
edumotto+
知識を集めて未来へ。大学図書館の司書のお仕事って?
2025.01.30
edumotto+
2025.02.17
日本中が熱く盛り上がった2024年パリオリンピック。華麗な巴投で柔道女子48kg級の金メダルを獲得した角田夏実選手の姿も、鮮やかな記憶として残っています。
2024年11月13日、角田選手は母校である東京学芸大学で、「準備力」をテーマに自身の積み上げてきた柔道を語りました。柔道部の後輩の方との軽快なやり取りも交えた和やかな雰囲気ながら、波乱万丈な道のりとその乗り越え方には多くの学びがありました。
角田選手のこれまでの柔道人生は、まさに七転八起。父親の影響もあり小学校2年生で柔道を始め、中学2年生では見事全国大会への出場を果たします。しかし、待ちに待った全国大会の一回戦目ではまさかの13秒で敗北。悔しい思いをします。ただ、その悔しさをバネに高校ではより一層練習に励み、インターハイで5位入賞するなど実力を確実に伸ばします。それでも、思い通りの結果を出していくことは大変難しく、一時期は柔道以外の道を目指そうと思うこともあったそうです。
そんな中、東京学芸大学に推薦入試で入学し、学芸大学柔道部での練習を通して柔道の楽しさを再発見します。そうして、キャリア選択では柔道に専念させてもらえる会社に決めます。しかし、大学4年生の終わりごろに思いもよらぬ怪我をしてしまい、2年間で結果を出すことが求められる中、1年もの間リハビリに費やすことに。この苦しい時期にもがきながらも、「結果ではなく自分らしさを大切に」というコーチの言葉に励まされ、スランプを乗り越えることができました。階級変更など数々の挫折と葛藤を経験しながらもめげずに努力したことが実を結び、オリンピックで金メダルを獲るという栄光に輝くことができました。
講演中、特に印象的だったのは「不安に向き合う」ことの重要性でした。角田選手は、不安なことをあえて引き出し、その不安に対して環境、自分、相手の側面から向き合うことが大切だと話します。「負けたらどうしよう」「失敗したらどうしよう」とネガティブな感情の原因を見つめ、その一歩先を考えることで準備を重ねていきます。
そして、その準備力を磨いていくためには、予測力の向上が大切。試合に臨む前には、知らない相手と戦う場合も想定し、相手の動きや反応に対して自分がどう行動するか細かく考えていく。この緻密な予測に基づく準備が良い結果を生んでいくと言います。
ネガティブを覆い隠さず、自ら行動を起こしていくことで強みに変えていく。角田選手の強さの秘訣はまさにそこにありました。
角田選手の講演が終わると質疑応答の時間が取られました。
「苦手なことやネガティブな感情と向き合うことから逃げてしまう子どもたちが多くいます。(指導者だったら)どのような声をかけますか?」
教職大学院生からの質問に角田選手は、「もともと、私も不安から逃げてしまうタイプでした」と前置きした上でこう続けます。
「でも、やる前にできないと思ったら、チャンスは減ってしまいます。人生一回きり。やってみてできなかったらそこで考え直せばいい。失敗してもいいと伝えたい」
失敗を恐れず挑戦する姿勢が、次につながるのだと力をこめて語りました。
次にedumottoメンバーが質問しました。
「準備をしてもそのとおりにいかないこともあると思います。修正していくために大切なことは?」
角田選手は丁寧に答えてくれました。
「試合前の準備がうまくいかないこと、予想が外れてしまうこともあります。そんな時に大事なのは、準備の段階でデータや理論に基づいて分析することです」
最初は感覚で柔道をやってきたという角田選手。でも、1番になれなかった時、自分の限界を超えてひとつ上にいくためには、たくさん研究や努力が必要だと学んだそうです。自分の感覚だけでなく、目に見える形で相手の動きや傾向を分析し、粘り強く考えていくこと。それが試合での勝利へつながるのだと言います。
柔道で多くの努力を積み重ねてきた角田選手だからこそ説得力を持って響く言葉がありました。
初めての講演会に「緊張しちゃう」と本音を漏らしながらも自作のパワーポイントを使って丁寧に思いを伝えられた角田選手。根元の芯の強さがありながらも、時折表情や言葉に柔らかさを見せる角田選手のしなやかな人間性に、気づいたら虜になっていました。
今回の講演会のテーマであった「準備力」。アスリートのための言葉にも思えますが、私たち学生にも学ぶものがあります。課題提出、課外活動、就職活動に友人と遊ぶ時間。大学生活の中で忙しさに追われる毎日も、見方を変えるとすべてが明日を生きるための「準備」の時間なのかもしれません。将来を見据えたうえで好きなことも苦手なことにも果敢に向き合い、大学生のうちに多くの「準備」をすることで、明日の糧としていきたいです。
取材・編集/小沢真奈、居倉優菜
取材協力:アートアスレチック教育センター、情報メディアカフェオフィス