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現役の学芸大生が沖縄県の名護市に潜入し、肌で感じた記録を連載します。第1回は2022年8月、学芸大学と名護こども食堂、そしてオリエンタルホテルの三者で開催されたハイサイウチナーインターンシップとzoomを使用したオンラインと対面のハイブリット型学習支援の実態に迫ります。初の試みに苦戦しながらも全力で挑んだ学生らの声と、インターンシップ開催の背景を聞きました。
東京学芸大学の環境教育センター。水曜日は学生たちがパソコンの向こうにいる小中学生に語りかけている。つながっているのは、遠く離れた沖縄県北部、名護市のこども食堂だ。
夕食作りでは沖縄の郷土料理にもチャレンジした。お正月には中身汁(なかみじる)、ゴーヤチャンプルにサーターアンダギー。「お菓子はみんな大好きなので、お家に持って帰る子どももいました」と名護こども食堂副会長の神谷康弘さん。ご飯作りの手伝いをするのが初めての子どもたちは「私も炒めたい!」と興味津々だ。
学生たちもパソコンの向こうで同じ料理にチャレンジする。勉強の時間には学生が子どもたちの学校からだされた宿題や高校受験に向けた学習に付き添う。東京と名護、飛行機と車で4時間以上離れた部屋が、まるで隣り合わせのようだ。
サバニ体験の様子
こども食堂には、学校に通うことができていない子どもたちも多く在籍する。家庭で満足な食事ができなかったり、親から虐待を受けていたりする場合もある。東京学芸大学こどもの学び困難支援センターの田嶌先生は「子どもたちが幸せだと思える瞬間をつくり、その先の人生で自ら幸せを掴み取っていくことができる力を養ってほしい」と話す。
そのために必要なのが学習。ただし、名護こども食堂では「学習」をとても広い意味で捉えている。「学習」といって展開される活動は、例えば「教科書を開いてドリルを解く」ようなものから、「お絵描きを通した筆談」や「一緒に行う料理」「ゲーム対戦」まである。ここでは、子ども一人ひとりの興味に寄り添い、「遊び」の中から「学び」の要素を見つけ、子どもの好きなことから探究につなげていくことを大切にしているのだ。
名護こども食堂にくる子どもたちは40人を超える。一人で関わることのできる人数には限りがあるし、過疎化が進む地域ではスタッフの確保が難しい。
そこで着目したのがオンラインによる学習支援だ。学芸大は名護こども食堂をモデルとして、新たな学習支援や福祉活動を創り出す研究を進めている。遠隔支援だけではなく、2022年8月には子ども食堂へのインターンシップが企画され、現地で子どもたちと交流した。糸満市で実施した「サバニ体験」は子どもたちにも学生にも大人気だった。沖縄や周辺の島々に伝わる木製船のことで、造船技術を受け継ぐサバニ職人の話を聞き、オールを漕いで海の中の珊瑚礁を見た。
サバニ職人の講話
学芸大生、名桜大生と子どもたち
始めからうまくはいかなかった。スタッフとして参加したA類美術科の佐藤栞さんは「パソコンを介しての交流に慣れるまではほとんど話さず、カメラに写るのを嫌がっていた」と子どもたちの様子を振り返る。でも回を重ねるほどに自分に向かって話しかけ、「〇〇がしたい」などと持ちかけてくれるようになったという。佐藤さんは「子どもたちの変化を感じ取り、楽しそうな笑顔を見ることができるのが私の活力になっています」と話している。
糸満の海で一緒に乗ったサバニは楽しかったようだ。「他にはどんなことがしたい?」と尋ねると「水族館や動物園にも行ってみたい。パンダが見てみたい」と話してくれた。私たち学生はその声を何気なく聞いていたが、こども食堂の神谷さんは、子ども食堂にくる子どもたちの中には家族旅行に行ったことがなくて、生まれて一度も沖縄を出たことがない子もいるのだと話してくれた。「そんな子たちにとってはサバニから見えた景色はとても新鮮だったのでしょう。次にやりたい楽しいことを言えたのは大きな収穫です」と神谷さん。学生らとの交流を通じて沖縄の「外」とつながり、楽しい思い出や勉強が分かる体験を増やしていくことが成長の糧になるのだという。
名護こども食堂は、沖縄の子どもたちと首都圏の学生とをオンラインで結び、それぞれにとって成長の糧となる環境づくりを試みている。そこに地元のホテルも参画し、学生が旅費を確保できるようにして現地交流の機会も増やしていく構えだ。他県からも人的リソースを得ながら子どもたちに学習の場と居場所を提供していく仕組みは、地方のこども食堂の運営に新たな風を吹き込んでいるといえるだろう。
この活動の継続で見込めるマンパワーの確保はこども食堂の持続にも直結する。ホテルは地域課題の解決に踏み込み学芸大学は大学から離れた地でも学習支援が行き届く仕組みをつくっていく。
名護こども食堂に密着#2はこちら
取材・編集/山内 優依
協力/B類書道専攻 富永芽野、沖縄高専 久場悠誠
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