
せんせいのーと
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2026.03.19
せんせいのーとvol.34は数学教育学がご専門の清野辰彦先生です。
子どもたちが考えたくなるようなきっかけやその先の学びについて研究している清野先生。数学教育だけでなく、教師教育や海外の教育についても研究しています。そんな清野先生の思いを、過去の経験から現在の研究内容、未来への展望にわたって見ていきます。

写真1:箱根の寄木細工は美しい数学的な対称性をもつ。
私は子どもたちが自然と考えたくなるような教材やカリキュラムの研究をしています。たとえば箱根の寄木細工(写真1)。立方体がたくさん集まっていてきれいですよね。箱根に行ったとき思わず手に取ってしまったのですが、授業で見せると子どもたちも興味を示します。
この寄木細工はいくつの立方体から作られているのか、考えてみたくなりませんか。

写真2:正多面体の特徴を生かした模型
そしてこれは教材としてつくった正多面体です(写真2)。正十二面体を面の対角線で切り開くと正六面体が出てきます。正六面体を対角線で切ると正四面体が出てきます。そこから中点どうしを結んで切ると正八面体が現れます。
この事象を言葉で説明されても難しいですよね。そこで、実際に模型を使うことで子どもたちの目に見えるようにしています。
事象の中から大切な要素を取り出し、式などで表して抽象化することを「数学的モデル化」といいます。授業づくりにおいて、「数学的モデル化」を重視しています。授業を通して、私は「考える」態度を養いたいと思っています。
子どもたちが考えたくなるような授業の導入案を現役の先生方と一緒に練り上げたり、発問について助言をしたりして、授業づくりのお手伝いをしています。
私は大学に入学した当初、「なぜ数学を学習するのか」という問いにうまく答えられなかったんです。3年生の教育実習で現場に出たときに、この問いに答えられないままでいいのかと悩みました。その悩みと向き合う中で、数学は世の中のいろいろな場面で使われていて、その経験を子どもたちに持たせてあげることが重要なのではないか、と考えるようになりました。これが博士課程での数学的モデル化の研究につながっていきます。
そして、4年生でゼミの先生と出会い、数学教育学に興味を持ったことが大きいですね。それまで私は「答えを出す力こそが数学力」だと思い込んでいました。でも学ぶなかで気付いたのは、「解くプロセスの中にこそ学びがある」ということです。教育観も変わりました。教育とは知識を伝えることだと思っていましたが、今は、子どもの考えを引き出し、その考えを高めることだと捉えています。

「解くプロセスにどのような大切な考え方があるのか」ということに目を向けるようにしています。ただ、そのためには、子どもがどう考えるかをイメージすることが必要です。しかし、「1+1=2」のような自分がすでに理解していることを、「知らない状態」として想像するのは難しいですよね。
そこで学生たちに、10進法ではなく5進法でかけ算やわり算を考えてもらいます。すぐには解けない経験をすることで、子どもが何に難しさを感じているのか、思考そのものに意識が向くようにしています。「わからない」を体感することが、理解への入り口になるんですね。

私がこれからやりたいことは、教育界にプラスになるような質の高い論文を書くことです。日本の数学教育の論文だけでなく、海外に向けた論文も書いています。
また、研究授業を行った先生に対して、授業をよりよくするために視点や意見を伝える指導助言という立場の人が、どのようなことをしているのかを海外の研究者に伝える活動も行っています。
実は、「講師」「板書」「発問」などという言葉は一言では英訳ができないものであり、「授業研究」や「指導助言」など日本独自の取り組みは海外からも注目されています。
学芸大生や学芸大学を目指している高校生のみなさんに伝えたいことは、問題に向き合って自分で考えること、解けなくて悩んで壁にぶち当たる経験をたくさん積んでほしいということです。
わからないことに直面したら、近くにいる仲間や先生とアイディアを共有してみてください。大事なのは粘り強く問題に取り組むプロセスだと思っています。

清野辰彦
自然科学系 数学講座 数学科教育学分野 教授
福島県生まれ。小学生の時は、北海道の別海町で過ごす。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科数学教育博士課程修了。博士(教育学)。東京学芸大学附属世田谷小学校教諭を経て、山梨大学教育学部数学教育講座准教授に就任。2015年より東京学芸大学で勤務し、2022年4月より教授に就任。
現在、日本数学教育学会の理事をしているとともに、日本数学教育学会誌算数・数学教育の編集部長をしている。経済開発協力機構(OECD)PISA調査(数学的リテラシー)国内委員、経済開発協力機構(OECD)国際教員指導環境調査(GTI)ビデオスタディ国内専門委員を務める。現在、次期学習指導要領の改訂に関わる教育課程部会算数・数学ワーキンググループのメンバー。
「解いて答えを出すことよりも考えるプロセスに意識を向けること」という言葉が心に残りました。今まで答えが合っていなければ数学は始まらないと思っていたので、自分の考えがかなり変わるきっかけとなる言葉でした。「じっくり考える」ことを通して引き出しを増やしていきたいと思います。読者のみなさんが清野先生の言葉を通して考えることの大切さ、楽しさに気づいてもらうことができれば幸いです。
取材・編集/伊藤雪那、勢籏由夏

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