながら、他にどんな漢字がこの文字と組み合わされば熟語になるのかな、といっぱい考えながらゲームをしていたことに気づいたんですよ」と言われました。 そこの手札には漢字は1文字しかないんだけれど、それをきっかけにいろんな漢字が頭に浮かんでいるんです。ポーカーという遊びから、手札にもない、目には見えていない熟語を試行錯誤しながらしっかり想像しているんですね。その時が、カードゲームという遊びが学びそのものなんだと感じた瞬間です。また、同じ遊びを行う中で、知識だけでなく表現力やコミュニケーション能力等も結果的に育まれているのではないかと考えます。
Q:未来の学校に向けて、これからどんなことを大切にして、どんな活動をしていきたいと思いますか。
塩見先生:学校にはもっとバリエーションがあってもいいのかなと思っています。教育界には〇〇スタンダードがいくつもあると思うのですが、それは全てをそうしないといけないわけではないと思います。基本をそれとしながらも、多種多様な学び方があってもいいのではないかと。子ども一人一人の中に知的欲求っていうのは必ず潜んでいると思うので、一人一人のやりたい気持ちを大切にしてあげることが必要なのではないかと思っています。「教科側から」ではなく「遊び側から」の視点を大切にして、子どもたちに豊かな学びが提供できるように楽しみ続けたいと思います。そして、何より子どもたちもそうですが、教師も朝、学校に行くときに「今日は楽しみだな」と、わくわくどきどき感を少しでもたくさん持てるようになる学校が未来の学校だと思っています。これからも、そんな未来の学校に向けていろいろ発信ができればいいなあと思っています。
<インタビューを終えて>
塩見先生の以前勤務されていた学校のトイレのドアは、一度手で開けると自然に閉まるしくみになっていたそうです。コロナ禍でトイレに消毒のスプレーを捲くという教員の業務が増えた時、ドアが閉まるまでにスプレーを捲いて戻れるかっていうゲームをしていたんですよ、と屈託無い笑顔で話をされました。子どもみたいにくだらないことをプレイフルにできる、だから 豊かに生きられるともお話をされました。お話を伺っていて、本当にいい意味で子どもらしい感性を持っていらっしゃる方だなと思いました。いろいろなゲームの開発は、夢を見ているときに思いつくとも話されていました。原先生が塩見先生のことを「ゲームの神様」と言われるのにも納得がいきます。
塩見先生は原先生の提唱するプレイフルの会で学習ゲームの普及に努めていらっしゃいます。
原先生からお話を伺うと、この会に参加された先生方は、みな塩見先生の開発したゲームは「楽しい」「実践できそう」「すぐにでも使ってみたい!」と話されるそうです。
原先生から、このプレイフルの会について紹介をしていただきました。
「ゲームに夢中になっていたら,いつの間にか沢山のことを覚えてしまっていた…。ゲームに夢中になっていたら,いつの間にか友達とつながっていた…。一人ひとりが子どもになりきり、みんなでプレイすることで、学びがワクワク・ドキドキしたものへ変わることを実感します。
面白い世界の中に学びが自然と埋め込まれることで,笑顔溢れるクラスへと変容し,子どもたち同士が自然と協働・共創し合う世界へ一緒に誘いましょう.皆さんの参加をお待ちしております!」
今年の1月6日、東京学芸大学のExplayhubで「ゲーミフィケーションで学びを変える~笑い合える豊かな教室へ~」と題したゲームの実技研修の参加者からも研修会終了後に次のようなメールが届きました。
“ありがとうございます。飛び込むように参加させていただきましたが、結果、とても勉強になり面白かったです。お忙しい中、塩見先生にもたくさんのことを教えていただき嬉しく思います。データについてもありがとうございました。くれぐれもお礼をお伝えください。寒い地方で、ポツンとひっそりですが、実践させていただきます。”
“お疲れ様です。カードを早速活用させていただいています。土曜授業でいつもなら疲れている様子を見せるんですけども 楽しそうにしていました。ちなみに女の子2人は社会が大嫌いで、成績が厳しい子たちなんですが、授業後には、もう覚えちゃったよと話してくれるぐらいでした。本当かと思うぐらいでした。”
この研修会でも、岡山のプレイフルの会と同様、「楽しい」「すぐに使ってみたい」という声があがりました。
私たち「未来の学校みんなで創ろう。PROJECT」では、提言の中に、「ゲーミフィケーションで学びを」と提唱しています。私たちの教育観、研究の方向性とも見事に一致しています。そこで、誠に勝手ながら「未来の学校みんなで創ろう。Ongoing!」認定第1号としてステッカーを贈呈することにしました。
塩見先生が取り組んでいらっしゃる実践を通して、「必要だから学ぶ」から「楽しいから学ぶ」へ学ぶモチベーションの転換が図れるような新たな学習ゲームがどんどん開発されることを期待しています。まさに、Ongoing!そして、塩見先生の開発したゲームに触れた先生方も学校がわくわくドキドキする場になれるような未来の学校を創っていく「みんな」の一員として、その輪が広がっていくことを願ってやみません。
寄稿/彦坂秀樹(教育インキュベーション推進機構)
塩見先生と原先生との対談「100人輪読会第3回」はこちら