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教えて栗山監督! 〜教育学部生のリアルを直球質問〜

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私たちは学部1年から院2年まで学科も研究分野も違いますが、“教育”というキーワードでつながっています。WBCで日本を優勝に導いた栗山英樹監督も同じ東京学芸大の教育学部生として大学生活を過ごした先輩です。小中高の免許を取りながらプロ野球の道に進み、数々の選手たちを育ててきました。働く場所は球場ですが、私たちの悩みを投げてみたら、どんなボールを返してくれるのでしょう。講演後に単独インタビューを試みました。

講演会終了後、教室の空気は緊張感で張り詰めていました。そこに入ってきた栗山さんは、講演で質問したedumottoのメンバー(赤尾美優)に気づき「良い質問だったねぇ」と笑顔でほめてくれました。ほっとした私たちは落ち着きを取り戻し、和やかな雰囲気でインタビューが始まりました。

子どもたちを愛し続けること

初めに質問した私(澁澤唯奈)は音楽科を専攻していますが、好きな音楽を仕事にすることにためらいを感じています。「好きだからといって音楽を教えることなんてできるのか、自信がなくて、進路に決断が下せていません」。そう打ち明けると、栗山さんは「やりたいことはやってみたほうがいい」と切り出し、熱く語り始めました。

大学卒業の時は野球への熱が勝ち、「野球選手としてやり切ってから教員になろう」と決意し、プロ野球の世界に進んだそうです。これは、「好きなことを追求したい、やりたいことはやってから後悔しよう」という栗山さんの信念につながっているように思います。結果的には野球の道を歩み続けることになりましたが、逆に「学芸大学にいた時より教育について考えることが増えた」と続きます。

「僕は野球を通して教育してきたつもりだよ。どんな職業でも教育の視点は役に立つ。どんな時代でも、人を幸せにするのも世の中を変えるのも、教育だと思う」

そんな話を聞いていて、自分の教員の役割に対する視野の狭さに気づきました。何よりも、音楽というツールを使って子どもたちの成長の隣に居続けることが大切なのかもしれないと考えました。自分は音楽科の中でも管楽器を専攻していて、合唱など、専攻外のものとはどうしても距離を感じてしまいます。ですが、現在の学校現場で合唱を取り上げないことはほとんどなく、技術的指導が求められます。でも、合唱は、音楽は、技術だけではない。合唱や器楽、鑑賞の授業を通して子どもたちが達成感や楽しさ、美しさを実感できる時間を創り出してみたい。音楽で感情を表現する面白さを身につけていく姿を教員として支えたい。そんな思いをもちました。

大学在学中、3回も教育実習に行った栗山さんに「実習に行くのが怖い」という気持ちも伝えました。授業がうまくできるか、子どもたちにどう思われるか、不安があるからです。栗山さんは「緊張するよね」と言いながら「自分を変えなくていい。子どもたちを一方的に愛し続けるだけでいいんだよ」と勇気づけてくれました。粘り強く子どもたちと向き合いたいという気持ちを大切に、2年後に教壇にたつ自分をイメージしながら意欲的に学び続けようと思います。

人を支えることで得る幸せ

次に質問したのは菅谷美月です。講演に耳を傾けながら、「私らしい先生像とは?」と思い巡らせました。

栗山さんは北海道日本ハムファイターズの監督時代に大谷翔平選手と出会い、投手と打者の「二刀流」に挑みました。日本のプロ野球では未踏の挑戦でした。私たちが教職に就いて出会う子どもたちは、私たちの知らない世界を歩んでいきます。大谷選手のように、私の想像を超える可能性を秘めているかもしれません。

「自分には道なき道を進む人を支えられる自信はないし、子どもをどうサポートしたらいいのか分からないんです」。そう打ち明けてみると、栗山さんは「僕も正直、二刀流に挑むのは怖くてしょうがなかった」と語り出しました。少し驚いていると、栗山さんは目を輝かせて続けます。

「でも成功したらかっこいいだろう、という今までにないワクワク感がありましたよ」

二刀流の選手を育てるという重圧とともに、けがはさせられない、失敗はできないと追い込まれたからこそ、自分の力や知恵を最大限発揮させることができたといいます。「僕自身も充実した時間を過ごし、成長できた。翔平が喜んでいる姿が、ぼくにとって一番の喜びです」と幸せそうな表情で話す姿が印象的でした。全身全霊で人を支えると、成功を自分のことのように、いやそれ以上に、喜べるのだ。と、栗山さんの姿から気づかされました。可能性を育てる責任は大きけれど、挑戦を支える人は、誰よりも成功への期待をもって支える気持ちが大事なのだな、と思いました。

 監督として見守るだけではなく、自分で野球はしたくないのかな? そんな疑問もぶつけてみました。

「選手としてホームランを打てば嬉しいし喜んでくれる人がいる。でも、監督をしていた方がより多くの人の幸せを見ることができるから、今は教えることが好きです」。

多くの日本人を勇気づけてきた栗山“監督”らしい一言を聞くことができました。きっと、人を幸せにしたいという熱い思いが、WBC日本代表の監督にもつながったのです。

 インタビュー終了後、栗山さんは言い残したように「教育ってなんだろうね」と私たちに問いかけました。「教育って言葉がよくないのかもね」という栗山さんは「教育は『人を育てる』ことではない。人は勝手に育つ。育つのを『助ける』のが“教育”なんじゃないかな」と語り、教室をあとにしました。

インタビュアーと一緒に、edumottoの「e」ポーズをとる栗山さん

 

編集後記

インタビューを終えた私は、緊張が溶けて椅子に座り込みました。その一方で、しばらく興奮が収まりませんでした。10分間という短い時間の中で、プレッシャーもあった分、栗山さんの一言一言が心に残り、今でも当日の景色を思い出します。
特に、教員への考え方は、ずっと自分の前にかかっていたモヤモヤに少し光が差したような、背中を押してもらえたような気がしました。「人が育つのを助けることが教育」という言葉に、自分が目指す教員の姿を重ねました。誰一人として取り残したくない。一人ずつ歩む道が違っても、その子に合わせて歩んでいきたい、音楽を通して世界を広げたい—。そしていつか、私のように教員の道を悩んでいる人、教育に熱い思いをもっている人を支えたい—。そんな夢ももちました。
私が次にすべきことは方策を考え、実践を重ねることです。「今できなくてもいつかできるようになればいい、そのために一生懸命努力し続けよう」。栗山さんが講演会で残した言葉の一つです。この言葉を胸に、“私らしい”教員になりたいと強く思いました。(澁澤唯奈)

取材・編集/赤尾美優、片山なつみ、河野芽唯、近藤羽音、澁澤唯奈、菅谷美月