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公民館は地域住民の橋渡し役?地域まつりから広がるコミュニティ

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みなさんは地域主催のイベントに「運営する側」で参加したことはありますか?
筆者は今年4月末、学芸大学のある東京都小金井市のとなり、西東京市で開催された「谷戸まつり(やとまつり)」に実行委員として参加しました。地域まつりの運営に関わって感じた気付きや発見を、生涯学習や教育協働について学ぶ学芸大生の視点からレポートします。地域コミュニティに興味のある方、今大人数で何かの企画に関わっている方、すでに関わっているけれど運営に悩んでいる方、まだ関わったことのない方にも、この記事が届くことを願っています。

「講義の学びを実際に活用したい!」飛び込んだ公民館

「地域のおまつりの実行委員、やってみない?」
同じ生涯学習・文化遺産教育コースの先輩からの言葉が、谷戸まつり実行委員会に参加するきっかけだった。

「谷戸まつり」とは、谷戸公民館の利用者や地元の高校生が中心となって運営する、地域の春のおまつりだ。平成元年から現在まで36年続いているイベントで、近隣の小中学校と連携して開催されている。まつりではサークルや団体の発表、やきそばやスーパーボールすくいなどの模擬店、体験型イベントが開かれる。当日は子どもから大人までが参加し、2日間で2000人近い地域住民が訪れた。

谷戸公民館は、この谷戸まつりの他にも、小学校が隣接しているという特徴を生かし、子ども向けの講座を多数開催している。このような公民館を軸とした地域活動に実行委員として参加することは、ふだん学芸大学で学んでいることを実践できる絶好の機会になると感じたのだ。

実践の場もインプットの場?

実行委員は、まつり全体の企画運営に関わるとともに、自身のサークルの発表やイベントの企画を行う。筆者は声をかけてくれた先輩方と一緒に、昨年に引き続き実施するすごろくとクイズを掛け合わせたイベントを担当した。クイズは西東京に関する出題で、参加者に地元についてもっと親しみを持ってもらうことを目的とした。

といっても、筆者自身の出身は西東京市ではない。地元住民しかいない実行委員の中で、西東京市のことを何も知らない状態からのスタートだった。すごろくにやってくる対象は主に親子や小学生だ。彼らが楽しめる難易度は? 問題文の表現は? ボランティアとして参加してくれる学芸大生と協力しながら、バリエーション豊かなクイズを作ろうと意見を出し合った。

『地元をもっと知ってもらう』という目的のもと始まった準備。しかしクイズ作成で西東京市を調べる経験を通じて、実際は筆者の方が市についてたくさん学ぶこととなった。実行委員としての参加は、大学の授業で学んだことを発揮するアウトプットの機会ととらえていたが、結果的に新たな学びを得るインプットの機会にもつながっていた。

地域が一体となるパイプ役、谷戸まつり

まつりの運営側に廻って感じたのは、『協働』することの大変さであった。授業ではよく聞くワードだが、実際にやってみると簡単なことばかりではなかった。各所の申請や物品の準備、模擬店の店番のタイムシフト。ふだん別の活動をしている人たちが集い、時に異なる意見を調整しながら一緒に準備する難しさを感じたのだ。

36年もの間、実行委員の地域住民と公民館職員はどのようにして協働してきたのだろうか?谷戸まつりは地域でどのような場になっているのだろうか?公民館分館長の一之瀬 裕幸さん、実行委員長の玉木誠さんにお話を伺った。

玉木さん(画像左)、一之瀬さん(画像右、マイクを持った男性)

運営が住民であることに意義がある

谷戸まつりの一番の特徴は運営が住民であること。そう一之瀬さんは語る。
「実行委員と公民館職員、顔の見える関係性が生まれます。顔が見えることでお互いさまの関係も生まれてくるんです」

毎月開催されるまつりの準備に参加した時の、委員と職員間のやり取りを思い出してみると、「装飾はサークル活動でやっているから得意です!」「焼きそばを作るのは任せてください!」という実行委員のやる気に満ちた声が、職員の方に直接届く環境だった。

まつりを作る『過程』である実行委員会に職員の方も参加することで、委員と職員が共通認識を持って準備を進めることができた。単に施設を借りる関係ではなく、ともにまつりを作るあたたかな関係が醸成されていった。このような基盤があるからこそ、公民館職員が異動で代わったとしても協働が上手く機能し、36年もの間続いているのだろう。

まつりを通じた地域コミュニティ

谷戸まつりは地域にどんな効果をもたらしているのだろうか?
この質問に対し、「近隣の小中学校とのつながりを形成している」と玉木さんは語る。

谷戸まつりでは近隣の学校から、体育館を当日の会場のひとつとして借りたり、まつりに参加する中学生ボランティアの募集をかけてもらったりしている。近隣学校の協力体制が、谷戸まつりを支えているのだ。玉木さんは「教職員の方々の協力なしには、まつりは成り立たない」と話す。「谷戸まつりは地域力の源です」と一之瀬さんも頷く。

まつり当日は、吹奏楽部が地元の方に演奏を披露していたり、中学生ボランティアがわたあめや焼きそば、筆者の企画したすごろくの店番に関わったりしたりしている様子がみられた。中学生ボランティアに参加のきっかけを聞いたところ、「学校の先生からまつりのボランティアのことを聞いた」「友だちが去年参加していて、今年は自分も参加したいと感じた」とのこと。公民館を起点に、地域住民が地域活動に参加していることが伺えた。

谷戸まつり及び公民館は、地域住民が新たに住民を引き込む、『人とのつながり』を促す橋渡しの役を担っていた。この役割は住民同士の協働、生涯にわたる学びあいにつながるのではないか。これからの生涯学習の場を担う学生のひとりとして、こうした学びあいのコミュニティを受け継いでいきたいと強く感じた。

 

編集後記

谷戸まつりの経験から、一見アウトプットの場である実践の場にもインプットが隠れていること、住民が住民を地域活動に呼び込む、教育協働の実践を体感することができた。最近はオンライン上で解決することも増えたが、こうやって対面で誰かと活動することで感じられる協働も大切にしていきたいと感じた。

谷戸まつりについてはこちらから!
第36回 谷戸公民館まつり~笑顔 輝け 谷戸まつり~(西東京市WEBサイト)

 

 

取材・編集/居倉 優菜
取材協力・写真提供/東京都西東京市 谷戸公民館